この10年でAV/オーディオ業界を取り巻く環境は大きく変わった。これからの10年もさらなる技術革新により、ダイナミックにその姿を変えていくだろう。評論家・山之内 正氏が未来のAV/オーディオを予測する
 

音楽/映像の環境が劇的に変化した10年間

ふたつの世紀を横断したこの10年間は、音楽と映像を取り巻く環境が劇的に変化した時代であった。

初代iPod。当時の容量は5GBだったが、画期的な大容量と話題になった

音楽パッケージソフトはちょうど10年前の1999年がひとつの転換点で、国内初の本格的な音楽配信サービスとSACDはどちらもこの年に登場している。オンラインミュージックと超高音質盤という対照的なメディアが同時に姿を現したことは、音楽を楽しむスタイルの変化を先取りする象徴的な出来事といえるが、変化の流れを決定付けたのは、2001年秋に発売されたiPodである。

iPodが成功した理由をひとことで言えば、音楽ファンが潜在的に欲していた再生環境を他社に先駆けてシステムとして実現したことであろう。アルバム数百枚単位の音楽を持ち運び、時と場所を選ばず自在に楽しめる。その機能は、実現してみればどうということはないかもしれないが、最初に仕掛けを考案したアップルの功績は大きい。特に、現在でも基本的に同じ操作インターフェースで利用できるiTunesとiTunes Storeの使い勝手の良さは、iPodの普及に大きく貢献した要素として見逃すことができないと思う。ちなみに米国では今年、iTunes Storeの売り上げが音楽ソフト全体の25%に達し、市場全体でも今後1〜2年でダウンロード購入とCDの売り上げが拮抗するという予測もある。

iPodが利便性によって音楽と聴き手の距離を縮める役割を果たした一方で、オーディオの永遠のテーマである音質向上の担い手として登場したSACDは、iPodのようなメジャーな存在には成長せず、登場から10年後のいまもCDを置き換える存在にはなっていない。クラシックを中心に音にこだわるレーベルが優れた録音を発表し続けているので音楽ファンにとっては大切な存在だが、このままでは市場拡大は期待できないだろう。音楽ソフトの高音質化はどこに向かっていくのか、果たして今後10年間でどう進化していくのだろう。

映像メディアはDVDからBDへの世代交代がまさに進行中だが、BD規格に準拠した機器が発売されたのは2003年のこと。さらにBD-ROMが登場した2006年にはPS3が発売され、次世代メディアをめぐるBDとHD DVDの攻防に世界中で大きな注目が集まったことが思い出される。CDに端を発した大容量光ディスクの進化は、その時点で行き着くところまで来たという見方もあるが、いま10年というスパンで改めて捉え直すと、光ディスクにも次のステップが見え始めており、結論を出す段階には至っていない。

2003年4月に発売された世界初のブルーレイレコーダー、ソニー「BDZ-S77」

家庭用AV機器のなかで、この10年で一番大きな変化を遂げたのはいうまでもなくテレビである。ハードウェアはブラウン管から薄型テレビに急速な移行が進み、放送とパッケージメディアはSDからHDへと向かう本質的な変化がいまも進行中で、2年後にはアナログ停波という歴史的なイベントを控えている。最速でハイビジョンへの移行が進む日本の動向は世界中から注目を集めているが、その動きは今後どのような道筋をたどるのだろうか。

「これからの10年」を予想する

ここまでかんたんに振り返った通り、どの分野においてもこの10年間にかつてないほど大きな変化が起きたわけだが、それぞれの動きはまだ変化の途上にあるとみていいだろう。メディアの種類、形式などあらゆる局面で新旧が混在しているし、ネットワークの活用も本格化するのはこれからだ。

ここからは、2010年から2020年に至る10年間の流れを大まかに予想してみることにしよう。進化の速度が劇的に速まっているので具体的な話は難しいが、これまでの10年の動きから読み取れる近未来像を、希望を交えて探ってみたい。

前半とは逆に映像から考えてみよう。音楽の世界でデジタル化が引き起こした変化が映像の分野でも起こると考えれば、これからの変化がある程度見えてくるからだ。

ネットワーク映像配信の隆盛は必至

放送とパッケージメディアに次ぐ第3のメディアとしてネットワーク配信がすでに動き始めているが、CDとダウンロード購入の関係と同様、映像の世界でも徐々にネットワークの比率が高まることは必至の状況だ。

