設立から10年のあいだ、Phile-webは数万本のニュース記事や数千本のレビュー記事を通して、AV/オーディオ業界の最新動向をお伝えしてきた。だがAV/オーディオの変化と進化は現在も加速度的にそのスピードを速めており、これからさらに大きな飛躍がもたらされるはずだ。そこで今回、Phile-webで活躍する著名評論家各氏に、AV/オーディオの未来を指し示す“キーワード”と、そのキーワードを現時点で体現している“VISIONARY”プロダクツを挙げてもらった。

【回答をお寄せ頂いた評論家各氏(敬称略/五十音順)
会田肇 / 石田善之 / 一条真人 / 井上千岳 / 岩井喬 / 大橋伸太郎 / 折原一也 / 貝山知弘 / 小林貢 / 斎藤宏嗣 / 鈴木桂水 / 炭山アキラ / 高橋敦 / 林 正儀 / 藤岡誠 / 村瀬孝矢 / 山之内 正

 
キーワード
「3D動画撮影」

VISIONARYプロダクト
フジフィルム「FinePix REAL 3D System」
「FinePix REAL 3D W1」。2組の撮像システムを持ち、3D映像を撮影することができる
ハイビジョン映像がいくら高精細化してもそれは平面的な世界でしかない。奥行きはその映像から伝わる雰囲気で判断するしかなかったのだ。しかし、真にリアルさを描くには見たままの立体感をそのまま再現することが望まれる。近年の圧縮技術は限られた容量に、より多くの情報を記録することを可能にし、この3Dシステムがそのきっかけをもたらすのは間違いない。システムはまだ改良の余地があると感じたものの、日常を3D映像で撮影記録する時代がすぐ間近に来ていると感じた。

石田善之
プロフィール
キーワード
「より進むであろうパーソナル化」

VISIONARYプロダクト
ゼンハイザー「HD800」
ゼンハイザー「HD800」。価格は16万円とヘッドホンの中でも最高級価格帯の製品だ
今やヘッドホンやイヤホンは多くの人にとって必需品だが、通勤通学はもちろん、まず要求されるのが小型軽量かつオシャレであること。しかし、HD800は大型で、しかも軽量ではない。ヘッドホンによるピュアオーディオを追求し、ハイエンドの世界を実現するべく、ただひたすら高音質を追求した結果誕生した製品だが、周囲の人に気兼ねなく、住宅環境などに関わりなく、大音量から小音量までを堪能することができる。

一条真人
プロフィール
キーワード
「ネットワーク」

VISIONARYプロダクト
ソニー「BDZ-RX100」
ソニーの最新BDレコーダー「BDZ-RX100」。DLNA機能を標準搭載しモバイル機器への転送機能も充実させた
写真、動画などのメディアのデジタル化が進む現在、それらをストレージするためのデバイスは、今後、より一般的になっていく可能性が高い。そして、他の再生機器での視聴のためにいちいちメディアにダビングしていては手間がかかるため、DLNAなどネットワークで配信できることが重要になる。また、アクトビラのようなメディアのネットワーク配信は今後、より一般的になっていくであろうし、それを視聴できるだけでなくモバイルデバイスにも転送できる点を高く評価した。

井上千岳
プロフィール
キーワード
「USB」

VISIONARYプロダクト
Aura「note」
Aura「note」。さらにブラッシュアップした「note premier」が出荷開始された
これまでの記録媒体は、ほぼ全てが回転メディアであった。USBを始めとする固体メモリーは回転機構がないだけでなく、ほぼ回路の一部として動作する。これが音質に大変有利であることは明らかだ。またUSB端子を通してPCと接続すれば、インターネット経由で直接ソフトを入手することも可能である。noteはアンプ一体型のCDレシーバーだが、豊富なUSB端子を備え、その可能性にいち早く対応した最先端モデルとして注目される。

キーワード
「音楽パッケージメディアの存在意義」

VISIONARYプロダクト
Aura「neo」
AuraのCDプレーヤー「neo」。ケネス・グランジ氏が手掛けた美しいデザインも魅力だ
恐らく一般的には高音質配信も含めダウンロードコンテンツへと移行してゆくだろう。そう考えるとiPodなり、iTransport、そしてワイヤレスヘッドホンなどが今後の鍵となりうる存在だと思うが、音楽の質を保持する意味でもパッケージメディアの存在意義は譲れない。Blu-rayディスクを用いた高音質メディアが生まれる可能性もあるが、パッケージメディアを楽しむオーディオ機器が高級機だけとなってしまっては、先細りにもなりかねない。低価格でありつつ、モノとしての魅力に溢れたデザインと機能性、このテーマを具現化している製品としてAURAの血統を受け継ぐCDプレーヤー「neo」が挙げられる。ケネス・グランジのデザインは、いつの時代にも通用する上品なものであると同時に、音質、機能性も兼ね備えたうえ、日々の生活を彩るツールとして決して高すぎない価格設定も魅力的であると思う。

