石見周三

こちらからお客様に対して動かなければ
心を開いていただくことはできません
スペック株式会社
代表取締役社長
石見周三
Shuzo Ishimi

2010年1月6日に設立、9年目を迎えているスペックが、市場に確たる存在感を示している。「リアルサウンド」を追求するものづくり、体験の場を広げる精力的な活動でブランドの確立を推進、国内はもとより海外展開にも意欲的に取り組む。同社の昨今の活躍を、石見周三社長に聞く。
インタビュアー/徳田ゆかり Senka21編集人  写真/柴田のりよし

真に音楽を楽しめる
オーディオづくりを貫く

石見さんがオーディオに出会ったきっかけをお聞かせください。

石見小学生の時に放送部の部長になって、朝早くから放送室でクラシック音楽などをかけていました。自分の家になかったアナログプレーヤーに初めて触れて、いろいろなレコードを聴くうちに音楽が好きになったんです。それから小学生の頃、父が突然トランジスタラジオを買って帰ったことがあった。家にあったラジオと2台並べたんですね。その時NHKでステレオの実験放送をやっていて、Lチャンネル、Rチャンネルが第一放送と第二放送で放送されていたのを2つのラジオで別々に再生して聴いた。初めてステレオ再生を体験して、すごくいいなと思いましたね。もうひとつ忘れられないのは踏切の音。高校生になる頃、これまで「チンチンチン」と鐘の音だった警報が電気式に変わって「ファンファンファン」になった。警報機についていたマークを調べたら、パイオニアのものでした。この時の音の変化が衝撃的で、パイオニアの存在が強く印象に残ったんです。

私はオーディオのマニアではありません。機械に対する興味や強い思いは持っていませんで、音楽が好き。オーディオはあくまでも音楽を聴くための道具です。機械が好きな方がスピーカーをつくったりアンプをつくったりされますが、私自身はそういう体験はしませんでした。

学生時代には卓上用のステレオセットを持っていましたが、ある時スピーカーの音が出なくて分解してみると、ユニットにあのパイオニアのマークがあって、それでスピーカーのメーカーであると知りました。そんなこともあって就職活動でパイオニアも受験して、結果的に決まった。運命を感じますね。私自身を含めスペックのメンバーは、パイオニアの出身。パイオニアのDNAを持っていることは、今も自分たちの強みだと思っています。

パイオニアで営業職に従事されて、のちにスペックを設立されました。

石見パイオニアでは国内営業に従事して9度転勤し、全国のご販売店様とおつきあいさせていただきました。国内の業績が思わしくなくなり、事業の縮小に伴って人員整理を余儀なくされ、私も責任を取って2009年の9月末に退職しました。その後、退職したメンバーで合宿して、それからのことを議論しました。いろいろとシミュレーションをした結果、オーディオの会社をつくることになったのです。パイオニアの音とは違う次元で、自分たちの思うリアルな音を求めて、マニアの世界ではなく音楽を真に楽しめるオーディオをつくりたいと。それがスペック設立の始まりです。

当初から目指したのは、「リアルサウンド」。長い間でも聴き疲れのしない、小さな音でも低域を含めて実在感があり、大きな音でもうるさく感じない音。自然界で聴く音と同様に、長く聴いていられる音です。新しい技術を採用してアンプをつくりました。それがアナログアンプにデジタルのチップを搭載したPWM方式。我々が提案してからの10年間で、ほかのさまざまなメーカーさんも同様の技術で製品を投入されています。最初はお客様もデジタルアンプというだけで拒絶反応でしたが、しっかりご説明して、聴いてよさを実感していただいてきました。

お客様の体験の場をつくる
実践活動でブランドを築く

市場に受け入れられるまでは、どんな活動をされましたか。

石見ひと言で言うと、ブランドを浸透させる活動です。それを「実学主義」でやってきました。私の好きな王陽明の理論です。孔子の力学は机上の論理ですが、王陽明は実践に重きを置く。「事上磨錬」の考え方で、ことに当たっては真剣に、一生懸命にやらなければ自分のためにも世の中のためにもならないと。私もそういう考え方で、お客様に対してもこちらが動かなければ心を開いていただくことはできないと思っています。

お客様に体験をしていただかなければ始まらない。スペックは全国のイベントに参加しています。体験していいと思って、スペックの商品を買いたいと思ってくださる方が増えています。そうやって体験の場をどんどんつくって、ブランドを確立させていく。まず自分たちが行動を起こす。その実践活動がブランドづくりになるのです。

ものづくりと実践活動が両輪の考え方ですね。

石見私たちSPECのBASiCS」という表があります。これを会社のバイブルとしています。私たちの顧客はあくまでもカスタマーであり、ご販売店様ではありません。商品はカスタマーのためにつくります。ご販売店様はカスタマーに商品をお届けするためのパートナーで、ある意味メーカーとは対等な関係だと思います。そうした考え方に共感してくださるご販売店様と、協力関係を結ばさせていただいています。

パイオニア時代からこういう考え方でしたが、小さなメーカーとして今はもっと身軽に行動できる。ものづくりにもそれが活かされています。この10年間はご販売店様にイベントをやりましょうとこちらから積極的に働きかけて、ブランドづくりを進めてきました。ただここのところは皆年齢も重ねて、体力的に厳しくなってはきましたが…。ご販売店様にとっては、商売ベースでスペックの商品を欲しいと言ってくださるお客様の数がまだ少ない。お客様をもっともっと呼ぶ活動をやらなければなりません。これからは媒体のお力も借りて強化していきたいと思っています。

