公開日 2021/06/02 06:40

生産完了したHomePod、あえてもう1台買い増したら大満足の結果に

生産を終えてから魅力が高まった
風間雄介
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE
すでに生産を完了した初代「HomePod」。日本では2019年に発売されたモデルが、早々にその幕を下ろした。昨年発売され、価格がぐっと安く、さらに本体もぐっと小さくなったHomePod miniが、アップルが現在作っている唯一のスマートスピーカーということになる。

アップル「HomePod」¥36,080(税込)

HomePodは、世間的には失敗作なのだろう。2019年1月に、サンフランシスコのアップルストアを訪ねる機会があったが、アメリカでも発売からまだ日が浅かったにもかかわらず、すでに目立つ場所には展示されておらず、後ろの棚にひっそりと置かれていた。それほど初動が悪く、またその後も大きく上向かなかったということだろう。

昔は失敗作も数多く作っていたアップルだが、いつの間にか優等生になってしまった。近年、ここまで明確に売れ行きが悪かったとわかる商品も珍しい。

そのHomePodを、今回、1台買い増した。これまでも1台持っていたので、計2台になった。生産完了したから今後入手困難になるのでは、と焦ったわけではない。中古品が多数出回っているので、今後も入手は容易だろうと考えていた。

シンプルに「HomePodが2台あると良いだろうな」と思える状況になったので、このタイミングで購入した。結果、大満足しているのだが、その理由をかんたんに紹介していこう。

2台になったHomePod。互いの位置関係を自動的に測定し、最適な音場を作り出す

「ダラダラ聴き」にちょうど良かったHomePod

HomePodを、私はもともと、かなり気に入っていた。どのくらい気に入っていたかというと、リビングのオーディオシステムで音楽を聴く時間より、同じくリビングのテーブルに置いたHomePodで聴く時間の方が長いほどだった。3万円台でこんな音が出るのに、どうして売れないのか、などと不思議に思っていた。

当然ながら、ステレオペアにすることも何度か考えた。だがリビングには、モノラルパワーアンプ×2台やフロアスタンディングのスピーカーなど、ある程度ちゃんとしたオーディオシステムが、一応置いてある。当たり前だが、それを上回るほどの音質が実現するとは思えなかった。だから「1台使い」のまま、ダラダラ音楽を聴きたいときに、iPhoneから気軽に音楽を流して楽しんでいたのだ。

生産完了がアナウンスされてから、逆に魅力が高まった

一方で、アップルは実にきめ細かく、これまでHomePodの機能向上を繰り返してきた。

なかでもかなり可能性を感じたのは、昨年冬、Apple TV 4Kと組み合わせて、サラウンド音声やドルビーアトモスの再生が可能になったときだ。実際に試してみると、なかなか臨場感がある。だが、いかんせんスピーカーが1台なので、テレビの片側に置いて映画を見てみると、どうしても画面の片方から音が出ていると知覚できてしまう。

昨年冬に提供開始したtvOS 14.2で、HomePodをホームシアター用スピーカーとして活用することが可能になった

これは2台あった方がいいかもな、と一瞬考えたが、「いや、待てよ。このドルビーアトモス/サラウンド再生が可能になるのは、Apple TV 4Kで再生するときだけだ。そのために追加投資するのはもったいない」と冷静になり、踏みとどまっていた。

そして時が経ち、2021年5月。HomePodの魅力がぐっと高まる、魅力的になるサービス強化や、ハードウェアとの連携が、既に生産完了しているこのタイミングで、次々に発表された。

まず大きかったのは、第2世代Apple TV 4Kとの連携だ。ニュースで記事化したように、第2世代Apple TV 4Kは、eARC/ARCに対応している。つまり、Apple TV 4K以外の映像ソース、たとえばテレビ放送やHDMIに入力したほかの映像機器などの音声を、いったんApple TV 4Kに戻すことができるようになった。

さらに、その戻した音声を、HomePodへワイヤレスで飛ばして再生できる。つまり、第2世代Apple TV 4Kを介して、HomePodをテレビスピーカーとして活用できるのだ(この機能は、今のところHomePod miniでは利用できない)。

eARC対応テレビであれば、テレビのARC設定を「パススルー」などにしておくと、外部機器から出力したドルビーアトモス音声を、Apple TV 4K経由でHomePodから再生、ということも可能だ。

ARCを設定したところ。今のところベータ版という位置づけだ

さらに気持ちを高めたのが、ロスレス音声への対応だ。6月からApple Musicの全カタログがロスレス対応するが、将来的なファームウェアアップデートで、HomePodがロスレス再生に対応することが発表された。

ここまでやられたら、もう買わない理由もあまり思いつかない。将来ステレオペアが不要になったら、1台ずつほかの部屋に置けばいいや…という言い訳も用意し、もう1台を注文した。