大橋伸太郎
プロフィール
キーワード
「大画面視聴覚の真摯な追求」

VISIONARYプロダクト
マランツ「UD9004」
現時点で世界最高級のBDプレーヤー、マランツ「UD9004」
ホームシアターという文化が日本に入って20年が過ぎた。導入期は終わり、定着と深化の時期に入った。インテリアとの融合や、カジュアルなど様々な提案や試行錯誤があったが原点に戻り、大画面での視聴覚を真摯に追求する時期にあると思う。4K2K、3D視野に入ってきた時期だからこそ、現行の1080pでのポテンシャルを最大限引き出し、次の世界への準備を怠りなくしたい。映像の美しさで最近感銘を受けたUD9004を強く推す。

折原一也
プロフィール
キーワード
「デジタル・コンテンツ・サーバー」

VISIONARYプロダクト
パナソニック「DMR-BW970」
ワンセグ持ち出しの好評を受け、デジタルコンテンツの持ち出し機能を拡充させたパナソニック「DMR-BW970」
テレビの録画番組やビデオカメラの映像、撮影した写真、ネット映像配信、音楽etc...。家庭内にある多様なAVコンテンツへのアクセスを融合し、利用者の望む形で提供する。これを可能とするのがデジタル・コンテンツ・サーバーというキーワードだ。BD、テレビ放送、ビデオ、写真、「アクトビラ」や「YouTube」とネットメディアへのアクセス手段を持ち、テレビ視聴、BD保存、携帯電話転送、DLNAと自在に引き出せる「DMR-BW970」は、実現可能な最先端の姿を体現した製品のひとつである。

貝山知弘
プロフィール
キーワード
「インディヴィジュアルな楽しみが残るハイクォリティ・ネットワークオーディオの希求」

VISIONARYプロダクト
リン「DSシリーズ」
リン「KLIMAX DS」。貝山氏はMAJIK DSの導入を検討しているという
ごく近い未来を対象にした設問なら、私は「ネットワーク・オーディオ」と答えます。目下導入を計画している機器はリンの「MAJIK DS」です。しかしこれは「小手調べ」に過ぎません。本格的に始めるのは、自分が満足できるクオリティが得られた時からです。恐らくその時には〈ネットワーク〉を相手に、今までと同じ様に「オーディオしている」自分自身を発見しているでしょう。インディヴィジュアルな行為が入り込む余地さえあれば、楽しみはどこにでもあります。機器の組み合わせやアクセサリーについてうるさく言っているに違いありません。ピュアなマルチチャネルを切望することなどは間違いなさそうです。単に簡便さがメリットであるものなら、1ヶ月もすれば厭きてしまうでしょう。ただ、ソフトの所有と保管を問題にするなら話は別です。いま地震が起こったとしたらさまざまなディスクに埋もれてしまうことはまず間違いないでしょうから…。

キーワード
「メカニズムを持たないソース」

VISIONARYプロダクト
リン「DSシリーズ」
小林氏も自宅でリン「DSシリーズ」を愛用中。HDDからフラッシュメモリーへのデバイス移行にも注目しているという
近い将来メカニズムを持たないソース系ユニットが主流になると思う。既に英国のリン ブランドからDSシリーズが登場している事実が、それを物語る。同シリーズは大容量HDDなどにCDのデータを移し再生する。音楽再生にパソコンを使うというとコンピューター・ミュージックやポータブルプレーヤーの圧縮音源を連想する方も多いだろうが、デジタルデータを扱うなら大容量で読み取り精度の高いHDDがCDPより有利になるのは明らかだ。USBメモリーやSDなどのメディアが主流になる日も近いのではないだろうか?

斎藤宏嗣
プロフィール
キーワード
「純粋A級アンプ」

VISIONARYプロダクト
アキュフェーズ「A-65」
純A級ステレオパワーアンプ、アキュフェーズ「A-65」。消費電力は530W
高品位ソースの緻密な音楽情報を全て再生音に反映するパワーアンプとして、アキュフェーズの純粋A級アンプが圧倒的な人気である。世界中がエコに向かう環境下で、エネルギー(電力)をタップリと消費して高品位の音楽情報を引き出すこの構成は、オーディオ製品ゆえ批判されないのだろう。より高効率のAB級動作やデジタル・アンプもあるが、趣味の世界の些細な贅沢である。筆者も「A-65」でエネルギーを大いに消費している。

鈴木桂水
プロフィール
キーワード
「レコーダーテレビ」

VISIONARYプロダクト
三菱電機「REAL BHRシリーズ」
HDDとBDを内蔵した三菱電機の“REAL”BHRシリーズ。まさに「全部入り」のレコーダーテレビだ
2011年に向けていままで以上のテレビの買い替えが進む中、最も注目すべきは録画機能を備えたレコーダーテレビだと筆者は感じている。理由はひとつ。レコーダーテレビにはこれまでのテレビに比べて、実感できる便利さが備わっているからだ。レコーダーテレビなら、画質だけでなく、これまで使ってきたテレビとは違う“カンタンに単体で録画できる"というメリットがある。このプラスαの恩恵こそ、テレビ買い替えのメリットではないだろうか。画質優先派は別にして、これからの普及型テレビは簡単操作のレコーダーテレビが主流になると断言しよう!