市場では歴史あるオーディオのブランドが活躍していて、新製品が出て買い替えが起こり、中古品がまた市場に出ていく販売のサイクルがしっかり確立されています。スペックはまだその中には入っていけていませんが、既存のブランドのほかに何かないかと思っているお客様が、スペックの存在に気づいて、違いをわかって気に入ってくださっています。我々が考えている音に共感してくださる。既存のブランドがあるからこそ、違う立ち位置でスペックが存在する。まったく違うものだからこそいい展開ができると思っています。

リアルサウンドをアピールし
お客様を増やしていく

石見周三
我々はアンプやプレーヤーのメーカーではなく、「リアルサウンド」のメーカーなのです

海外展開の状況はいかがでしょうか。

石見現在では36カ国に取引先ができて、特にイタリア、ポーランド、フィンランド、フランス、オランダ、オーストラリアなどが好調です。安定的に動いているのはUSA、タイ、台湾、インドネシア、韓国。10月末に韓国でディーラーやお客様を集めた試聴会も行います。今後は未開拓の中国本土や東南アジア、中近東、南アメリカに注力して、海外出荷全体を拡大したいと考えています。

マーケティングの手法は日本も海外も基本は同じ、メーカーとしての熱いメッセージをいかにお客様に伝えていくかですね。これまでラスベガスやロッキーマウンテン、ミュンヘンなどのショーに出展しましたが、今年は8月の上海ハイエンドショーに単独ブースで参加し、9月はオランダのショーにも出展しました。さらに11月には、世界第2の規模のポーランド・ワルシャワのショーへ参加が決定しています。

海外に向けては、有力なWEBサイトを駆使して認知を広げています。このほど「6MOONS」のBlue Moon Awardを受賞し、その効果で各地からの受注が増えています。国内と海外の比率は、だいたい6対4です。ただ比率がどうというより、全体に伸ばしていきたいところ。まずはブランドという土台をしっかりとつくらなければ、何も始まらないことはよくわかっています。

新規のお客様の獲得について、どうお考えですか。

石見市場を席巻するヘッドホンユーザーがハイファイオーディオに来ないのがひとつの悩みだと思います。そういうお客様に対応できる価格帯の商品を我々もまだもっていないですが、商品ができれば手立てはあるかと思います。今の若い方達は、本当の意味でのリスニング体験をしていないと思います。ヘッドホンのユーザーは、我々とは違う領域にいる。そこを解消するのはやはり音楽、機械ではないと思っています。音楽を聴く体験を通じて、ヘッドホンとハイファイオーディオは違うという実感をもっていただくこと。現在の我々の体験活動は、既存のオーディオファンに向けてのもの。新しいお客様に対しては、今までとは違う場で行わなくてはいけません。喫茶店や家具屋さんなどへ、場を広げているところです。

「リアルサウンド」のアピールですね。

石見名古屋の催事で、イーグルスのライブ盤を聴いて感動された女性がいました。毎日スペックのブースにいらっしゃって、ずっと聴いている。なぜかと聞きますと、イーグルスのライブを、そのレコードが収録された場所で見たそうです。このライブ盤はオーディオによってはパーカッションの音が強調されて聴こえますが、スペックのシステムではライブ会場で聴いたとおりに聴こえると。その話を聞いて我々も、自分たちの方向性が間違っていなかったという思いがしました。

スペックの音は自然な音、その軸はぶれません。スピーカーとスピーカーの間に鎮座して聴くオーディオではなくて、リラックスして自由に聴いていただけるもの。それは機械の方で調整ができているからです。どこからでも、移動しながらでも同じバランスで聴こえる。アンプの力が強く、音を制御できるからです。

私たちがつくっているのはセレクター付パワーアンプでプリメインアンプをつくっているつもりはないのです。それがひとつのこだわり。昨年ピュアダイレクトがオーディオ銘機賞を頂戴しましたが、あれがまさに我々の主張です。通常のオーディオでは音源はプリアンプに入り、そこでぐっと圧縮されますが、スペックのアンプでは音源の100%をパワーアンプに入れて、100%のままで聴く。それがピュアダイレクトなのです。製作者の意図や思いも、何一つ欠けることなく音で感じられるものだと皆様に言っていただけます。つまりリアルサウンドです。リアルサウンドこそ、スペックの柱。我々はアンプメーカーではなく、デジタルプレーヤーのメーカーでもターンテーブルのメーカーでもない。リアルサウンドのメーカーなのです。

イベントでは、リアルの演奏とオーディオの聴き比べもします。演奏を録音してオーディオで再生したりもする。そういう時私が言うのは、リアルとオーディオは上下の関係ではなく、並行の関係だということ。リアルの音楽を聴くのは素晴らしいことですし、オーディオでの再生もその楽しみと並行する。同じ音楽で、違う楽しみ方があるのです。

年末以降注力される商材は。

石見新たに投入したプリメインアンプのRSA-M88を展開していきます。そしてターンテーブルの最高級品も認知を拡げていきます。また2019年は当社の10周年。アニバーサリーモデルをご用意していますので、ぜひご期待いただきたいと思います。

思いを伝えていく活動は変わりません。そして思いを伝えるとは、「面授」の言葉が私は好きで、唾が当たるくらいの距離で話さなければ自分の思いは伝わらないという意味。そのために、いろいろな場所に行ってお伝えしたいと思います。揺らがず、軸をぶらさずいきます。オーディオは内向的なものと思われがちですが、時空を超えて音楽を聴く、アグレッシブな楽しみ。その時代時代に飛んでいける。亡くなった方にも会える。匂いや思いも蘇る。そして癒される。その楽しさをお伝えしていきます。

◆PROFILE◆

石見周三 Shuzo Ishimi
1952年11月13日生まれ。明治学院大学法学部卒業後、パイオニア(株)入社。パイオニアマーケティング(株)取締役営業本部長を経て、2010年1月6日 スペック(株)を設立し現職に就任。現在に至る。

back