公開日 2014/10/02 11:30

マランツ澤田氏に訊く、ヘッドホンアンプ「HD-DAC1」で実現したHi-Fiアンプの理想形とは?

同社初のUSB-DAC/ヘッドホンアンプの全貌に迫る
構成:ファイル・ウェブ編集部 小澤貴信
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
DSD対応DACデバイスの創世記に音決めに関わった資産
■DACデバイスはDSDダイレクト変換に対応

HD-DAC1が採用したDACデバイスは、NA8005と同じ、シーラス・ロジック製「CS4398」である。DSDの処理についてはダイレクト変換を行う仕様としている。

「CS4398はDSD信号を入力したとき、ダイレクトに処理する方法と、途中でプロセッサーを通る方法の2つから選択ができます。DSDはPCMよりレベルが低いため、ハイブリッドのSACDでは、CD層とSACD層のレベルを揃える必要がありました。そこで、DSDはDACチップの中でプロセッサーを通してレベルを調整して、PCMと音量を揃えていたのです」。

マランツとシーラス・ロジック製DACの歴史について語る澤田氏

「しかしNA-11S1以降では、プロセッサーを通さずにダイレクトに出力する方式に切り替えました。HD-DAC1でも同様にDSDダイレクト変換を行います。よってDSD再生時のレベルはPCMより低くなりますが、レベル合わせをパスしてシンプルに処理できるので、音質面では当然こちらが有利になります」。

■マランツのシーラス・ロジック製DACへのこだわり

シーラス・ロジック製「CS4398」を使い続ける理由のひとつに、マランツがデバイスの原型となるDACの音決めに関わり、その素性を深く理解しているということがある。少し長くなるが、DSD黎明期の非常に興味深い話なので、澤田氏の語ってくれたエピソードをここに記しておきたい。

シーラス・ロジック「CS4398」は10年前に登場したDACデバイスだが、すでに5.6MHz DSDに対応していた

1999年にSACDが登場した。SACDはフィリップスとソニーが共同で提唱した次世代フォーマット。当時のマランツはフィリップス・グループの傘下にあり、グループ全体の初号機となるSACDプレーヤー「SA-1」はマランツから発売された。

「当時、フィリップス/マランツ陣営では、SACD専用のD/Aコンバーターを持っていませんでした。そこで、マルチビットを1ビットにデルタシグマで変換する『ビットストリーム方式DAC』を4回路パラレルに使うことで、SACDに対応したのです」。

「それでも、やはりSACDのDSD信号に対応したDACデバイスが必要ということで、フィリップスのセミコンダクターグループが開発を進めていました。しかし結果的にはフィリップスがセミコンダクター部門を手放すことになり、シーラス・ロジック社にフィリップスの開発部隊が移りました。そして最終的にはシーラス・ロジック社から『CS4397』というデバイスが出ました。これは今回のCS4398のひと世代前ですね」。

このCS4397の開発に際して、マランツ陣営は音質向上のためのアイデアを求められた。「もちろん我々はアナログ畑の人間ですから、DACのLSIの中身なんてわかりませんでした」と澤田氏は当時を回想する。「まさに畑違いだったのですが、アナログ畑の人間として、正確な計算能力のあるデバイスを作っていただくのもいいが、最後はアナログになって出て行くので、アナログ部分に十分な電流を流せるようにしてください、と要求しました」。そして澤田氏は、その試作品を段階ごとに音質評価することになった。

「最初の試作品は“なんだこりゃ”というレベルでした。普通に再生するだけでノイズが出ているという状態です。次の段階では、ある程度の改善は行われていたものの、音質には不安を覚えました。ところが、ステージ3まで来ると、それまでのビットストリーム方式DACを使った場合と比べても、霧が晴れたような音になっていたのです」と澤田氏。そこからさらに音質の追い込みが行われ、完成したDACがマランツのSACDプレーヤーに搭載されることとなった。

「CS4398」のダイアグラム

「DAC開発に協力したというか、我々からすると否応なく音を聴かされてレポートを書かされた、というような感じでした(笑)。『これが将来君たちの機械に乗るんだ』と言われて、首を捻りながら音質評価をしたものですが、最終的にはその甲斐あったと思えるものができました。それもあって、当時の技術が継承されているCS4398には親近感がありますね。それにしても、CS4398は登場から10年が経つDACですが、当時から5.6MHz DSDに対応していたのだから、大したものです」。

次ページゲインを切り替えるとサウンドの表情も変わる?

前へ 1 2 3 4 5 6 7 次へ

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
クローズアップCLOSEUP
アクセスランキング RANKING
1 XREAL、XREAL Oneが入った「開運福袋2026」を12/11から販売。200セット限定
2 HARBETHの魅力は“声”にあり!色褪せぬエバーグリーンなサウンドを、あえてのアニソンで斬りまくる!
3 5万円で激変、“DCリニア電源”をどう使う?トップウイングの「DC POWER BOX」徹底使いこなし!
4 AVIOT、LDACにも対応した1万円切りの“ピヤホン9”「TE-U1-PNK」
5 mora、ハイレゾ配信12周年キャンペーン第2弾スタート。「ハイレゾ大使」には森口博子が就任
6 『続・太鼓判ハイレゾ音源はこれだ!』#2【後編】- かつしかトリオ『“Organic” feat. LA Strings』リリース記念インタビュー
7 AURAS東京、シアターの常識を覆すかんたん操作&美しいデザインの“エンターテイメント空間”をカスタムメイド
8 LG、リアルタイムAIプロセッサー搭載の4K有機ELテレビ「OLED C5M」
9 【Qobuzダウンロードランキング】ブルーノート東京、夏の風物詩!矢野顕子トリオのライブ盤が1位にランクイン
10 Bowers & Wilkins、「801 D4」を六本木ISETAN SALONEにて特別展示。12/25まで
12/12 10:48 更新
音元出版の雑誌
オーディオアクセサリー199号
季刊・オーディオアクセサリー
最新号
Vol.199
世界のオーディオアクセサリーブランド大全2025
特別増刊
世界のオーディオアクセサリーブランド大全2025
最新号
プレミアムヘッドホンガイドマガジン vol.23 2025冬
別冊・プレミアムヘッドホンガイドマガジン
最新号
Vol.23
プレミアムヘッドホンガイド Vol.33 2025 SUMMER
プレミアムヘッドホンガイド
(フリーマガジン)
最新号
Vol.33(電子版)
VGP受賞製品お買い物ガイド 2025年冬版
VGP受賞製品お買い物ガイド
(フリーマガジン)
最新号
2025年夏版(電子版)
DGPイメージングアワード2024受賞製品お買い物ガイド(2024年冬版)
DGPイメージングアワード受賞製品お買い物ガイド
(フリーマガジン)
最新号
2025年冬版(電子版)
WEB
  • PHILE WEB
  • PHILE WEB AUDIO
  • PHILE WEB BUSINESS
  • プレミアムヘッドホンガイド
  • ホームシアターCHANNEL
  • デジカメCHANNEL
AWARD
  • VGP
  • DGPイメージングアワード
  • DGPモバイルアワード
  • AEX
  • AA AWARD
  • ANALOG GPX