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AI対応を強化、「Snapdragon Sound Elite Gen 2」は何が凄い? Cleerがカメラ内蔵イヤホンを開発中
山本 敦米クアルコムは、ハワイ・マウイ島で開催した「Snapdragon Summit 2026」の2日目に、ワイヤレスイヤホンやスマートグラスなどウェアラブル端末を支える最先端技術と半導体SoCを発表した。
今回発表された最新のウェアラブル向けSoC「Snapdragon Sound Elite Gen 2」は、イヤホンやヘッドホンの高音質化を支えてきたクアルコムの従来技術を継承しながら、AIを活用した数々の新機能を盛り込み、オーディオの枠を超えたプラットフォームに進化していた。その特徴や詳細をレポートしていこう。
Gen 2はAI関連にも貢献するパフォーマンス向上を図った
Snapdragon Sound Elite Gen 2はワイヤレスイヤホン、ヘッドホン、あるいは音声コミュニケーション機能を持つスマートグラスのような製品に搭載されることを想定した上位のサウンドプラットフォームだ。CPUや音声処理用の回路、AI処理回路、Bluetoothと省電力Wi-Fiを組み合わせている。
クアルコムのオーディオ向けSoCについて、その変遷を追いかけてきた方であれば、最新SoCの名称にいきなり「Gen 2」が付いたことに少し違和感があるかもしれない。
直近の進化の歴史をひも解くと、このSoCは2023年に「Snapdragon Summit 2023」で発表された「Snapdragon S7 Gen 1 Sound Platform」の後継に位置付けられる。つまり、「S7 Gen 2」と考えてよい。
「S7 Gen 1」の時点でオンデバイスAIやWi-Fi接続、音質を支える新しい設計を導入しており、最新世代のSoCでは、さらにAI関連の用途とパフォーマンスを拡張している。
クアルコムのオーディオ向けSoCに搭載されるAI処理専用のニューラルプロセッサー「eNPU」のピークAI演算性能は最新だと128 GOPS。「S7 Gen 1」の64 GOPSに比べると倍増した恰好だ。さらに稼働時の消費電力を最大40%削減し、プラットフォームの実装面積も最大30%小さくしている。
ただし、40%という数字はWi-Fi接続中の待機状態について、新旧SoC間の設計シミュレーションを比べた値だ。当然ながら、音楽再生中の電池持ちが一律に40%延びるという意味ではない。常時待機するAIのために、演算性能と省電力性をバランスよく両立させることが、SoCをブラッシュアップした狙いの根底にある。
Wi-Fi活用のXPANのほか音質関連の機能強化も
オーディオリスニングを楽しむための基盤にはaptX Adaptiveを含むSnapdragon Soundの技術群を揃えるが、今回クアルコムが発表した技術資料等では「aptX Lossless」の採用を前面に掲げている。
対応する送信側機器や通信環境がそろえば、音楽データをロスレスでイヤホンに届けられる。ロスレス品質で配信される音楽サービスが増えていることを受けて、Snapdragon Soundの優位性として今回強く打ち出しているようだ。
なお、aptX Losslessは通信が混み合う場所などを含め、実際の音質や接続の安定性維持については製品側の設計にも左右される。
クアルコムのサウンドソリューションには、BluetoothオーディオのプロファイルをWi-Fiプロトコルの上に走らせて、優れた音質と高いロバスト性能(※ノイズや誤信号に対する耐性)、低遅延伝送を実現するワイヤレスオーディオ独自技術「Qualcomm XPAN」がある。Gen 2のSoCもこれを継承した。
自宅などでスマホのBluetoothが届きにくい場所へ移動しても、対応機器ならWi-Fi経由で音楽や通話を続けられる仕組みだ。
これはGen 1世代から備わる機能だが、最新のSoCではWi-Fiデータレートが従来の3倍以上に向上し、Wi-Fi 6E帯域のサポートや通信範囲の拡大が図られている。
また、パッケージサイズについては従来Bluetoothと省電力Wi-Fiのコンポーネントを内部で別々に分けていたが、これらを一体化することで全体に小型化・高集積化されている。
米クアルコムのWearable and Personal AI, SVP & GMであるZiad Asghar氏は、「カメラを搭載するスマートグラスやオーディオグラスなどウェアラブルデバイスから、画像データを伝送する際にもこの帯域と範囲の拡大が寄与する」と、XPAN周辺のパフォーマンスを拡張した狙いを説いている。
最新のSoCである「Elite Gen 2」が狙うターゲットデバイスはヘッドホンやイヤホンだけでない。オーディオグラス、スマートリング、小型ペンダント型デバイスなども視野に入れており、カメラ入力をAI処理のコンテキスト(周囲の状況把握)として取り込む構成にも対応するため、設計を最適化している。
サウンド関連のもうひとつの進化は、第5世代の「Qualcomm Adaptive ANC」を搭載することだ。装着状態や周囲の環境に合わせてノイズ低減を調整し、またヒアスルー機能や、状況に応じて聴こえ方を整えるAI処理も組み合わせる。
通話とAIへの音声入力には、cVc(Clear Voice Capture)による音声処理とAIを活用したマイク処理を用いる。周囲が騒がしくても話者の声を捉えられるかは、音声入力に対応するAIアシスタントの使い勝手にも直結する。
