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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第150回】田村ゆかりさんに捧ぐ!ラジオ「いたずら黒うさぎ」歴代OP/ED曲をオーディオ目線で語る

2016/03/25 高橋 敦
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▼Cherry Kiss(アルバム「木漏れ日の花冠」より)

2009年02月07日から2009年11月27日のOP曲。この時期には二回目のアニサマ出演で今年もぼっちか、かろうじてまた水樹奈々さんと喋れれば…と覚悟していたゆかりさんが、まさかのmotsuさんと交流を深める奇跡に遭遇。この年の12月には「田村ゆかり feat. motsu from m.o.v.e」としてのシングル「You & Me」が発売された。

Cherry Kiss(アルバム「木漏れ日の花冠」より)

そんな時期のOPであったこの曲は実にストレートなポップス。サビ頭かと思うほどキャッチーなAメロから始まり、シンプルなリズムのキメを入れて改めてAで一番が始まるという冒頭だ。そしてその始まりにこの曲が集約されているというか、最後までそのポップさのまま突っ走る。

アレンジや演奏の面での他のポイントとしては、この曲はギターの活躍が目立つ。例えばイントロのド頭のゆかりさんのボーカルの左でリズムを刻むのはギターのミュートピッキング。

そしてバンド全体が入ってきてからも、左はそのまま低音弦のダウンピッキング、右ではストロークでコードをかき鳴らすコンビネーションでサウンドにコード感と勢いと厚みを出し、イントロサビではセンター近くにやや控えめの音量でミックスされたもう一本の動きがさりげないアクセントになっている。

そしてそのもう一本のギターが、イントロから本編というか一番をつなぐ部分になるとそのまま前に出てきて、そこはそのギターがまさに主役だ。そこからのバッキングでも何本かのギターに役割を割り振っての活躍が続き、そしてアウトロはまたもやほぼギターソロとなる。

というようにこの曲はギター盛りだくさんなのだが、ギター盛りだくさんにはギター盛りだくさんなりの難しさがある。

ひとつは他のパートとの兼ね合い。考えなしにギターで全てを埋め尽くしてはバンドとしてのおいしさが薄れる。もちろん何より、ボーカルの邪魔になるようなことは許されない。そのあたりはアレンジだけではなく演奏時の音色の選択や、録音からミックスとかでのセパレーションの確保とかも絡んでくる。

もうひとつは「これライブではどうすんの?」問題だ。ライブでもギタリストを何人も揃えて再現すればよいというわけではない。いくらでも時間をかけて音を調整できるわけでもなく、会場の音響もベストではないライブの現場では、録音作品としてはうまくいったギターアレンジでもその再現は容易ではない。

そこで録音では何本も重ねられているギターを、その部分その部分でいちばん重要なフレーズを抜き出したり、あるいは瞬間的に混ぜたりして、ライブでは一人のギタリストが演奏するというやり方は合理的で効果的だ。しかし言うまでもなくそれは、どのフレーズを選んだり混ぜたりするかというセンス、フレーズごとのポジションや音色の切り替えの的確さといった、様々な能力を高いレベルでギタリストやバンドマスターなどに求めてくる。

そしてそういった「録音音源そのままの再現は難しい問題」は、実はギターに限らず、他のパートにも多かれ少なかれある。例えばサックスだったらこの曲でのギターとは逆に、「録音音源にはサックスなんてまったく入ってないんですけど…」パターンへの対応も必要だったりするのだ。

しかしゆかりさんのライブに参加あるいはBD等で観て、録音音源と違うとは感じても嫌な違和感を覚えることはほとんどないのではないだろうか。それはゆかりさんバンド「桃色男爵」が、単に演奏力が高いというだけではなく、録音音源のアレンジやサウンドをライブ演奏に落とし込むそのセンスや経験値にも優れている、そのおかげなのだと思う。

なおオーディオ的には特別に何かの要素を強く要求する曲という感じではないので、普段からお使いのお気に入りのシステムで普通に楽しんでいただければと思う。前述のように特にギターがかなり重ねられているので、そのそれぞれの定位や音像を明瞭に描き出す基本性能はもちろん高い方がよいが。

さて、この企画で紹介する曲として選んだからには、もちろん僕自身もこの曲を気に入っている。しかしこの曲を選んだことついては僕自身のではなく、とある方のこの曲への思い入れを知ったことがもっと大きな理由となった。

「2008年から2009年くらいの『いたずら黒うさぎ』のエンディングテーマで、そのころがいちばん聴きこんでいたから思い入れがある」

ご自身のラジオ番組のカラオケリクエストコーナーにこの曲が投稿されてきた際の、三澤紗千香さんのお言葉だ。

後述するが、僕自身が「いたずら黒うさぎ」を聴き始めたのは2010年あたりから。なのでこの記事に書いている内容でもそれより前のことは、リアルタイムに自分で得たものではなく、様々な先輩リスナーが様々な形で伝えてきてくれたものを受け取って改めて伝えているところだ。諸先輩への感謝をここに記しておきたいと思う。

さてつまり、その先輩リスナーのお一人にしていまや自ら声優となり冠ラジオ番組を持つに至った、三澤さんの思い入れを尊重しないわけにはいかない。それがこの曲を選んだいちばんの理由というわけだ。ゆかりさんを聴いて育ち鷲崎さんを師と仰ぐ文化放送アニラジの申し子、三澤紗千香さんの「三澤紗千香のラジオを聴くじゃんね!」は超A&G+にて放送中。

次ページ続いては、アップテンポな縦ノリ曲「Super Special Smiling Shy girl」

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