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【特別企画】ジョン・フランクス氏が語る

CHORDのアンプ技術の核心とは − 航空電子技術の応用で生まれたオーディオ用電源の秘密

公開日 2017/12/12 10:28 構成:編集部 小澤貴信
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フランクス氏 まず大前提として、あらゆるアンプの心臓部は電源だといえます。アンプの電源部は、電源の電圧をアンプが使用できる電圧に変換する役割を担います。

アンプは音楽信号の増幅を行いますが、音のエネルギーが大きくなれば、より大きな電源のキャパシティが要求されます。さらに言うと、アンプが一番苦手なことは、強大なパワーを瞬間的に要求されることです。この要求に電源が応えられないことで、クリッピングやオシレーション(変動)が引き起こされます。

音楽は、周波数やエネルギーが瞬間的に変化し続ける複雑な波形です。アンプはこの波形を、刻々とした変化に追従しながらその都度処理していきます。大きなエネルギーが入力されればオシレーションは避けられず、信号処理の安定が損なわれます。アンプ技術者は、このオシレーションに対して様々な対策を講じることになります。

この問題を解決するためには、理想的な電源のコントロールが必要です。そして私は、アビオニクスにおけるスイッチング電源の技術を活用することで、理想的な電源を実現できることに気がついたのです。

「SPM1400MkII」は2017年秋より日本に導入された最新のモノラル・パワーアンプ。通常仕様の4本足のインテグラレッグに加え、アクリルブロック仕様も選択可能だ


ーー CHORDのアンプの電源は、具体的にどのような技術を用いてこの問題を解決しているのでしょうか。

フランクス氏 CHORDのアンプは、どのような信号波形が入力されてもオシレーションが発生することなく、正確かつ安定した増幅が行えるように設計されています。ユニティーゲインで回路全体が動くように設計されているので、どんな信号が入力されても不安定になりません。

電源を含めたCHORDのアンプの特徴について、順を追って説明していきましょう。

CHORDのアンプの電源ユニットでは、主電源はフィルターを介して入力された後、整流されて高電圧のDC電源が生成されます。このDCはオーディオ回路を動作するにはあまりに高い電圧です。これが高電圧コンデンサーバンクに蓄えられます。そして、蓄えられた高電圧は80kHzで動作するMOSFETによって必要な電源波形へと変換されます。

ここで得られた電源波形は、表皮効果に伴う損失を防ぐための特殊なセラミックコア高周波トランスを通過し、もう一度整流が行われ、CHORD独自の「ダイナミック・カップリング」システムに送られます。その後に最終的な高電圧コンデンサーに蓄えられて各部に供給されます。ダイナミック・カップリングは重要なポイントなので、後で詳しく説明しましょう。

これらの過程において、電源のスイッチングのタイミングを正確に制御することにより、必要に応じた出力電圧を一定に保つことができます。また、入力時のフィルターも重要で、ノイズをフィルタリングするだけでなく、その電源自体を増幅回路の輻射から完全にアイソレートする役割も備えています。

また、これらの処理はすべて人間の聴覚の範囲をはるかに超えた高い周波数帯で行われているため、聴感への影響がありません。さらに言えば、高周波のノイズはフィルタリングで対処するのも容易です。

フランクス氏は、音楽信号の変化に対して電源が追従できないために起きる変動が、アンプの音質を決定づけると説明する。CHORDでは、独自のスイッチング電源によってこの変動を完全に回避しているという


アンプ各段のグランドを一定に保つ「ダイナミックカップリング」システム

ーー なるほど。それでは、「ダイナミック・カップリング」システムとはどのような役割を持っているのでしょうか

フランクス氏 ダイナミック・カップリングシステムについてはさらに専門的な話になるので、抽象化して説明しましょう。

ご存じの通りアンプの増幅は複数のステージに分けて行われます。微小な信号を取り扱う初段から、中段・後段へとステージごとに信号が増幅されていきます。常に一定の信号を増幅するのであれば問題はないのですが、音楽信号はリアルタイムに変化しますから、先ほど説明したようなオシレーションが起こります。このオシレーションが、各段での処理のタイミングの微妙なズレや誤差を発生させます。結果、最終段から出力される信号は、音楽としてかなり乱れたものになってしまうのです。

この各段での処理のタイミングの誤差をなくすために重要なのが、グランド(電位)の安定です。通常のアンプでは、信号エネルギーの大小とこれに追従する電源によってグランドが変動して、各段の処理タイミングに誤差を生じさせます。CHORDのアンプで特徴的なのは、ダイナミック・カップリングと呼ぶ回路を用いることで、変動しようとするグランドを逆から引っ張って常に一定に保つことで、グランドを常に安定した状態に保たせるのです。

この回路では、正と負の“レール”が強力な磁束によって互いに強固に結合されています。片方のレールに需要があれば、これに応じて反対側のレールからエネルギーを供給するので、常に完全にバランスを取ることができるのです。

ここで最初の話に戻るのですが、このグランドを安定させる技術こそ、アビオニクスのノウハウなのです。グランドの安定によって信号の安定した伝達が可能になり、タイミングの誤差を排除した信号増幅を行えるのです。

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