テレビは感動を伝える商品
独自性をもち新提案し続けたい


シャープ(株)
AVシステム事業本部
液晶デジタルシステム第1事業部
事業部長
喜多村和洋
   
  4原色技術「クアトロン」がVGP 2010 SUMMERの技術大賞を受賞   クアトロン技術を採用した“AQUOS クアトロン 3D”LVシリーズ。写真はLC-60LV3
 
3原色表示というテレビの「常識」を破り、RGBにY(黄色)を加えた4原色表示で豊かな色彩表現を実現した独自技術「クアトロン」で、ビジュアルグランプリ技術大賞を受賞したシャープ。パネルから全て自社生産、垂直統合の組織構造を展開する同社ならではの強みを活かし、果敢にチャレンジし続ける同社の商品づくりの極意を喜多村氏に聞く。
 
テレビの表現力に大革命 ー 4原色技術「クアトロン」

−−技術大賞受賞、誠におめでとうございます。ご感想をお聞かせ下さい。

喜多村 シャープのテレビの歴史は技術の変遷とともにあり、今回技術大賞をいただけたことが非常に嬉しく思います。賞を頂戴したクアトロンは、シャープが垂直統合で液晶パネル生産からテレビの商品化まで一気通貫で取り組んでいるからこそできた技術であり、マルチカラーをテレビとして初めて実現したことをご評価いただけたかと思っております。

−−クアトロンについてご説明いただけますか。

喜多村 テレビの3原色であるRGBだけでは、どうしても表現し切れない色があります。そこで現実に非常に目につく色である黄色を加えて、もっと豊かに色を表現したいと考えました。

1色加えることで画素のひとつひとつが小さくなり、光の利用効率がどうしても落ちてしまいますが、実は、先に開発したUV2Aという技術で、その課題を解決することができました。UV2A技術の採用で、従来、パネルにあったリブ・スリットをなくすことで、光の利用効率を上げることができました。

クアトロン搭載テレビ(右)と従来の3原色液晶テレビ(左)の画質比較。黄色を鮮やかに再現しているだけでなく、全体の輝度やコントラストも向上していることがわかる

−−すべての液晶テレビはクアトロンにしていくという方向ですね。3D対応テレビもいよいよ登場して大変期待できます。

喜多村 今後はクアトロンの比率を上げて行き、シャープの液晶技術のベースとしていきます。

明るい高画質というのが商品をつくるコンセプトになりますが、3Dでもパネル、信号処理、配線の技術を含めトータルで明るさを確保し、他社との差別化を図りました。

シャープの液晶テレビの競争軸として他社と大きく違うのは、パネルを自社生産していることです。小型から大型まで作っていますから、ラインナップ全てを自社パネルで揃えられるのです。またパネルの技術開発と商品の技術開発がリンクしていれば、商品側からの要求をパネル側に伝えて、要望どおりのものをつくることができます。垂直統合型の強みを、商品企画から技術開発まで活かしてまいります。

−−3Dは今後、どのくらいの画面サイズまで展開されますか。

喜多村 導入段階はお客様により感動を味わっていただくため、大きなサイズから取り組みます。ただ3Dは間違いなく今後基本機能になってくると考えますので、将来的に、小型から大型まで搭載されるでしょう。

LVシリーズとLXシリーズはサイド部にもスピーカーを備え、全部で8つのスピーカーを装備している

さらに、音に対するこだわりがあります。LVシリーズとLXシリーズでは、全部で8つものスピーカー(40V型は7つのスピーカー)を搭載していますが、特に画面の真ん中から音が出るということを重視しました。左右の耳にサイドスピーカーからまっすぐ音が届くようツイーターを備えて、フルレンジは真ん中に、低音は後ろに厚手のウーファーを搭載したシステムを構築したのです。

−−音の解析技術を搭載したテレビもありますが、こうしたアコースティックなつくりをされたのはなぜですか。

喜多村 そこはこだわりです。スピーカーのコーン紙の部分から耳に対してまっすぐ届くという考え方を譲れない思いで貫きたかったのです。

デザインとしてはどうしても、フレームも薄く、奥行きも薄くしたい。しかし、私は、それは商品コンセプトが違うと思います。薄さもデザイン上大事ですが、いい音といい画を出すことを最優先し商品化に取り組んできました。シャープの商品企画のユーザー目線というのは、そこにあると思っています。

