TANNOYといえば80年以上の歴史に培われたPrestigeシリーズが大きな存在で、デュアルコンセントリックと呼ばれる伝統の2ウェイ同軸型ユニット構成と、音に併せて高級家具や調度品並みの高度な木工技術が魅力である。

Definitionシリーズに搭載されたデュアルコンセントリック(同軸2ウェイ)ドライバーの構造。伝統あるタンノイ独自のデュアルコンセントリック方式に、新たに改良を加えた新開発ユニット。またトゥイーターには、高域特性を誇るチタニウムドームスーパートゥイーターを採用。デュアルコンセントリック・ドライバーに統合されている。またトゥイーターユニットには強力なネオジウムマグネットを採用し、高いパフォーマンスを引き出している

今回登場したDefinitionシリーズでも、屋台骨ともいえるデュアルコンセントリックに新しい技術を加え、外観にも十分にこだわって作られていて美しい。方向性は異なるもののコンセプトとしてはPrestigeと重なる部分があるようだ。ピュアオーディオファンを意識して2チャンネルにこだわったシリーズで、センタースピーカーやサブウーファーも用意されない。20cmと25cmの新しいデュアルコンセントリックが作られ、3機種が製品化されている。トールボーイは同軸と同口径で、ウーファーで低域を強化し、スケール感をより表現しようというものである。

 
トールボーイの「DC10 T」と「DC8 T」、ブックシェルフの「DC8」の3モデルをラインナップ。デュアルコンセントリックに新しい技術を加え、外観にも十分にこだわって作られていて美しい

このデュアルコンセントリックは、ツインマグネットシステムで、構造的にはタンベリーやスターリングなどと同じだが、トゥイーター側のマグネットはネオジウム、ダイヤフラムにはチタンドームが採用されている。その成果はスーパートゥイーター領域まで高域特性を伸ばしていることだ。カタログには、35kHzで6dB落ちとあり、大変なワイドレンジのトゥイーターということになる。トゥイーターとウーファーは同一のカーブを描くホーンとなるのが特徴で、優れたタイムコヒーレンスと点音源が得られ、放射角はトゥイーター、ウーファーとも90度に及ぶ広さである。

また、ウーファー部分は高い剛性と軽量化を実現するために、長さの異なるファイバー繊維を数種類組み合わせてパルプに混入し、高圧縮加工を施したマルチファイバー・ペーパーコーンが使われ、20cmはラバーロールエッジ、25cmはツイン・ロール・ハードエッジである。20cmも25cmもフレームはアルミダイキャスト、エンクロージャーには10カ所でネジ留めされている。

「DC8 T」の下側のウーファーは250Hzを、「DC10 T」は200Hz以下がそれぞれプラスされ、そのフィルターはラミネートコア型のインダクターが使われている。同軸ユニットのクロスオーバー1.5kHzないしは1.4kHzで、高域側は6dB/oct、低域側は12dB/octのフィルター特性を持たせている。

 

トールボーイの2機種にはウーファーを追加。「DC8 T」(左)には250Hzが、「DC10 T」(右)は200Hz以下がプラスされている

そしてこれらのネットワークの構成はボード上にまとめられ、各部品間を直結するハードワイヤリングされている。ここで興味深いのは、ネットワーク回路部分がマイナス190度で冷却処理され、一定の時間管理の下で常温に戻されるディープ・クライオジェニック処理という技術が用いられていることで、キャパシターやインダクターなどのパーツ内部ストレスを、恒久的に減少させるための処理である。

エンクロージャーはバッフルから後方に向けて絞り込まれ、曲線を描くラウンド型である。このカーブは放物線の形状で外観的な美しさにも大きく貢献しているが、内部でも定在波をはじめとする内部反射を効果的に抑える役割を果たす。

エンクロージャーの素材はバーチ(樺材)、しかも寒冷地で育った年輪密度の高いロシア産を積層合板とし、板厚は18mmだが、「DC10 T」のバッフルは21mmとより強化されている。放物線の形状は加熱処理されているが、木工や塗装仕上げも含め、全てヨーロッパで行われているという。

美しいシェイプが印象的なバーチ材のラウンドエンクロージャーは響きの美しいプレミアム・グレードの木材だけを厳選して使用している

表面は天然木仕上げで、3機種ともブラック、チェリー、ダークウォルナットの3色から選択できる。いずれもピアノ塗装と呼ばれる光沢のある美しい仕上げで、まさに塗っては磨きを繰り返し、しかもクリア層を厚くして深みを出している。