2009年秋、Blu-ray Disc Associationは、3年後の2012年に欧州で非パッケージメディアが占める割合を25%と予測したが、この数字は他の地域でもそれほど非現実的なものではなく、場合によってはダウンロード購入やストリーミングがさらに高い比率を占める可能性もある。その3年後、さらに5年後にも同様な変化が続けば、パッケージメディアの流通量が頭打ちになる計算だ。おそらく10年後の時点では、SD、HDコンテンツの大半は放送プログラムも含めてネットワーク経由で入手できるようになるだろう。

さらなる高速化が進んでもネットワーク経由の流通に適さない映像作品は物理メディアとして存続する可能性が高いが、現時点でその有力な候補は3Dや4K2Kなどのプレミアムコンテンツである。受け皿となるメディアは当面BDが有力だが、10年という長期間で見れば次世代メディアが登場する可能性も大きい。もちろんHDコンテンツのなかにも、たとえ10年後でもクオリティ最優先の作品などマニア向けにディスクで販売されるケースは少なくないと思うが、その場合はいま以上に付加価値の高さを求められるようになるはずだ。

映像コンテンツがネットワークで入手できるメリットの1つに、物理メディアよりも小さいコストで多くの作品を流通できる点が挙げられる。想定される販売数が少なく、BD化が困難な作品が増える一方という現状を考えると、ダウンロード購入の普及は、映像文化の見地からも大きな役割を担うことになるだろう。

ディスプレイや端末などハードウェアは、まだしばらく進化の速度が低下することはなさそうだ。液晶のさらなる高解像度化や有機ELの大型化など家庭用デバイスの進化に加え、モバイルやカーAVの環境も今後数年で劇的な改良が進むことが期待できる。現状では高解像な静止画、動画のエンコード/デコードや超解像処理にはかなりの演算能力が必要だが、その信号処理回路を内蔵したディスプレイやモバイル端末が短期間で家庭や自動車に浸透し、私たちが目にする映像は、あらゆる場面でいまよりも高い品質をそなえるようになるはずだ。その恩恵は最新のHDコンテンツだけにとどまらず、DVDなど既存ソースの再生品質がさらに向上する可能性も秘めている。

利便性と音質を兼ね備えた新たな音楽システムの登場に期待

音楽の世界では使い勝手と音質両面の変化が同時に、かつダイナミックに進行することを期待したい。iPodはポータブルオーディオに革命をもたらしたが、家庭ではいまだにPCがベースで、従来のインターフェースを引きずっている面がある。ホームオーディオではiPodのような革新的インターフェースはいまだに提案されておらず、従来のオーディオとiPodを張り合わせたような中途半端なシステムが幅を利かせているに過ぎないのだ。

おそらく今後数年のうちに画期的なシステムやソフトが提案され、一気に普及が進むような気がするが、それがどんな形態をとるのかは、現時点では予測が難しい。CDとダウンロード音源の両立を最初から想定し、直感的な操作で選曲が可能で、しかも音が良い。さらに、聴きたい音楽がたとえ手元になくても瞬時に検索し、ダウンロードしてすぐに楽しむことができる。個々の機能はすでにPCを含む一部のハードウェアが実現しているし、音質メリットの追求という点ではリンのDSが先行している。だが、それらの機能を統合した使い勝手のよいホームオーディオ機器が普及すれば、音楽はいま以上に身近な存在になるに違いない。

リン「KLIMAX DS」。山之内氏はDSシリーズのような高い音質を備えつつ、初心者でも手軽に扱える機器の登場を期待する

音楽と映像の両分野に共通することだが、これからはハードウェアのスペック面での進化もさることながら、それ以上に使い勝手などソフトウェアの進化が大きなカギを握ることが予想される。既存技術をベースにして登場したiPodが数年で音楽を聴くスタイルを激変させたように、映像やホームオーディオの世界にも革新的な変化が起こるかもしれない。その萌芽を、すでに私たちの周りに見出すことができるはずだ。

山之内 正

神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。

 

 

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