吉澤博三

フルレンジの音の魅力を若い人に訴える
空気を伝わる音の感動を呼び起こしたい
フォステクス カンパニー
プレジデント
フォスター電機株式会社
代表取締役社長
吉澤博三
Hiromi Yoshizawa

フォスター電機・代表取締役社長を務める吉澤博三氏が4月1日、フォステクス カンパニー プレジデント(兼務)に就任した。“原点回帰”を掲げ、代名詞とも言えるフルレンジのスピーカーユニットを前面に打ち出し、スピーカーが奏でる音楽の素晴らしさを若い世代にも力強く訴えかけていく。
インタビュアー/樫出浩雅 音元出版副社長  写真/柴田のりよし

空気の振動で聴く感動を
若い人たちに伝えたい

1973年に誕生した音響機器専業メーカー「フォステクス(Fostex)」は今年で45周年を迎えます。

吉澤熱心なフォステクスのファンがたくさんいらっしゃいます。オーディオ人口が縮小し、ビジネスとしては厳しい環境に置かれていますが、取り組む価値が大いにある。フォスター電機では今、オーディオ用やテレビ用、車載用などのスピーカー事業、ヘッドセットやヘッドホン、業務用マイクロホンのモバイルオーディオ事業など、OEMを主体にした事業を展開していますが、それらに関連したさまざまな業界には昔からのフォステクスのファンが数多くいらっしゃいます。「フォステクス使っていたよ」と声を掛けられることも少なくなく、商売をする上からもそのシナジーを強く実感しています。

吉澤プレジデントご自身も若い頃からオーディオファンだったそうですね。

吉澤若い頃は周りが皆ギターをやるのですが、やってみるとこれがどうにも才能がない、それでオーディオに走りました(笑)。高校ではジャズを聴く仲間がたくさんいたものですから、吉祥寺のパラゴンが置いてあるジャズ喫茶によく通いました。そしてだんだんと、コンポーネントはどれがいいとか、アンプは何にしようかとか、オーディオにハマっていってしまいました。

4月1日にフォステクスカンパニーのプレジデント(兼務)にご就任されました。

吉澤今回、私がカンパニーを預かったのは、オーディオファンが年々減少していく中、音楽文化としてこれまでフォステクスが育ててきたものを、もう一度根付かせたいという強い思いからです。音楽ファンをどのようにして創っていくかは、我々に課せられた大切な役目。それができなければ音楽業界が廃れてしまいます。今、それがとても大事な局面を迎えているように思えてなりません。

とりわけ、スピーカークラフトの世界は、御社の存在抜きでは語ることができません。

吉澤フォステクスと言えばやはり、ファンの方からも大きな支持と期待を集めているのはフルレンジのスピーカーユニットです。事業としてはレコーダーやアンプなどいろいろな商品を手掛けてきましたが、ここに来て絞り込みを進めており、私の強い想いとしては、原点回帰でもう一度、フルレンジで勝負を掛けようと思います。

今、大変強く感じているのは、30歳以下の若い世代で、オーディオをイヤホンで聴いて楽しむのが当たり前の光景になってしまっていること。「それは違うよ!」と声高に叫びたい。通勤・通学で移動をしながら聴く、スポーツをしながら聴くといったシーンでの利便性は理解できますし、そうしたところにいい音を追求していく姿勢も大事です。しかし、空気中に振動で伝わる音がどんなに素晴らしいものなのかもきちんと知ってもらいたい。そうしたイヤホン世代の若い方たちに向けて、「フルレンジでもこれだけいい音が聴けますよ」というメッセージを力強く訴えかけていきます。

若い人もコンサートやライブなどの“コト消費”には惜しみなくお金を使います。人気アーティストのライブのチケットは入手するのも困難で、「生の音で聴きたい」「一体感を味わいたい」との気持ちは強く持っています。しかし、イヤホンやヘッドホンではそれを再現することはできないのです。その時に感じるリアルな音の感動を、スピーカーの音ならズシンと肌で受けとめられます。それを、若い人たちにも是非感じてもらいたいですね。

