「AX-V765」とV765の姉妹機「AX-V1065」の登場により、ヤマハのAVアンプは新世代に突入した。型番のみならず高音質化を目指して内部回路を一新し、構成パーツも見直しを図った本機は、従来機から想像以上の進化を遂げていた。長年AVアンプ市場を牽引してきた同社が上級機並みのこだわりを持って設計した注目モデルを、山之内正氏が徹底視聴する。



上級機並みのこだわりをもって新規設計。従来機から完全な世代交代を図る

「AX−V765」は型番から想像できる通り、昨年モデル「DSP−AX763」の後継機種だが、シンプルに「AX」を冠した新しい製品名が象徴するように、中身は大きく生まれ変わっている。フロントパネルの顔立ちは前作によく似ているが、筐体のサイズは30mmほど奥行きが浅くなって設置性が上がっているし、リアパネルの端子群の配置を見れば、基板の構成が一新されたことがよくわかる。その変更の大きさから言って完全な世代交代と呼ぶのがふさわしいだろう。

基板を新規設計したAX−V765 背面端子部
フロントパネルにはよく使うソース、音場プログラムをワンタッチで選択できるSCENEボタンを配置 AX−V765のリモコン

基板を新規に設計し直した狙いは、多様な高音質ソースの真価を従来以上にストレートに引き出すことにあり、そのために信号経路の最適化と電源部のリファインを同時に実施した。基板間の信号の受け渡しをダイレクトコネクションに変更したり、電源トランスはコアの素材メーカーを選別するなど、今回のリファインでは上級機並みのこだわりの強さがうかがえる。

また、本機は姉妹機「AX-V1065」と同様に7ch分のパワーアンプを内蔵しているが、フロントプレゼンススピーカーを接続することにより、シネマDSP<3Dモード>を利用することができるようになった。空間の高さ方向の音場データを加えることで、サラウンド音場の立体感を飛躍的に向上させる3Dモードは、音楽ソフト、映画ソフトのいずれにも適用することが可能で、再生音場のリアリティは大幅に向上する。

もちろん、フロントプレゼンスとサラウンドバックを切り替えて駆動するデュアル7.1ch再生に対応しており、使いこなしの自由度は10万円を超える上位機種とほぼ同等の水準にまで広がった。手持ちのスピーカーを利用したり、5.1chからスタートして次のステップで7.1chにアップグレードするなど、7.1ch導入のアプローチにもいろいろな選択肢がある。

厳選したこだわりのパーツ
各回路に電源を供給する電源トランスは従来機種より大型化。構成パーツの組み合わせを変えた20タイプを試作し、その中から高解像度、音の強弱の差も明確に描き分けるものを採用した AX-V765は6800uFのブラックケミコンを搭載。構成素材から視聴を繰り返し吟味している



想像を大きく超えた従来機からの進化

ヤマハの視聴室にてAX-V765と従来モデルDSP−AX763とを比較試聴する山之内氏

「AX-V765」の再生音を従来機と比較しながら聴いてみる。基本コンストラクションがここまで一新されれば当然音も変わるとは予想していたが、その変わり方は私の想像を大きく超えていた。キルヒシュラーガーがピアノやギターの伴奏で歌う『ララバイ』は、アンプの基本性能の違いが声の質感の差となって現れるアルバムだが、その冒頭の第一声を聴いただけで、本機のアンプとしての素性の良さを実感することができた。

ピアノの余韻が静寂のなかに消える様子、声の音像のまとまりの良さなど、ハイファイアンプでなければ実現できない領域の音をたやすく再現してみせたのだ。ブルックナーの交響曲では低弦の力感と重量感が前作とはまるで異なり、下支えの厚さに舌を巻く。ダイアナ・クラールは声のニュアンスがしなやかで、低い音域の温かい温度感を自然に引き出してくる。昨年の同クラスのアンプでは、そうしたニュアンスまで再現するのは至難の業であった。

BDのサウンドはストレートデコードの段階ですでに差が明らかだ。『ダーク・ナイト』のカーチェイスシーンは銃撃や衝突の衝撃音に瞬発力が加わり、思わず身を引きそうになるほどのインパクトを味わった。


一度体験すると忘れがたいほどの印象を残すシネマDSP<3Dモード>

3Dモードはさらに次元が高い領域で予想以上の効果を発揮した。『アイ・アム・レジェンド』の冒頭シーンは、人の気配が消え去ったニューヨークの異様な光景から始まるが、そのシーンで空虚さを表現する音は、風の音や鳥の声など自然音のみ。カメラが空中からの俯瞰映像に切り替わってからまもなく、マスタングのエンジン音がビルの谷間にとどろき、唯一の生存者ネビルの存在が印象的に紹介される。

3Dモードに切り替えて視聴。高さ方向の音場データが加わり、空間がスケールアップする

この一連のシーンでサウンドが果たす役割はきわめて大きい。HDオーディオフォーマット出力時はシネマDSPの併用ができず、ストレートデコードのみに対応するが、ドルビーTrueHDで収録されたサウンドはストレートデコードでも奥行きと高さの情報が豊富に聴こえてくる。

さらに「AX−V765」にフロントプレゼンススピーカーを接続し、音声をドルビーデジタルに変更した後、シネマDSPの3Dモードに切り替えると、空間の広がりが一気にスケールアップし、このシーンの意図がさらに鮮やかに浮かび上がってくる。