Prestigeシリーズを家具調度品と表現したが、こちらはブラックがまさにピアノそのもので、チェリーはリュートなどのような美しい木目と輝きがある。ダークウォルナットも落ち着き感のある深い色合いで、まさに一級品である。

またユニットの取りつけネジなどを見せないよう、金属のトリムプレートが使われ、塗装にマッチして質感を高め、フロントネットもマグネットキャッチで突起物や穴などを持たない。隅々までこだわりを感じさせる。

本シリーズはユニットのねじ留めが見えないようにデザインされているが、背面にあるダクト部にも同じ処理がされている。普段目に見えない部分にもデザインが施されているのには驚かされる。また、バイワイヤリング接続可能なドイツWBT製のスピーカー端子を採用し、独自のアース端子も装備している。接続しやすいように考えられた端子配列も新しい工夫である

「DC8」はこのシリーズで最もコンパクトだが、20cmウーファーは中低域から低域に対して視覚から想像する以上の力があり、いわゆるコンパクトシステムのサウンドとは異なった安定感の高さを聴かせる。

 
ブックシェルフ型の「DC8」はコンパクトシステムのサウンドとは異なった安定感の高さを聴かせる   Definitionシリーズの説明を受ける石田氏。その仕上げと細かいこだわりに、しきりに感心していた

また高域も素直に伸びきっているが、ボーカルのサ行が強められたり、キツサにつながったりという要素はない。スーパートゥイーター領域までF特が伸びているということは、可聴帯域内が非常にスムーズであることを物語り、クロスオーバー周辺もスムーズで、音色的な大きなクセも感じさせない。それだけに素直なサウンドということができよう。

印象的だったのは、チェンバロ独奏の中低域がしっかりとしていることで、音には厚みがあり、そのなかにほど良い輝きや楽器の持つ金属弦の質感を過不足なく聴かせ、演奏の繊細さや立ち上がり、余韻の滑らかさが美しい。同軸のメリットというか、広い空間を感じさせる音場性も見事である。

「DC8 T」ではさらにたっぷりとした、ある種のゆとりをも感じさせる伸びやかさで、音場の重心が下がることでもうひとつの安定感を聴かせる。この中域から中低域の密度の高い質感こそがエンクロージャーの素性の良さであり、丹念な仕上げによる音の深みのようなものを感じさせる。
 
「DC8 T」はある種のゆとりをも感じさせる伸びやかさ   今回の試聴は、エソテリックの新しい試聴室にて行われた

オーケストラの低音楽器の力や動き、そして躍動感が音楽の表情にもうひと回り大きなスケールを感じさせ、窮屈さのない、伸びやかで奥行きのある音場が展開される。バリトンが2本のスピーカーの間に浮かび上がる音場感はモノラル的に固まることなく、柔軟な動きで自然さを感じさせる。

「DC10 T」は、音が出た瞬間からやはり大型システムの良さを感じさせる。楽々としたゆとりや25cmウーファー2本で合成される低域は、大口径ウーファーに匹敵するような力で引き締まっている。

 
音が出た瞬間から大型システムの良さを感じさせる「DC10 T」   試聴に組み合わせた機材は、セパレート型プレーヤーとしてエソテリックのP-05/D-05とマスタークロックジェネレーター G-0Rb。アンプ系は同じくエソテリック初のステレオプリアンプC-03 と純A級ステレオパワーアンプA-03

特にオーケストラのffでの低音楽器がきっちりとエネルギーを聴かせ、グランカッサもローエンドまで十分に空気を揺るがせる力があり、大型のゆとりと魅力がある。それでいてジャズのボーカルは2本のスピーカーの中央にほぼ等身大の音像を聴かせ、ポッと浮かび上がる音像はホーントゥイーターならではの積極性といえそうだ。

このDefinitionシリーズはその姿、形、また仕上げの色など選択するうえでの自由度が高い。その質感の高さからより快適な現代空間にマッチした、新しい存在といえそうである。

 
筆者プロフィール
石田善之  Yoshiyuki Ishida

東京・江古田生まれの江古田育ち。日本大学芸術学部放送学科卒業後、インド、アフガニスタン、中近東を友人と車で1年かけて回り、自作の録音システムで音楽収集を行う。このときの音源は日本コロムビアから4枚組のLP『オリエントの民族音楽』として発表され、昭和44年度文部省主催芸術祭優秀賞を受賞している。その後、岩波映画社にて数々のドキュメントや音楽の録音を担当。20代からオーディオ誌への執筆をスタート。その的確で筋の通った評論は、長期に渡って多くのオーディオファンに支持されると同時に、オーディオ界に多大な影響を与えている。