テレビ視聴では、音も非常に重要な要素です。画も音も、3Dの感動を最大限味わっていただけるよう自信をもってお客様にご提案していきたいと思います。

−−録画機能付きテレビが浸透しています。御社のブルーレイ搭載モデルも早くから認知され、今回ビジュアルグランプリでも金賞を受賞されました。

喜多村 私はドラマが好きで、全クール録画するためハードディスクレコーダーは草分けの頃から使っていました。テレビを担当する中で、世界で初めてハイビジョンレコーディングできるハードディスクレコーダーを手がけましたが、手軽に録画でき、検索性もよく、選んですぐ再生できるというのがデジタル時代の大きなメリットであり、テレビにもデジタルレコーディング技術を入れたいと思っていました。

商品化にあたって、お客様に録画テレビであると認識していただくために、一目で見て分かり易い商品の形を考えました。ハードディスクはテレビの中で目に見えないので、メディアスロットをつけることで、特徴をアピールしました。そしてシャープのこだわりとしてハイビジョンレコーディングを実現するため、ブルーレイを採用しました。ブルーレイを手がける部門がテレビ部門と同じ環境内にあり、プロジェクト体制を組みやすかったことも奏功しました。

 

垂直統合組織の強みを活かしこだわりの商品を展開する

−−AQUOSシリーズの家庭内ホームネットワークの考え方についてお聞かせください。

喜多村 ネットワークは一般のお客様にとってまだ難しいというのが商品企画のベースにあり、ネットワークのメリットを伝えるためには段階を踏まなくてはなりません。当社ではまず、ワイヤードでつながれたレコーダーとテレビをひとつのリモコンで使えるようにすることを第一歩としました。それが、AQUOSファミリンクです。

電話機もかつてコードレスで本当にかかるのかと懸念されたお客様が沢山いらっしゃいましたが、今はどなたでも携帯電話を使っておられます。そのようにテレビもワイヤレスでもつながるということをお客様がイメージできる時期が、商品化の見極めだと思っています。テレビにもワイヤレスの環境が揃ってきたとき、一気にそこに流れ込むことを想定して、段階を踏んで取り組んで行きたいと思います。

シャープのネットワークの考え方は、初期段階ではラインナップ上位モデルで対応し、シャープの強い商品とのリンクでお客様にいろいろな使い方をご提案し試していただきます。一般のお客様にとってはDLNAもWi−Fiもまだ敷居が高く、本格的なネットワーク展開はまだ先にあると思っています。今回の新製品もDLNAに対応させましたが、階段を一歩踏み出したというところです。まずシャープの中でも特に強い商品、携帯電話やブルーレイレコーダーといった商品とのリンク機能を充実させています。

−−今後のテレビのあり方をどうお考えになりますか。

喜多村 地デジ完全移行にあたっては、お客様が今ご覧になっているものと手軽に置き換えられる商品をご提供することが必要だと思います。メインテレビに次いで、セカンドテレビも替わることを見越した商品企画をすすめているところです。

また、今後、携帯電話でダウンロードしたコンテンツをテレビで見るといったこともあると思います。テレビは基本的にどんなソースにも対応し、コンテンツを見られるようでなくてはなりませんから、接続性をよくすることがテーマになってくるでしょう。

事業戦略として私どもが捉えている最大の課題は、グローバル化がもたらす均一化にどう対応するかです。テレビはどこのメーカーがつくっても同じデザイン、同じ性能になってしまうかもしれません。しかしシャープは、まったく違う新しいテレビの形を並行してお客様にご提案していきます。せっかく垂直統合のもとで液晶の素材から開発しているのですから、自由に商品企画からの要望を技術開発部門に伝え、それを最大限活用して、お客様のニーズを満足する付加価値の高い商品づくりを続けて行きたいと思います。

テレビのモノづくりは、将来はパソコンのモノづくりに近づいていくという声も聞かれますが、AVに携わってきた私どもとしては、感動をお客様に伝える商品ですから、パーツを組み合わせただけでできたというのではなく、何か独自性をもって、新しいことを提案していきたい。今後も、デジタル技術がもたらす使い勝手を拡大させ、液晶の素材というアナログなところも上手く活かして、既存の商品とは違う軸でご提案できるモノづくりに取り組んでいきたいと思います。

 

 

【関連リンク】

シャープ 液晶テレビAQUOS 製品情報
シャープ AQUOSブルーレイ 製品情報

 
喜多村和洋氏 プロフィール

1961年生まれ。1984年 シャープ(株)入社。2004年 デジタルメディア事業部を経て、 2009年 液晶デジタルシステム 第1事業部に至る。