鳥の声や風に唸るワイヤの音など、音源の種類の位置が一つひとつリアルに把握でき、「無」の世界の臨場感に圧倒されるのだ。同じ場面の後半、鹿やライオンが突然現れる意外な展開でも静寂と荒々しいサウンドが見事な対比を見せるのだが、ここでも3Dモードが威力を発揮する。

映像が意図する世界とサウンドデザインが見事に符合したときのリアリティは、一度体験すると容易に忘れがたいほどの強い印象を残してくれる。もはやこれを入門機の音と呼ぶことはできない。

シネマDSP<3Dモード>とは?
シネマ DSP-plusに「高さ」方向の音場データをプログラミングしており、立体的なサラウンド空間を実現することができるモードがシネマ DSP<3Dモード>。図は3Dモードの音場概念図。オレンジの球体は直線音、他の球体は反射音の分布図を表している 3Dモードは通常の5.1chスピーカー配列に、フロントプレゼンススピーカー2chを設置したヤマハが推奨する独自の7.1chシステムを構築して再現することができる。通常の7.1ch再生時に使用するサラウンドバックスピーカーとは同時に出力することはできないが、どちらも接続できるスピーカー端子を用意。メニューから簡単に切替が可能なデュアル7.1ch再生に対応している




高音質チューニングを施した耳の肥えた音楽ファン向けの姉妹機


V765をベースに、さらに高音質チューニングを施した「AX-V1065」。フロントパネルにUSB端子を装備し、MP3/WMA/WAVファイルの再生が可能だ
「AX-V1065」は「AX-V765」のカスタムチューンモデルという位置付けで、音質に関わる部品をさらに吟味していることが主要な相違点である。また、機能面ではフロントパネルにUSB入力を加えているほか、GUIを一新して直感的な操作を可能にした点が目を引く。

新しいGUI画面ではすっきりと洗練されたデザインのアイコンを使っており、これまでのAVアンプの操作画面とはかなり雰囲気が異なるが、文字を読まなくてもすぐに操作できる良さがあり、操作にはすぐに慣れることができそうだ。また、iPodドック接続時は再生時にアルバムのジャケット写真をテレビ画面に表示する「アルバムアート」機能を実現しており、iPodユーザーの支持を集めそうだ。

新GUIのメニュー画面では、アイコン表示で直感的に操作が行えるようになった。iPod接続時(別売のiPod用ユニバーサルドックYDS-11が必要)にはiPod内に保存したアルバムのジャケット写真も表示することができる

「DSP-AX763」と「AX-V765」の音質差は誰もがすぐに気付くような違いだが、「AX-V765」と「AX-V1065」の差は、耳が肥えた音楽ファンが集中して聴いたときに気付くような種類の違いがある。

たとえばベースのアタックが速く、張力の強さを感じさせるのは後者だが、ベースの音を量感で聴き比べた場合は、両機の差は非常に小さい。レスポンスの良いスピーカーで優れた録音を聴くと、その違いがいっそう明確になる。さらに、音楽では合唱の分解能、オーケストラの空間再現力の精度などに差が出てくるし、映像ソースでは効果音と音楽のセパレーションが向上するメリットもある。僅差とはいえ本質的な違いなので、より強いこだわりを持つなら本機も併せて試聴することをお薦めしたい。

AX-V1065の高音質構造
準フラグシップ「DSP-Z7」で採用したウルトラロージッターPLL回路を搭載。デジタル音声の音質劣化の原因となるジッターの発生を抑制する
AX-V1065の内部構造 10,000uFのブロックケミコンを搭載
ショットーキーバリアダイオードを採用。回路のローノイズ化を徹底し、微妙な音のニュアンスの再現性を高めた 特注セメント抵抗、7種の音質抵抗、3種のポリプロピレンフィルムコンデンサーなど高音質パーツを随所に採用している



YAMAHA AVアンプ 
AX-V765
【SPEC】
●実用最大出力:135W(6Ω、1kHz、10% THD)×7ch ●入力端子:アナログ×6、デジタル×4(光2、同軸2)、DOCK、ステレオミニ、コンポーネント×2、D4×2、コンポジット×5、HDMI×4 ●出力端子:SP OUT 7ch、PRE OUT(7ch、サブウーファーOUT×2)、REC OUT×2、コンポーネント、コンポジット、D4、コンポジットAV OUT、AUDIO OUT、HDMI×1 ●消費電力:240W ●外形寸法:435W×171H×365Dmm ●質量:11.0kg

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YAMAHA AVアンプ 
AX-V1065
【SPEC】
●実用最大出力:145W(6Ω、1kHz、10% THD)×7ch ●入力端子:アナログ×6、デジタル×4(光2、同軸2)、DOCK、USBポート、コンポーネント×2、D4×2、コンポジット×5、HDMI×4 ●出力端子:SP OUT 7ch、PRE OUT(7ch、サブウーファーOUT×2)、REC OUT×2、コンポーネント、コンポジット、D4、コンポジットAV OUT、AUDIO OUT、HDMI×1 ●消費電力:240W ●外形寸法:435W×171H×365Dmm ●質量:11.1kg

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執筆者プロフィール
山之内 正 Tadashi Yamanouchi

神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、東京フィルハーモニー交響楽団の吉川英幸氏に師事。現在も市民オーケストラ「八雲オーケストラ」に所属し、定期演奏会も開催する。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。音楽之友社刊の『グランドオペラ』にも執筆するなど、趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。