昨年末に発売され、HDオーディオシーンをリードしたDSP-Z11。そのエッセンスを余すところなく盛り込んだ準フラグシップがいよいよ登場。先進の映像処理回路の搭載やGUIメニューの一新、そして9.1chシネマDSP3への対応※1など上級機に引けをとらない充実した仕様と高音質が魅力のモデルだ。
※1 ステレオプリメインアンプ等の追加が必要

準フラグシップの中でも圧倒的な存在感を示す

1年前に怒濤の如く登場したフラグシップの血を受け継ぐミドルクラスのAVアンプが各社から登場し始めたが、その中でも一際大きな存在感を示しているのが、ヤマハのDSP-Z7である。注目が集まる最大の理由は、ミドルクラスというより準フラグシップと呼ぶべき充実した装備にあるが、私としてはそれ以上にサウンドの水準の高さを強調しておきたい。発売に至る過程の試作機を複数回聴く機会があったのだが、試聴を重ねるごとに完成度が上がり、最終的にはフラグシップに肉薄する情報量と質感を獲得するところまで到達した。その詳細は後半で紹介することにし、まずはDSP-Z7の概要をみていこう。

DSP-Z7の基本ストラクチャーは普及機とは一線を画す本格的な作りを導入しており、DSP-Z11との類似点をいたるところに見出すことが可能だ。特に、センターフレームを介したダブルボックスコンストラクションとH型の堅固なクロスフレームを組み合わせることで、シャーシ剛性は大きく改善されている。この構造は限りなくフラグシップに近いものだし、数年前のラインナップであれば本機の内容自体がフラグシップに相当する。

AVアンプにおけるHDMI伝送の重要度はHDオーディオ登場以来飛躍的に高まっているが、対応機器が増えるにつれ、そこでの問題点もいくつか浮かび上がってきた。クオリティ面では積極的なジッター低減策が功を奏すことが明らかになりつつあり、上級機を中心に対策の導入が進んでいる。本機はジッターの発生しにくいウルトラロージッターPLL回路を積むことで、HDMIを含むデジタル伝送の高音質化を図った。

機能面では複数の機器、特に2台のディスプレイを接続する需要が増えているが、本機は同時出力対応のHDMI端子を2系統用意することでその需要に応える。HDMI入力は5系統あるが、その中の1系統はフロントパネルに配置された。ハイビジョンビデオカメラなど外部機器の接続時に便利に使えそうだ。

DSP-Z7 DETAIL

高剛性シャーシ

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DBコンストラクション+H型クロスフレームにより制振効果を高めた、アドバンスドDBコンストラクション

DSP-Z7背面部

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本機に搭載されたHDMI端子は入力5系統、出力2系統。同時出力も可能だ

高画質映像回路

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アップスケーリング処理やI/P変換を高品位に行う基幹チップABT2010を搭載

手持ちのアンプを追加し9.1chへと発展可能

内蔵アンプはDSP-Z11とは異なり7ch構成にスリム化されたが、本機はリアプレゼンス信号専用のプリアウト端子を新たに搭載しているので、手持ちのステレオアンプなどを活用し、9.1チャンネルシステムに拡張することができる。その際は高さ方向の音場データを加味するシネマDSP3(キュービック)を活用できるので、DSP-Z11に迫るリアルな音場再現が手に入る。このプリアウト機能はDSP-Z11の資産を姉妹機にも盛り込みたいという開発陣の熱意によって生まれたもので、国内仕様のみに搭載される贅沢な機能の代表である。

映像プロセッサーにはアンカーベイテクノロジー社のABT2010を積み、DSP-Z7のみの機能として、同チップが提供する多彩な画質改善技術を盛り込んだ。特に、一部のDVDプレーヤーなどインターレース出力をサポートしない製品の映像信号を本機でいったんインターレース信号に戻し、改めて最適なI/P変換を行うプログレッシブ・リプロセッシング(PReP)の搭載が話題を呼びそうだ。BDの普及につれてDVDの高画質再生にも注目が集まっているこの時期、時宜を得た判断といえる。高級映像プロセッサーに匹敵するABT2010関連の画質改善機能はDSP-Z11を超えるものである点に注目しておこう。

そのほか、使い勝手の視点に立った実用的な改良も着実に進んでいる。たとえば、直感的に把握できるアイコンを加えつつオーバーレイ表示に対応した新設計のGUIは、目的の機能にたどり着きやすく改良されているし、音場補正に威力を発揮する「YPAO」はDSP-Z11と同様、角度計測を含む高精度版に進化した。

