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元WADIA技術者が手がけるDAC&パワーアンプ

EXOGAL「Comet」「Ion」を聴く - 先端デジタル技術が実現したコンパクトオーディオ

2016/10/28 角田郁雄
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フルデジタル伝送でスピーカーをドライブする「Ion」

さらに新たに登場したのが、CometにベストマッチのパワーDAC「Ion」だ。このパワーアンプをなぜパワーDACというのか疑問に思い、輸入元のアクシスに資料を提供していただいた。このモデルはCometからのアナログ出力ではなく、HDMIケーブルでハイレゾデータをダイレクトに受信する仕組みである(データとクロックが分離伝送される)。

“Power DAC”「Ion」

内部を見るとD級アンプのようで、内部ではサンプリングレートコンバーターとPWM変調器があり、MOS‐FET素子が出力段になっているはずだと予測したが、これがまったくの予測はずれ。資料を見て正直なところ驚いてしまった。

ionの内部。Cometから出力されたデジタル信号はフルデジタル伝送で出力段に送られ、ローパスフィルター経由でスピーカーへ出力。これが“Power DAC”と言われる所以だ

Comet同様に分厚いアルミ・ウォールのボディの中にデュアル・モノラル構成で出力段が配置されている。伝送経路を辿るとHDMIからの信号は中央のDSPと思われる素子に接続。これは一般的なPWM変調器ではなく、一種のΔΣ変調器の動作をし44.1/48kHz系クロックに同期する。

ここで処理されたハイレゾデータは、アナログ化されず、フルデジタル伝送で左右の独自の出力段モジュールで増幅され、コイルとコンデンサーを組み合わせたローパスフィルターを経由してスピーカーをドライブする仕組みになっている。デジタル信号をダイレクトに増幅しアナログ出力するので「パワーDAC」とネーミングしている。

Ionのリアパネル。入力はCometと接続するためのHDMI×1のみ。大型のスピーカー端子を採用し、バナナ/Yタグにも対応。Yタグは下から差し込むタイプ

この出力ステージには、インフィニオン社の「Opti MOS パワー・トランジスター」のNチャンネルだけが1chあたり4式パラレルで使われ、何と200W/4Ω、100W/8Ωの高出力を発生する。電源には外づけの大型アダプターを使用している。

コンパクトスピーカーでの再現性を探る

IonとCometの組み合わせは、デスクトップにも十分に置けるほどのサイズだ。もちろん大型のスピーカーも鳴らすほどの駆動力を誇るが、最も想定される組み合わせはコンパクトスピーカーだろう。そこで、昨今注目が集まる3モデルと組み合わせて、その音の違いを確かめてみよう。

DYNAUDIO「Excite X18」
柔らかみがあり少しウォームで豊かで味わい深い響き

ディナウディオのExcite X18は、伝統的なソフトドームトゥイーターとMSP(ケイ酸マグネシウムポリマー)のウーファーが大きな特徴。CometとIonの組み合わせでは、いつまでも聴いていたくなるようなナチュラルなサウンドを聴かせてくれる。

ディナウディオ「Excite X18」との組み合わせでは、柔らかみがあり少しウォームな味わい深い響きを再現する

柔らかみがあり少しウォームな音色も特徴で、豊かで味わい深い響きが堪能できる。特に中音域に厚みを感じさせるところがあり、この点においてクラシック音楽や穏やかなジャズ、ボーカル曲を好む方はこの音が好きになるはずだろう。

一方、ブリテンの戦争レクイエムのようなダイナミックで壮大な曲を色鮮やかに描写し、オケと合唱のフォルテシモでも音像を曖昧にしないレスポンスの良さと制動力の高さに驚かされる。

B&W「805 D3」
奏者や歌い手のちょっとした演奏上の動作まで再現

B&Wの805 D3は、スタジオのスモールモニターで使えるほど色づけが少なく高解像度だ。歪みも少ないので、CometとIonの組み合わせではその音をストレートに再生する。何が魅力かというと、広い空間に奏者や歌い手がリアルに描写されることだ。

B&W「805 D3」との組み合わせると、広い空間に奏者や歌い手がリアルに描写される

しかもCometとIonはS/Nが良く、解像度もかなり高い。したがって奏者や歌い手のちょっとした演奏上の動作まで再現してくれる。ダイアナ・クラールの「ウォール・フラワー」を照明を暗くして聴けば、ステージが眼前に展開するかのようなイメージになるはずだ。ピアノの美しい余韻やヴォーカルの声質も鮮明で、さらにすごいと思ったのは、高域と低域が拡張されたかのような音質になる点だ。

TAD「TAD-ME1」
大型フロア型スピーカーが鳴っているかのようなイメージ

TAD-ME1は、CSTドライバーによる空間性と3ウェイ構成によるワイドレンジな音が大きな特徴となっている。CometとIonで再生して驚くことは、中低域に厚みを持ったピラミッド型の音を展開することで、特に低域がスケールアップした印象を受ける。


TAD-ME1との組み合わせでは特に低域がスケールアップした印象を受ける。今回の試聴ではTAD-E1を使用した
ブリテンの戦争レクイエムを再生すると、壮大なティンパニーの連打、力強い合唱、重厚な金管楽器がワイドレンジで再現され、大型フロア型スピーカーが鳴っているかのようなイメージとなる。特にベリリウムとマグネシウム振動板によるCSTドライバーは、コンプレッションドライバーを使ったホーンユニットのように、高い音圧と鮮烈な響きを体験させてくれる。まさにサイズを遥かに超えた音である。

音の立ち上がりが驚くほど俊敏で、リアリティ溢れるサウンド

試聴ではTAD‐E1を使用したが、驚くほど音の立ち上がりが俊敏で、中低域に厚みをもったピラミッド型の音場が眼前に展開した。S/Nが極めて良いので奏者や歌い手が解像度高く描写され、演奏のリアリティを鮮明にする。またダブルウーファーによる低音を不明瞭にすることなく、タイトにドライブする制動力の高さにもすっかり驚かされた。まさにこのCometとIonは音楽を極上に楽しませてくれる「大人のオーディオ」であり、「小さな巨人」と言えるであろう。

(角田郁雄)


本記事はネットオーディオ vol.24からの転載です。本誌の詳細および購入はこちらから。

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