マランツショールームの試聴室で同社のSA-7S1、PM-11S2と組み合わせてセンタースピーカーを除くCMシリーズの全機種を試聴した。ここではCM1/CM7との比較結果を交えつつ、CM5とCM9の印象を紹介していく。

CM1をじっくり聴き込んだ後、CM5の試聴を行う山之内氏。特に低音の制動力が進化していると評価

コンパクトな2ウェイブックシェルフのCM5の最終的な追い込みは、800シリーズやSignature Diamondの開発でもおなじみのベテランエンジニア、ジョン・ディブ博士が担当した。CM5の音調は、低音の質感に対する同氏のこだわりをはっきりと聴き取ることができた。

CM1も低音がよく伸びるスピーカーであり、その周波数バランスにはなんの不満もないが、その良さを受け継ぎつつ、CM5はすっきりとした制動感のある低音に進化している。

ヤルヴィのベートーヴェン交響曲第7番で低音の余韻に余計な付帯音が残らず、すっきりとした演奏の特徴をとても素直に引き出していることがその進化の証だ。低い音域にたっぷりエネルギーが乗っているマリンバの演奏でも、その素直な低音のメリットを実感することができた。

一つひとつの音の粒立ちがクリアで、打点が明瞭な点はCM1と共通だが、CM5はそこに密度と芯の太さが加わり、それだけ音の実体感が増す印象を受けた。それにしてもCM1の音はいま聴いても鮮烈な響きをまったく失っておらず、藤田恵美が歌うギター伴奏のボーカルでは、そのリアルな質感とアコースティック感の描写のうまさに舌を巻く。聴き比べればCM5の方がギターのアルペジオがさらにクリアで発音にゆとりがあり、声のトーンもより幅が広いと感じるのだが、それは今回のように完全な同一条件で厳密に比較して初めてわかること。そこまでシビアな比較でなければ、音調が近い姉妹機として両機種に共通点が多いことの方が記憶に残るだろう。

そのことを前提に、あえて両者の違いをもう一つだけ紹介しておこう。低音は量感自体には大きな差はないが、同じ音域の楽器同士が重なったときのセパレーションや和音の響き具合はCM5の方が精度が高い。たとえば、ヘンデルのオペラアリア集(ソプラノ:ダニエル・デ・ニース)の伴奏音形にときおり出てくるテオルボ(ギターの仲間)とチェンバロが同じ音を演奏する部分では、CM1よりもCM5の方が2つの楽器の響きの違いをはっきりと鳴らし分け、それによって厚みと広がりのある響きを作り出していることがよくわかるのだ。

ベートーヴェンの交響曲で低弦の動きにスピード感が乗るのは、CM5が弓のスピードや奏者の息遣いまでリアルに描写することに理由がありそうだ。ネットワークの回路構成がさらにシンプルになって、空間の見通しや微細な情報が従来以上によく聴き取れるようになったのであろう。


続いてCM9とCM7を比較試聴。「CM9は別格」と山之内氏

CM7とCM9の差は、コンパクト2ウェイ同士の比較よりもずっとわかりやすく、想像を超える違いが存在していた。ひと言で言えばサウンドのスケール感と余裕。同じCMシリーズのなかでも別格と呼ぶべき鳴りっぷりの良さがそなわっている。

シンセサイザーを加えたシンプルな編成のジャズボーカル(ジャンマリア・テスタ)では、低音の持続音のピッチが安定し、超低域のレンジに音が下がってもその安定感がまったく揺らがない。最初の音はCM7でも音程が正確で音色も鮮明に聴き取れるが、最低音域に近付くと若干の曖昧さが感じられるのに対し、CM9はその深い音域まで音色感を失わないのだ。この違いは低音の質感にこだわる音楽ファンにとってはかなり重要な部分だが、その良さを引き出すためには、組み合わせるアンプに駆動力に余裕のある上質な製品を選ぶことが前提になりそうだ。

ボーカルの音域になるとこの2機種の差はかなり小さくなるが、CM7のすっきりとしたイメージと、見通しの良さのなかに深さをたたえたCM9のウォームなタッチという具合に、両者の指向が微妙に異なることがわかる。CM9の音決めはスティーブ・ピアーズとスティーブ・ロウの両エンジニアが担当したというが、深さを重視したこのスピーカーの音調には彼らの指向が幾分か反映されているのであろう。

 

ベートーヴェンの交響曲を聴くと、さすがにキャビネットサイズの余裕が功を奏しているのか、弦楽器が数人ずつ数を増したような厚みのあるサウンドを繰り出してくる。演奏者の人数が増えるだけでなく、奥行き方向のステージの深さが増すような立体的な遠近感があり、弦楽器、木管楽器、金管楽器がそれぞれ量感のあるサウンドでぶつかり合い、溶け合う、まさに「交響的」な迫力。ミドルクラスのスピーカーにここまでの表現ができるとは想像していなかった。

CM1がコンパクトスピーカーの指標になったように、CM9はフロア型の新たなベンチマークになるのではないか。次回は、800シリーズとの聴き比べを予定している。CMシリーズがどこまで800シリーズに迫ることができるのか、今から楽しみだ。