「デジタルで音を良くするためには複雑なプロセスが必要」

【HIGH END】英国コード、旗艦フォノEQ「Ultima Phonostage」発表。製品特徴や「Quartet」続報をジョン・フランクス社長らに訊く

公開日 2025/06/02 06:30 山之内 正
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イギリスのCHORD(コード)はフラグシップのフォノイコライザーアンプ「Ultima Phonostage」をミュンヘン・ハイエンドのブースで公開した。社長のジョン・フランクス氏が究極の製品について開発のこだわりを語ってくれたので、技術部長のマシュー・バートレット氏のコメントとともに紹介しよう。デジタル領域の製品については、DAVEと組み合わせるアップスケーラー「Quartet」の進捗状況をロバート・ワッツ氏が語る。

技術部長のマシュー・バートレット氏(左)と社長のジョン・フランクス氏(右)

あらゆるカートリッジと組み合わせられる

ーー今回の主役は本格的なアナログコンポーネントです。いまフォノイコライザーアンプを導入する理由を教えて下さい。

ジョン・フランクス 現在のレコード市場は下降曲線ではなく上昇カーブを描いているととらえています。市場が伸びている分野には努力して取り組む意味があるので、私自身が約3年前にプロジェクトを立ち上げ、フォノイコライザーアンプを開発することにしました。市場に出回っているあらゆるカートリッジと組み合わせて使用できるフレキシブルな製品を目指して開発に取り組み、ついに完成しました。今年の秋以降に市場に導入できる見込みです。

コードのフォノイコライザー「Ultima Phonostage」

マシュー・バートレット 多くのカートリッジとの組み合わせを想定して、3系統のRCA入力、XLR入力それぞれに独立してゲイン、インピーダンスなどのパラメーターを個別に設定できるように設計しています。世界規模で広がっていくレコード市場を支える重要な製品になると確信しています。

「Ultima Phonostage」の背面端子。XLR/RCA入力を3系統ずつ装備

ーープロジェクトを自ら立ち上げたということはフランクスさん自身が設計を担当したのですね?

ジョン はい、私自身が設計して、マット(マシュー・バートレット)が開発をサポートしてくれました。柔軟性に富む豊富な機能を実現するためにはマイクロプロセッサーによる制御が必須で、そうした作業も必要ですから。

カートリッジに対して誤った過大なゲインを設定してしまった場合など、マイクロプロセッサーが介入してゲインを下げるように工夫しています。Ultima Phonostageは、まさに私たちが作りたかった夢のフォノイコライザーアンプなのです

フロントにはVUメーターが搭載される

マシュー フォノイコライザーアンプはカートリッジの微小な信号を増幅するために非常に大きなゲインが必要で、ノイズの影響を受けやすい。たとえば制御系の信号をアナログ回路から光でアイソレートするといった対策を入念に行う必要があります。マイクロプロセッサーやクロックのノイズがアナログ回路に影響を及ぼさないように十分に配慮しています。pV(ピコボルト)のレベルのノイズまで遮断しなければならないんですよ!

ーーイコライザーカーブを選ぶ機能はありますか?

ジョン 私たちはRIAAがベストだと考えているので、複数のイコライザーカーブを設けることはしていません。音質を微調整したい場合はインピーダンスと静電容量でコントロールできるし、その方が良いと考えています。

ーー3系統の入力が完全に独立しているということは、複数のカートリッジやターンテーブルを使い分けることを想定しているんですね?

ジョン その通りです。3系統の入力ごとに独立した増幅段を用意しているので、3台のターンテーブルを使うこともできますし、1台のターンテーブルに2本または3本のトーンアームを取り付けて切り替えて使用する用途にも使えます。

増幅回路には非常にローノイズのトランジスターをペアで使用しており、Ultima Phonostageでは6ペアのロングテール・ペア配列のトランジスタを使って、非常に低ノイズの回路を実現しました。これまで開発したなかで最もノイズレベルが低い製品です。一部のカートリッジのようにμV(マイクロボルト)オーダーの信号を増幅するためには、ノイズは可能な限り低く抑えなければなりません。

Ultima Phonostageのブラック仕上げも用意!

ーー電源回路の工夫について教えて下さい。

ジョン 非常に複雑なフィルターを用いたスイッチング電源が中心ですが、その後段に複数のリニア電源を設けています。制御回路など、アナログの増幅回路以外にも多くの電源が必要なので、まるで真核細胞(ユーカリア)の内側のような構造になっています(笑)。

ーー価格は決まっていますか?

マシュー 未定ですが、18,000ポンド前後(350万円)の予定です。

コードのデモンストレーションブース。メインスピーカーは元DYNAUDIOのエーレンホルツ氏が立ち上げたPEAKの「Sinfonia」

DAVEのアップスケーラー「Quartet」、まもなく完成!

ーーロバートさんには「Quartet」についてお尋ねします。

ロバート・ワッツ はい、私はフォノステージには関わっていません。アナログはジョン、デジタルは私です(笑)。そして、お聞きになりたいこともわかっています。いつ完成するのかということですよね?

「Quartet」について語るロバート・ワッツ氏

ーーはい、昨年もヘッドフォンで音を聴かせていただき、素晴らしい音を体験することができました。発売を楽しみにしています。

ロバート Quartetの開発には2018年から取り組んできました。DAコンバーターの「DAVE」と組み合わせることを想定したアップスケーラーで、5つのFPGA、2500以上の部品を内蔵し、250万行のプログラムを書きました。

大事なことは内部で何が行われているかということです。フィルタを組み合わせる方法を研究し、補間フィルターがどのように動作するかについての理解が大きく進みました。つまり、どうやって最高の音質を得るかについての理解が進んだということです。

なぜここまで時間がかかったかというご質問ですが(笑)、正直なところ、ついに完成の域に到達しました!いまは音質を最終的に追い込んでいる段階で、すべてのフィルターは完成しています。あと1つか2つの問題を解決するだけで生産の準備が整う見込みです。発売は来年の予定ですが、10月の東京のショウには私も同行して実際に皆さまにお見せできるはずです。

ーーそれは楽しみです!電源を独立させた2筐体ですよね?

ロバート はい、そうです。DAVEと合わせると3ピースになりますが、他社のハイエンドDACシステムに比べるとまだ少ないですよね(笑)。DAVEとQuartetの組み合わせはステージの深さの再現、音像の正確なフォーカス、音色のバリエーションの広さでライバルを凌駕します。しかもライバルよりもはるかに低価格で!

ーー壮大なプロジェクトがいよいよ完結するんですね。

ロバート その通りです。研究・開発に7年間を費やし、これまで私が取り組んできたなかで最も複雑なプロジェクトです。デジタルで音を良くするためには複雑なプロセスが必要で、その複雑さが精度を高めるために不可欠なのです。アナログはシンプルな方が良いですが、デジタルで精度を求めるとプロセスは複雑になります。昨年聴いていただいたときよりも、はるかに音が良くなっているので、楽しみにしてください。

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