タンノイから「ディフィニション」と銘打たれたシリーズが新たに登場した。実は同じ名称のシリーズが90年代に存在していたのだが、本シリーズはそれとはまったく別物である。新ディフィニションシリーズは本物志向のピュアオーディオ愛好家をターゲットとしており、AV使用を目的としたセンタースピーカーやサブウーファーは用意されていない。このことからみても、本シリーズのオーディオ的性能と音楽表現力の高さが窺い知れる。

Definitionシリーズ

早速、その内容を見ていくことにしよう。ディフィニションシリーズは現在のところ3モデルから構成されており、「DC8」はブックシェルフ型、「DC8 T」と「DC10 T」はトールボーイ型である。ちなみに「DC」はデュアルコンセントリックの頭文字だ。したがって、当然のことながら、タンノイのお家芸であるデュアルコンセントリック、すなわち同軸2ウェイ方式のドライバーユニットが使用されている。

二つの振動板を同軸上にマウントし、ウーファーのカーブがトゥイーターのウェーブガイドの役割も果たす同軸型ドライバーユニットの利点は、低域と高域の音波を同心円状に放射できることだ。これによって理論上の理想的な音像定位が得られる。

デュアルコンセントリックドライバーの構造。低域と高域の音波を同心円状に放射できることで、理論上の理想的な音像定位が得られる

ディフィニションシリーズに搭載された同軸ユニットには、ネオジウムマグネットで駆動されるワイドバンド・トゥイーターが搭載されており、再生帯域の上限はスーパートゥイーター領域の35kHzにも達する。

ウーファーの振動板の素材はマルチファイバーと呼ばれるものだ。これはいくつかの異なる種類の繊維を混入したペーパー素材で、高剛性化と軽量化が同時に達成されているほか、可聴帯域での分割振動もかなりの確度で抑えられている。外からは銀色のリムに隠れて見えないが、この同軸型ドライバーユニットのアルミダイキャスト製のシャーシは、10ポイントでフロントバッフルに固定されている。

「DC8」はもちろんだが、「DC8 T」と「DC10 T」の同軸型ユニットも「DC8」と同様にフルレンジで使用されており、同軸の低域側はハイパスフィルターを通していない。フロントバッフルの下部にマウントされた低域ユニットはサブウーファー的に動作しており、ローパスフィルターの定数は、「DC8 T」が250Hz、「DC10 T」が200Hzである。したがって、「DC8 T」と「DC10 T」は3ウェイというよりも、2.5ウェイと解釈すべきであろう。3モデルともリアバスレフ方式だが、「DC10 T」はダクトがダブルになっている。

クロスオーバーネットワーク回路は伝統的かつ斬新だ。プリント基板は使われておらず、各パーツ間はバン・デン・ハルのシルバーコーティング・ケーブルで配線されている。パーツには低損失ラミネート・インダクターやポリプロピレン・フィルムコンデンサーが使用されている。なお、このネットワーク回路にはディープ・クライオジェニック処理(マイナス190度で冷却処理し、一定の時間管理で常温に戻すプロセス)が施されている。入力端子はバイワイヤリング仕様で、昨今のタンノイのモデルと同様、アース端子もある。

   
本シリーズの背面部(左からDC8、DC8 T、DC10 T)。バイワイヤリング仕様で、昨今のタンノイのモデルと同様、アース端子もある

エンクロージャーは、タンノイのピュアオーディオ専用モデルとしては極めてスリムで現代的だ。フロントバッフルのエッジは面取り処理がほどこされており、サイドバッフルは後方に向かって曲面状にテーパーしている。

エンクロージャー内部の様子。ブレーシング(内部補強板)構造を採用し、独自のDMT(ディファレンシャル・マテリアル・テクノロジー)防振材を介して補強板の一部がドライバーユニットをより強固にエンクロージャーに固定

エンクロージャーの素材は、寒冷地で育成されたバーチ(樺)材だ。一般に寒冷地で育った樹木は年輪の幅が狭く、MDF等のような素材と同様な高い密度と天然木ならではの自然な響きが得られる。

外観は極めて美しい。表面は突き板仕上げが施されており、ブラック、チェリー、ダークウォルナットの3色から選択することができる。ブラックは鏡面のように磨き上げられたミラーグロス・ピアノ仕上げだが、仕上げにはキズがつかないようラッカーが塗布されている。チェリーとダークウォルナットは良く見ると表面の木目が左右対称で、これらもラッカー塗装が施される。なお、「DC8 T」と「DC10 T」の底面には付属のスパイクが装着可能だ。