新インターフェース

マンツーマン指導で大満足
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スーパーインポーズ機能を新採用。映像を楽しみながらアンプ操作が可能。また画像調整にも便利

空間再現力の高さが際立つアコースティック音源再生

本機の再生音が高い次元に到達していることは、CDやSACDなど音楽ソースの再生で強く実感することができる。オーケストラやシンプルなボーカルなど、アコースティック感を生かした録音で空間再現力の高さが際立っていることが、その具体例の一つだ。オーケストラはステージ空間の奥行きが深く、しかも密度が高い。空間の連続性の高さはステレオソースでも際立っているし、マルチチャンネル音源ではそのパースペクティブの大きさにアンプとしての格の高さが現れている。

シンプルな編成のジャズボーカルは音が消える瞬間まで演奏のテンションの高さが持続し、緊張が途切れることがない。オーケストラ曲では空間の連続性に感嘆したが、ボーカルでは時間軸方向のテンションの持続性の高さが聴き手の心をとらえる。音楽を聴くときに本当の意味でリラックするためには、そうした「場と時間の連続性」がとても大切な要素だということ。それをあらためて気付かせてくれる本機のサウンドクオリティは、ピュアオーディオと共通の言語で語ることのできる数少ない例の一つと言ってよい。

レンジの広さはいうまでもないが、音楽再生でもまったく違和感を感じることのない素直な周波数バランスも特筆に値する。演奏に厚みを感じさせる適度な重心の低さをベースに、声の帯域はコアの存在を感じさせる密度の高さがあり、高域にかけての伸びにもまったく不足はない。情報量豊かなソース機器やスピーカーと組み合わせても、アナログ接続とデジタル接続の音色の違いはほとんど気にならないはずだ。

安定度が高い脚部

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鉄製のインシュレーターを脚部に採用。振動を極限まで抑え込む

ブラックタイプ

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シアター専用ルームにフィットするブラックタイプも用意されている

無音の響きを忠実再現し空間の連続性を描写する

BDのHDオーディオにおいても、空間の連続性という要素はきわめて重要だ。『アイ・アム・レジェンド』の冒頭場面、広大な都市空間で唯一の生存者となったロバート・ネビルの孤独を、観る者が共有するためには、空虚な空間特有の「無音の響き」を忠実に再現しなければならない。本機でデコードしたドルビーTrueHDのサウンドは、疾走するマスタングのエンジン音が虚空に響きわたり、鹿の群れがコンクリートとぶつかる鋭い音をきわめてリアルに再現。効果音の俊敏な立ち上がりと、静寂を象徴する虫の鳴き声や風の音が見事に調和していることに感心させられた。

『トリスタンとイゾルデ』では静と動の対比の妙を巧みに配した戦闘シーンが強い印象を残した。この場面では重いパーカッションの響きが持続してビートを刻み、緊迫感を煽るのだが、深い奥行きを感じさせる森の広がりをも同時に音で表現することによって、深みと現実感が生まれる。シネマDSP3(キュービック)を導入すると空間の奥深さはさらに現実味を増すが、いずれにしてもそうした効果音と音楽のバランスを絶妙に再現したことが、本機のポテンシャルの高さを如実に示しているのである。

【SPECIFICATION】
●定格出力:140×7 ●実用最大出力:185W×7 ●音声DAC:192kHz/24bit(バー・ブラウン製) ●主な入力端子:コンポジット映像×6、S映像×6、D5映像×3、コンポーネント映像×3、HDMI×5、アナログ(LR)音声×11、アナログ(7.1ch)音声×1、光デジタル音声×3 ●主な出力端子:コンポジット映像×3、S映像×3、コンポーネント映像×1、D5映像×1、HDMI×2、モニター×1、光デジタル音声×2、サブウーファー×1、レックアウト(2ch)×3 ●消費電力:400W ●外形寸法:435W×196H×441Dmm ●質量:19.6kg

筆者プロフィール

山之内 正写真

山之内 正 Tadashi Yamanouchi
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、東京フィルハーモニー交響楽団の吉川英幸氏に師事。現在も市民オーケストラ「八雲オーケストラ」に所属し、定期演奏会も開催する。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。音楽之友社刊の『グランドオペラ』にも執筆するなど、趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。