昨春にはバックロードホーン型スピーカーボックスを発売され大きな話題を集めました。今は専門店でも若い販売員の方は、バックロードホーン型スピーカーを聴いたことがない人が少なくないそうです。

吉澤先日も鳥型のバックロードホーン型スピーカーを販売店様にお貸ししたのですが、「10pフルレンジでこんなに素晴らしい音が出るのか」と大変驚かれていました。カナル型イヤホンで音楽を大音量で楽しまれるのもいいのですが、私が10pフルレンジユニット「FE103」を初めて聴いた時に感動した、あの鮮烈な思い出を蘇らせたい。空気の振動で聴く感動を、どうにかして若い人たちに呼び起こしていきたいですね。

吉澤博三
ライブのリアルな音の感動を
ズシンと肌で受けとめてほしい

人口減社会の到来も
格好のビジネスチャンス

縮小が続くハイファイオーディオ市場の課題をどのように見ていますか。

吉澤オーディオファンの裾野を広げて活性化してくためには、やはり小学生・中学生の頃から慣れ親しんでもらう環境が不可欠だと思います。しかし今は昔と違い、そうした体験を提供してあげなければなりません。そこで、施策のひとつとして、小学校や中学校の教材にスピーカー工作を採り入れていただけないかとの取り組みを考えています。

スピーカーにしてもヘッドホンにしても、部材や原材料を調達し、部品を内製し、組み立てている会社は、実は国内にはもうフォステクスしか存在しません。すなわち、フォステクスだからこそ提案できるアイデアと言えます。

ユニットまで作れなくても、自分で箱を組み立て、それを家に持ち帰って聴いてみると音が出てくる。当社も「ファミリーデー」と称し、社員のご家族にスピーカーを作ってもらう体験をしていただいていますが、音が出ると皆、目を丸くして驚かれます。公立の学校では少し難しそうですが、私立でしたらカリキュラムに採用していただける可能性があるのではないでしょうか。オーディオに対する親近感が、こうした感動を通してきっと生まれてくるはずです。

今、業界の取り組みとして一番欠けている部分かもしれませんね。

吉澤生活の中のオーディオシーンとしても、オーディオファンやマニアが高齢化して自由になる時間が増えていることもひとつの追い風要因です。高齢化社会を迎え、リタイア後の家での夫婦の在り方においても、それぞれが自分の趣味に費やす時間が増えていきます。私も妻とは趣味が全く違っていて、お互い違うことをやっている時間も多いです。もちろん一緒に食事に出かける時間もあります。そうした空気感がとても心地よく、また新鮮です。四六時中隣にいてぶつぶつ喧嘩していてもしようがないですから(笑)。

また、マイナス面ばかり指摘されることが多い人口減社会の到来にもビジネスチャンスとして期待を抱いています。これから徐々に人口が少なくなると、まず住環境が変わります。空家問題がすでに取り上げられていますが、これから将来、建て替えでは部屋も広くなり、隣の家との距離も離れてきます。そうすると、音楽を車や電車の中だけでなく、家の中でもスピーカーである程度大きな音を出して聴けるようになります。同時に働き方改革等の施策で日本人の労働時間も少なくなり、自由な時間も増えていくでしょう。医療技術の進歩等で人生100年時代も目の前に迫っています。何れも10年以上のスパンの話にはなりますが、そうした時、自分の人生を見つめ直し、寛いだ時間をどう過ごしていくかを考えると、やはり欠かせないのは音楽です。人手不足で一人当たりの所得も上がり、その分、余暇に使えるお金も増えていくはずです。

そうした流れをうまく取り込んでいくためにも、今から30代くらいのお客様に受入れられる手を打つ必要がある。ライフスタイルの中のオーディオ・ビジネスとしての観点から言えば、30歳の人ならば、これから先70年もお付き合いいただけるお客様になるわけです(笑)。それぞれのステージにおいて、フォステクスとしてもっとやれることがあるはずだと考えています。