表面は突き板仕上げが施されており、外観は極めて美しい

昨今は英国やヨーロッパのメーカーでも生産の拠点を中国に移しているケースが多いが、ディフィニションシリーズは正真正銘のUK製である。また、同シリーズの価格を為替換算してみると、本国のそれと同等か、それ以下であることが分かる。

説明を受ける石原氏。その外観も含め新しいシリーズ高いパフォーマンスに驚嘆の声を上げるほどであった

試聴テストは輸入元の試聴室で行った。ドライブエレクトロニクスはすべてエソテリック製で、ディスクトランスポートが「P-05」、DAコンバーターが「D-05」、クロックジェネレーターが「G-0Rb」(176・4kHzで同期)、プリアンプが「C-03」、パワーアンプが「A-03」である。

まずは「DC8」から聴いたのだが、型番が示す8インチ=20cmの同軸一発の良さがストレートに出た印象だ。そのサウンドはハイスピード&ハイディフィニション。ジャズは切れ味が鋭くエネルギッシュで、あまり音量を上げなくてもスピーカーをフルスイングさせた時の快感が得られる。トランペットとサックスを擁するクインテットでもアンサンブルが混濁することはなく、高分解能が保たれる。

   
Definition DC8(ウォルナット)
  Definition DC8(チェリー)   Definition DC8(ブラック)

ジャズボーカルは絶品といっても過言ではない。声の質感が極めてナチュラルで、同軸ユニットにありがちな「ひっかかり感」(トゥイーターとウーファーを単一パーツ化すると、つながりの部分にどうしても無理が生じる)がない。音像に輪郭のない声がぽっかりと空中に定位し、リスニングポイントに囁きかける。

クラシックはタンノイの伝統を踏まえた格調の高いものだ。ピアノソロ楽器のフレームのフォルム表現や和音の残響感表現は同価格帯の他のモデルを大きく凌駕している。また、表情変化への追随性が素晴らしく、音楽が非常にドラマティックだ。

大型室内楽はこの種のブックシェルフ型としてはパーフェクトであろう。音量さえ許せば、ピアノ五重奏をほぼ等身大に描けるのだ。オーケストラものも素晴らしい。古典派までの交響曲はもちろんのこと、ブルックナーやマーラーのような後期ロマン派の大交響曲でさえ、抜群のスケール感と艶やかな質感で描き切ってしまう。

「DC8 T」は基本的に「DC8」と同じ傾向の表現だと認識していただいていいだろう。ただし、同じ口径の低域ユニットの追加は効果的で、低音の余裕が著しい。

   
Definition DC8(ウォルナット)
  Definition DC8(チェリー)   Definition DC8(ブラック)

とくにジャズや大型編成の交響曲では有利で、前者ではベースやドラムスの、後者では強奏時におけるコントラバスやトロンボーンやティンパニをはじめとする低音打楽器の解像度等にアドバンテージがある。その反面、わずかだが「DC8」よりもスピード感が後退する局面もあった。

「DC10 T」は前二者とはニュアンスを異にするモデルである。8インチ口径のドライバーがラバーエッジを採用しているのに対して、「DC10 T」の10インチ=25cmのそれはハードエッジ。したがって全体の質感がカラッと乾いていて、その表現はよりオープンで闊達だ。

   
Definition DC8(ウォルナット)
  Definition DC8(チェリー)   Definition DC8(ブラック)

ジャズは巨大な試聴室を飽和させるほどの音量でも危なげが全くない。ボーカルはよりニュートラルな印象をうけた(したがって、アンプ等の選択でどのような方向にももっていけるだろう)。クラシックはスタジオモニターのようなスケール感とダイナミクスが得られる。

これら3機種に共通しているのは、伝統的な味わいを残しつつも、現代のハイエンド機と実質的に同等のパフォーマンスとミュージカリティを備えていることだ。本シリーズは、タンノイの新時代の「顔」としての役割を果たしていくにちがいない。

 
輸入元から
ここにご紹介するディフィニションシリーズは、トゥイーターのワイドレンジ化がもたらす広大なサウンドステージと同軸2ウェイ伝統の正確な音像フォーカスを誇り、タンノイ本来の豊かな音色がさらにきめ細かくブラッシュアップされています。美しい外観同様に磨き抜かれたタンノイ・トーンを存分にご堪能ください。(エソテリック株式会社)
 
筆者プロフィール
石原 俊   Shun Ishihara

慶応義塾大学法学部政治学科卒業。音楽評論とオーディオ評論の二つの顔を持ち、オーディオやカメラなどのメカニズムにも造詣が深い。著書に『いい音が聴きたい - 実用以上マニア未満のオーディオ入門』 (岩波アクティブ新書)などがある。