Adaptive ANCや聴覚補助は「S7 Gen 1」にも搭載されていた。今回のSoCでは遮音性能の「強さ」の数字を競うというより、聴きたい音と周囲の音を、その時々に合わせてどう扱うかが目指す進化の方向性だ。
クアルコムはまた、「Elite Gen 2」のSoCが音楽再生と通話、周囲の音の検知、AI処理を同時に動かせることも強調している。実際にどの機能をアクティブにして、ウェイトを持たせるか、ハードウェアのベンダーが搭載するマイクやソフトウェアによっても変わる。
クアルコムはベンダーに対して「Snapdragon Sound Apps & Agents」というエコシステムを提供し、独自のAIアシスタント、翻訳サービス、生産性向上ツール、コンテンツ再生のプラットフォームや、新たなパーソナルAIアプリケーションへのアクセス拡大を支援する。
Cleerがカメラ内蔵ワイヤレスイヤホンを開発
先述のQualcomm XPANに関わる、新開発の省電力Wi-Fiコンポーネントの役割についてもう少し掘り下げる。
SoCにWi-Fi通信機能が載ることで、アクセスポイントのある場所でイヤホンからクラウドのサービスへ直接つながる道が開かれる。
現在時点で対応するデバイスはまだ多くないが、シャオミが商品化したワイヤレスイヤホンの「Xiaomi Buds 5 Pro」がXPANの機能を幅広くサポートしている。
自宅やオフィスなど、屋内であればアクセスポイントへのダイレクト接続が活きる場面に多く遭遇するだろう。一方、屋外を移動する場面などでは、デバイスにペアリングしたスマホや通信機能を備える別のデバイスの回線を利用する。
クアルコムのオーディオ・XR関連のプロダクトマネージャーであるAndy Laister氏は「XPANはオーディオ機器によりスマートフォンの役割を “置き換える” ための機能ではない」と強調している。スマホを取り出したくない場面で、ユーザーをサポートすることがXPANの「ひとつの活用術」に過ぎないということだ。
ここで、先ほどAsghar氏が言及した「カメラを搭載するウェアラブルデバイスの画像データを送る場面」で、XPANの技術が活きてくる。
Snapdragon Summitでは、アメリカのオーディオブランドであるCleerが、本体にカメラを内蔵する耳掛けスタイルのオープン型ワイヤレスイヤホンを開発中であることが伝えられた。
本機は写真や動画を撮影・記録する用途よりも、ユーザーの周囲環境を画像データとして読み取り、視覚言語モデル(VLM)による処理に活かすことを想定している。
例えば目の前にあるオブジェクトや風景の様子をカメラで読み取り、AIが画像解析の結果を伝えてくれれば、視覚障がい者の支援も含めて、スマートデバイスが様々な用途に役立てられる。
量子化技術により小型で安定動作するAIモデルを実現
Snapdragon Summitの2日目の基調講演では、米国を拠点とするスタートアップ企業Prism MLが開発を進める「1ビット推論エンジン」も紹介された。
メモリ容量に厳しい制約があるワイヤレスイヤホンやオーディオグラスのような小型デバイスに、量子化技術によって1ビットまで圧縮したAIモデルを搭載し、ローカルAI、すなわちオンデバイスAIを動作させるための技術だ。
一般に、モデルを大幅に量子化すると推論精度の低下が課題になりやすい。Prism MLの技術は、精度を高い水準で維持しながらモデルを軽量化し、高速なVLMの推論を可能にするという。
タッチ&トライ会場では、Prism MLの1ビット推論エンジンを搭載したカメラ内蔵スマートグラスの試作機も体験できた。
色とりどりなフルーツや展示会場の様子をカメラで捉えた直後に「これは何の画像?」と尋ねると、音声アシスタントが的確な答えを返す。クラウドに処理を委ねることなく、デバイス上のAIモデルが素速く応答する様子はとても印象的だった。
デモ会場ではワイヤレスイヤホンのリファレンスモデルを使って、少し離れた場所に立つ会話相手の声を聞き取りやすくする聴覚支援技術も体験した。
機能をオンに切り替えると、目の前の話者の声が明瞭になる。Snapdragon Sound Eliteの前世代のチップに、最新のアルゴリズムを載せたデモンストレーションだったが、単純に声をブーストするだけでなく、自然でストレスのない聴こえ方になるチューニングが好印象だった。日常の会話にも役立つ可能性がある。
AIと連携するウェアラブルデバイスの拡大に期待
では、Cleerが開発を進める “カメラ付きイヤホン” のような製品が採用するSnapdragon Sound Elite Gen 2とは、今後どのように役割を分担し、デバイスカテゴリーをすみ分けていくのか。その展望をLaister氏に聞いた。
例えば高解像度の写真や動画を「撮って共有する」ことを主な目的とするデバイスには、AR1が適している。
一方、音声を中心とした体験を軸にしつつ、カメラから得た画像情報をAIモデルに入力するためのデータとして取り込む用途であれば、Snapdragon Sound Elite Gen 2も有力な選択肢になるという。
それぞれのSoCはこのほかにも処理性能や機能、電力設計などに異なる特性を備えている。
今後はオーディオグラスやカメラ付きイヤホン、衣服などに装着するピン型の小型ウェアラブル、スマートリングなど、AIと連携するスマートなウェアラブルデバイスの種類がさらに広がり、それぞれの用途に応じて最適なプラットフォームが選ばれていくことになりそうだ。それに伴い、ユーザーがAIデバイスから得られるメリットもますます多様化するだろう。
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