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【特別企画】密閉化による音色の変化も見逃せない

STAX「CES-A1」 レビュー&開発者インタビュー。コンデンサー型イヤホンの先駆けを“現代的”にアップデート

公開日 2019/02/14 07:00 岩井 喬
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長山氏:当初は、ダイナミック型でオープン構造を密閉化する際の手法も参考にしましたが、コンデンサー型ではそれがうまく当てはまりませんでした。開放型から密閉型にすることを考えるにあたって難しい所でした。CC-A1の内部容量はこれでも絞ったつもりなのですが、それでも反射音を処理するにはこのサイズが必要でした。

―― 吸音材の検討ではどんな苦労がありましたか?

長山氏:やはり最初は材質選びですね。どのように音質が変化するのか測定と試聴を繰り返しました。あとは吸音材の枚数です。最初は1枚でしたが、最終的に2枚にしました。2枚の吸音材の間に僅かな空気層を入れると効果があるとわかりました。簡単に言うと、学校の音楽室にあるような穴の開いた壁に近い効果がありますね。


―― イヤーピースもいろいろ試作されたと伺いました。素材も数種類試されたのですか?

長山氏:そうですね。特に硬度の調整にかなり時間をかけまして、最終的に2つの素材を組み合わせました。柔らかい方が長時間の装着に向いているのですが、音質的に特有の音が乗ってしまいます。自分でも試すうちに、きちんと耳にフィットしたときの低域の量感向上が分かり、改めてSRS-002のポテンシャルを再発見できましたね。イヤーピースを作っていて面白い部分でした。

チューニング自体は、DAC内蔵のポータブルドライバーユニット「SRM-D10」との組み合わせを主軸にしています。CC-A1の内部容量調整を行う際、容量を増やすほど低域の量感も稼げますが、大きすぎれば不格好になり、イヤーピースの保持力も耐えきれなくなってしまいます。適度な大きさにすることもまた難しい課題でしたね。またカバー素材については金属製も検討しましたが、重くなりすぎてしまい、装着性を犠牲にするので樹脂製となりました。

チューニング時に使われたドライバーユニットが、ポータブル用途を想定したDAC内蔵モデル「SRM-D10」(¥90,000/税抜)

―― 興味深いお話の数々、とても参考になりました。本日はありがとうございました。


「SRS-002」&「SR-003MK2+SRM-D10」にて、CES-A1の効果をチェック


最後に、SRS-002とSR-003MK2の2機種にCES-A1を装着し、試聴を行った。SR-003MK2に組み合わせたドライバーユニットは、チューニングの念頭に置かれたという「SRM-D10」だ。

SRS-002にはAstell&Kern「SP1000」を繋ぎ、まずはCES-A1を装着しない、開放型としての音を確認した。一般的にコンデンサー型は繊細で透明度の高い音色を想像するが、本システムのサウンドとしては伸び良くスムーズで、落ち着き感のある暖色傾向だ。

CES-A1を取り付けない、開放型の状態からの変化も確認した

これはイヤホンとしては非常に大口径である20mmユニットによる恩恵であり、豊かに張り出す低域の充実さは、ダイナミック型のドライバーでは到底再現でない領域に達する。しかし高域方向に対してもスムーズにエネルギーが推移し、倍音で輪郭感を誇張するようなことはなく、自然に音が立ち上がる耳当たり良いタッチで描かれる。

オーケストラの立ち上がりも素早く、きめの細やかな旋律を描き出す。ローエンドはふくよかでウォームなテイストも感じられるが、ハーモニーはスムーズに推移し、余韻も華やかさと潤いを持たせた芳醇な響きに満ちている。しかし低域はダンピング良くしなやかで、柔らかい反応にも的確に追随。ボーカルは肉付き良く高密度な音像で、口元はハリ滑らかで爽やかに浮き立っている。

ウッドベースの躍動的な動きとキックドラムの密度良くドライな空気の押し出し感もリアルに描き分け、シンバルワークも丁寧に紡ぐ。ピアノの響きも硬すぎず階調性の高い表現である。押しつけがましくない、穏やかで落ち着いたサウンドといえるだろう。

現在主流であるバランスド・アーマチュア型ドライバーのマルチウェイ方式や、ダイナミック型ドライバーを低域に置き、高域はバランスド・アーマチュア型ドライバーを置くハイブリッド方式では複数ユニットが混在し、低域から高域までシームレスに再現するのは非常に困難を伴う。しかしコンデンサー型は振動膜が薄く、2枚の固定電極を含めてもダイナミック型ドライバーの半分にも満たないドライバー質量である。

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