メイド・イン・ジャパンも
大きな強みのひとつ

御社が主軸に据えるスピーカーユニットでは、今後どのような展開をお考えですか。

吉澤まず、フォステクスの代名詞とも言えるフルレンジのラインナップの強化を図ります。ウーファーやトゥイーターは少し商品点数を絞り込んでいきますが、バックロードホーン型スピーカーなどでは、スーパートゥイーターとの組み合わせが最適ですから、そうした品揃えにもきちんと目を向けていきます。フルレンジを中心としたスピーカーユニットをベースに位置づけ、マニアの方に加え、一般のお客様に向け、力強く訴えかけて参ります。

「見る」「触れる」「体験できる」場がますます大切になります。ショールームの展開や、さきほどは学校のカリキュラムへスピーカー工作を採り入れるお話がありましたが、専門店は変わらず重要な役割を担う存在ですね。

吉澤当然、我々だけではもちろんできないことですし、そこにはありがたいことに、フォステクス45年の歴史を支え、応援していただいてきた専門店様が存在します。力を合わせてもう一度、オーディオを盛り上げていきたいですね。

一時期、中国生産だったものを、ボックス組立だけは国内生産に移行されていますが、これからそうした取り組みを進めていく上で、メイド・イン・ジャパンのメリットを打ち出せるようなアイデアはございますか。

吉澤そこもいろいろと作戦を考えているところです。例えば、昭島市の本社まで足を運んでいただければ、ユニットを作る工程を実際に見ていただくことができます。また、オリジナル商品として、自分の名前を商品に刻印するといったことも可能です。こうした味付けはまさに、海外生産では実現できない、メイド・イン・ジャパンならではの良さと言えます。

一方のスピーカーシステムの展開についてはいかがでしょう。

吉澤スピーカーユニットとスピーカーシステムの両方に対し、同時にフルパワーで力を入れていくことは難しいですから、まずはスピーカーユニットに力を入れて参ります。ハイファイオーディオのマーケットは、まだまだ盛り上がりに欠けますが、さきほど申し上げたような明るい材料も見受けられます。スピーカーシステムについても、フラグシップモデルをいつ投入するか、そのタイミングを考えていくことは大事なテーマのひとつとなります。皆、力も入りますしね(笑)。フラグシップモデルをきちんと提供できる力は、フォステクスだけでなく、フォスター電機の生命線でもあり、要素技術や開発技術を絶やすわけにはいきません。今後、さらに魅力的な提案を行っていくためにもチャレンジを続けて参ります。

まだまだやり切れていない多くの課題が残されたオーディオ・ビジネスに対し、業界をあげて、より真剣に向き合い取り組んでいかなければなりません。

吉澤これからゆとり時代、人口減社会に向かっていきますが、そこにもオーディオをビジネスメイクするチャンスはまだまだあります。若い人たちに「スピーカーの音ってこんなにいいのだな」という気づきを、耳だけでなく、腹の底までウーファーの低音が染み渡るような、体全体を使って体感してもらえる、そんな体験ができる場づくりを販売店様と一緒に提供していきたいと思います。

フォステクスは原点回帰、「リボーン・新生フォステクス」としてファン創造にさらに力を入れて参ります。オーディオに取り組んでいく限り、それは私たちの使命です。45年にわたり、オーディオブームを一緒に歩み、フォステクスを支えてくださった専門店様と手を取り、音楽ファンの裾野をどのようにしたらもっと広げていけるのか。もう一度いろいろな視点から、お客様の心を動かすチャレンジを行っていきたいと思います。どうぞご期待ください。

◆PROFILE◆

吉澤博三 Hiromi Yoshizawa
1954年生まれ。1976年 フォスター電機株式会社入社。2006年 執行役員、2007年 取締役、2014年 代表取締役社長、2018年 フォステクスカンパニープレジデント兼務。座右の銘は「失意泰然得意淡然」。

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