炭山アキラ
プロフィール
キーワード
「増幅素子」

VISIONARYプロダクト
アキュフェーズ「PX-650」
アキュフェーズの6チャンネル・デジタル・パワーアンプ「PX-650」
ピュアオーディオの世界で10年前というと、デジタルアンプと真空管が隆盛となる芽が出たころだった。おかげで今はアンプ業界にいくつも大輪の花が咲き、アナログ増幅のソリッドステートを含め、各種の方式による表現の違いを味わい放題となっている。これからの省電力時代、高効率のデジタルアンプがますますシェアを増してゆくのは間違いないだろうが、10年後もこの3者がそれぞれの持ち味を聴かせてくれていてほしいものだ。今でこそ高級アンプで高効率増幅は珍しくなくなったが、その可能性を私にいち早く知らせてくれたのはアキュフェーズ「PX−650」だった。以来自宅レファレンス・5ウェイシステムの要として活躍してもらっている。

キーワード
「高音質配信とその再生機」

VISIONARYプロダクト
Linn Recordsの高音質配信とリン「DSシリーズ」
高橋氏はリンのDSシリーズと音楽配信サービスをセットで推挙。写真は「KLIMAX DS」
LPの時代を体験せず、iPod/iTunesのロスレス対応以降はCDに触れる機会さえも減った。そんな世代の僕であっても、LINNがDSで提示してきた「物理メディアを回転させるよりこっちのがピュアでしょ?」には驚かされた。しかし音を聴いて納得させられた。純度を追求するなら、ここに行き着くのは必然なのかなと思わされた。この方向への進化はLPを圧迫することはないだろうとは思う。だがCD、SACDはどうだろう。考えはまとまらない。

キーワード
「3D」

VISIONARYプロダクト
JVC「GD-463D10」
(業務用フルハイビジョン3D液晶モニター )
JVCのフルハイビジョン3D液晶モニター「GD-463D10」。3D対応のBD機器の発売も近いはずだ
ポストフルHDの一番手として有力視されているのが3Dテレビだ。すでに業務用ではビクターが発売を開始。2010年にはパナソニックが民生のトップに名乗りをあげている。フルHDのクオリティを保ったまま3D化する技術(方式)や、それをサポートするHDMI1.4や放送規格の策定も急ピッチだ。もちろん2層で50GBの容量をもつBDには、2D/3D映像を記録できる。ゲーム、放送、AV機器を包括する3D時代はすぐそこである。

キーワード
「音楽配信=脱パッケージメディア」

VISIONARYプロダクト
リン「KLIMAX DS」
現時点で最高の性能・機能を持つと藤岡氏が太鼓判を押す、リン「KLIMAX DS」
「Phile-web」が早くも10年。そして今後のオーディオは果たして如何なる方向か? オーディオ界や音楽産業が悩みつつも模索している『音楽配信=脱パッケージメディア』に注目。音楽メディアはパッケージからデジタルデータ配信に様変わり。その流通はインターネットのデジタルネットワークが支えることになりそうだ。オーディオ側の先駆として挙げられるのがリンの「KLIMAX DS」。現時点で最高の性能・機能を持つ。

村瀬孝矢
プロフィール
キーワード
「LED光源プロジェクター&ディスプレイ」

VISIONARYプロダクト
オプトマ「PK102」ほか
LEDを光源に用いたポケットプロジェクター、オプトマ「PK102」
このところのエコ促進化の流れに沿いプロジェクター&ディスプレイもLEDライト(光源)採用の動きが急だ。薄型ディスプレイほどプロジェクター(投写型ディスプレイ含む)はまだ主流ではないが、早期にLED化されると見る。業務用ではクリスティのリアプロでも具体化されたが、DLP単板式にまつわるカラーブレーキングから解放され、フルHDの低価格化が見込まれる未来が描けるからだ。だからLEDライト型プロジェクターを注視したい。

山之内 正
プロフィール
キーワード
「ネットワーク」

VISIONARYプロダクト
リン「KLIMAX DS」
山之内氏の自宅試聴室でフル稼働中のリン「KLIMAX DS」
ネットワークを音楽データが自在に行き交う時代、音楽を楽しむスタイルは大きく変化してきたが、これからは変化のベクトルがクオリティの向上にも向かう。リンのDSはその変化を先取りするメディアプレーヤーの代表で、頂点に位置する「KLIMAX DS」は、次世代を担うハイファイコンポーネントの象徴というべき存在だ。音の源流=マスター音源に近付く流れの牽引役にふさわしく、アップグレードによる進化の継続を今後も期待したい。
 

 

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