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【特別企画】密閉化による音色の変化も見逃せない

STAX「CES-A1」 レビュー&開発者インタビュー。コンデンサー型イヤホンの先駆けを“現代的”にアップデート

公開日 2019/02/14 07:00 岩井 喬
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「CES-A1」開発者・長山氏が語る「CES-A1」の詳細と開発秘話


今回、このCES-A1の設計を手掛けた(有)スタックス・技術部の長山洋二氏から製品誕生に至る経緯や開発秘話について伺う機会を得た。以下がそのインタビューである。

CES-A1開発の中心となったスタックス技術部・長山氏(左)と、聞き手の岩井氏(右)

―― CES-A1は発売開始から売れ行きが好調のようですね。その開発のスタートはいつからでしょうか?

長山氏:想定しているよりも多くの方に購入いただけているようで、とても嬉しいです。CES-A1に繋がる密閉カバーについて、もともと構想はありましたが、具体的に開発がスタートしたのは2016年の12月頃からです。3Dプリンターの導入が大きなきっかけになりました。設計したものをその日に出力し、構想を実際に形にできるようになったのです。

3Dプリンターで出力したというCES-A1の試作モデル。最新技術が、待ち望まれていた遮音性の向上を実現した

SRS-002やSR-003MK2のハウジングを変更して密閉型の新製品として開発するという提案もあったのですが、着脱可能なことで密閉型/開放型それぞれのサウンドを気軽に選択できること。そしてすでに“SR-001系”を購入いただいているユーザーの皆さんにも楽しんでもらえるということで、カバータイプにしようという流れとなりました。

それから社内で考えるコンデンサー型のメリットと、ユーザーの皆さんが考えるコンデンサー型のメリットをすり合わせようと、イベントに「A」と「B」の試作機を出展して、皆さんの反応をうかがうことにしたのです。

インタビューはスタックス本社にて行った

―― 試作カバーは内側が渦を巻いているようなパターンと、製品版に近いスリットの入っているパターンと2つあったと思います。

長山氏:はい。渦を巻いている方はサイレンサーの構造を真似て作りました。それぞれ消音の仕方も違いますし、音も違いますので、どちらが好まれるかイベントで聴き比べてもらいました。最終的に、製品版はこの2種類とはまた違う形状となっています。

最初はイヤーピースを考えず、耳掛け式にして保持しようという案からはじめましたが、装着性が損なわれるので、新たなイヤーピースとセットにする案が生まれました。

―― 当初はカバーに取り付けの方向性、つまり左右の区別はなかったのでしょうか。

長山氏:はい。最初は左右対称の構造でした。左右ユニットで共有できればと考えていたのですが、まったく納得できる音ではありませんでした。最終的には中心軸をずらした構造となっています。

製品版のカバーにはL/R表記がありますので、その通りに装着すれば当社が考える最適なサウンドでお聴きいただけます。しかしながら、左右違う構造ですと、金型も2種類必要となるので、製造コストも上がります。

最終的に、CES-A1は左右非対称のデザインを採用した。左右を判別するマークは下部の丸いくぼみに刻まれている

―― 数十種類の試作検討の末、イベントへ出展されたのがAとBの2タイプというわけですね。そこまで絞り込むのにどのような苦労があったのでしょうか?

長山氏:数多くの試作品を作って試聴を繰り返し、コンデンサー型の本質をそのまま出せるのはどの形状なのか考えながら絞り込んでいきました。ただカバーを被せるだけでは音質が崩れてしまうものが多く、難航しました。問題となったのは周波数帯で言う中域です。カバーで密閉すると中域の能率が下がる部分があり、その下がりをなくすために吸音スペースを設けることを考えました。

特別に見せていただいた、CC-A1開発過程の3Dモデル。とにかく多くの試行錯誤があったことが分かる

この吸音スペースによって低域も調整できるという利点も生まれました。当初は密閉にするとなぜ音が悪くなるのかと考えながら試行錯誤していましたが、実際にカバーを着けて試聴すると良くなっている点もあったので、楽しみながらできた側面もありました。

―― イベントへ出展していた試作モデルでは、小さな穴も開いていました。

長山氏:穴を開けてしまうと、ほんのちょっとの大きさでも遮音性が落ちてしまいましたので、製品版では穴のない構造としました。

密閉化しつつコンデンサー型の長所を消さないよう工夫を重ねた

長山氏:音質面で一番重要だったのは、音が反射した際、本体のハウジング開口部に反射音を戻さないことです。コンデンサー型のドライバーは、振動膜がダイナミック型に比べて薄く、干渉に弱いのです。カバー内で反射音を上手に処理する必要がありました。

拡散と吸音を組み合わせ、遮音と音質の両立を図ったと語る長山氏

試作機で採用していた渦型は反射音を回転させ減衰させるという考え方、もう片方は反射方向を開口部以外に向けるという考え方で、どちらもほぼ音を拡散させるだけで設計していました。

しかしリブが高すぎる為、カバーの材質固有の音が乗ってしまうなどの問題があり、拡散だけでは駄目だということになりました。それも吸音スペースが必要となった理由です。とはいえ単純に吸音材をたくさん入れるだけでは、反射はしなくなりますが音域によって吸音率が異なり、測定上は良くても聴感上は納得できる音になりませんでした。

―― 過去販売されていた、オーバーヘッド型の「4070」がそのような吸音材を充填した構造でしたね。目黒陽造前社長からも音作りに苦労したと伺いました。


インタビューの聞き手にまわる岩井氏

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