アトモスでは環境音をしっかり鳴らすが、音に包まれる感覚はあまりない

モノが届いたので、さっそくセットした。HomePod 2台をテレビの両脇に置き、まずはドルビーアトモス再生を試してみた。再生したのはApple TV+で配信されている「グレイハウンド」。潜水艦とのバトルが描かれる作品で、爆発音や様々な環境音が収録されている。セリフも多いので、声のチェックもしやすい。

まず音の広がり感はというと、優秀なドルビーアトモス対応サウンドバーに比べると物足りない印象だが、上部への広がり感はまずまずで、アンビエンス音の処理も巧み。いわゆる「映画音響らしい音」をしっかり鳴らせている。

ただし、頭の前に音場が作られ、それを後ろから覗いているような感覚にとどまるのも事実。ドルビーアトモスと聞くと、音がビュンビュン前後上下に移動するイメージをお持ちの方も多いだろうし、AVアンプや多数のスピーカーを使えば実際にそういう体験が得られるのだが、さすがに2台のスピーカーだけでは無理がある。

一方で、音質そのものは、かなり良い。セリフがぐっと前に出てくるし、解像感も高く、ディテール音やセリフの切れ味が良い。低音についても、サブウーファーがないから本当の重低音とまではいかないが、この小さな筐体でよくぞ、と思う程度にはしっかり出る。HomePodはもともとスマートスピーカーで、映画向けに作られたわけではない。それにしてはかなり健闘している。

第2世代Apple TV 4KのARC機能を使って、テレビ放送の音もHomePodで再生してみた。これは、持ち前の環境音の再生能力が活かせないため、取り立てて「すごく音が良い」という印象は受けない。とはいえ、テレビ内蔵スピーカーより良い音が出る場合がほとんどだろう。

ステレオペアにするだけで買い増した価値があった

驚いたのは音楽再生だ。Apple MusicのAAC音声を聴いているとは思えないほど解像感が高く、かつ迫力のある音が楽しめる。

たとえドルビーアトモスへの対応がなかったとしても、ステレオペア再生による音質アップだけで、十分元は取れたと感じた。もっと早く買っておけばよかったと後悔したほどだ。2台になって余裕ができ、全体のパワー感がぐっと高まった。その余裕がディテールの再現などにもいかされており、解像感もさらに高まったように感じる。しっかりとしたステレオ音声を、広いサービスエリアで楽しめるのも良い。

特に、サービスエリアの広さは驚異的だ。ほとんど真横で聴いても、ちゃんとした音楽として聴けてしまうのが凄い。かといって、通常の聴取位置で聴いたときに、定位がブレていることもない。ふつうのステレオスピーカーの常識では考えられない体験だ。

しかも、今後Apple Musicのロスレス再生に対応したら、音質がさらに高まるわけで、音楽再生能力にはまだ伸びしろがある。操作の手軽さも手伝って、ますますメインのオーディオシステムの出番が減りそうだ。

新モデルが出る可能性もあるが…

ということで、HomePodの買い増しには、かなり満足している。だが、今このタイミングで「みなさんもどうぞ」と手放しで薦めるのは不誠実というものだろう。そもそも、なぜアップルは、あまり売れなかったHomePodの機能向上を、ここまで続けてきたのか。次の製品でリベンジすることを考え、そのための下地作りや実験をしている可能性もある。

そういう可能性を見越しても、つまり新モデルが登場する可能性も考えても、それでもHomePodと新Apple TV 4Kが可能にしたことと、そのクオリティは魅力的だ。冷静になってみると、HomePod 2台と新Apple TV 4Kを合わせると10万円程度が必要なわけだが、サウンドバーやAVアンプなどを持っておらず、手軽にテレビの音や音楽再生をクオリティアップさせたいと考えているなら、価格以上の価値があると思う。

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

関連リンク

トピック

クローズアップCLOSEUP
アクセスランキング RANKING
1 レコードの音楽を読み取って光るターンテーブル。オーディオテクニカ「Hotaru」一般販売スタート
2 ダイソンとPORTERがコラボした特別デザインのヘッドホンとショルダーバッグ。全世界380セット限定販売
3 LUMINの進化は終わらない。初のディスクリートDAC搭載「X2」の思想を開発担当者に訊く!
4 Spotif、2025年に最も聴かれた邦楽は「ライラック」。国内外で最も聴かれた楽曲・アーティストの年間ランキング発表
5 DUNU、7ドライバー/トライブリッド構成を採用したイヤホン「DN 142」
6 カセットテープとともに過ごすカフェ「CASSE」。12/17渋谷でグランドオープン
7 Vento、3次元特殊メッシュを採用したハイブリッド拡散パネル「DAP180 / DAP120」
8 AVIOT、最大120時間再生と小型軽量を両立したオンイヤー型Bluetoothヘッドホン「WA-G1」
9 サンワサプライ、省スペース設置できる木製キャビネットのサウンドバー「400-SP120」
10 アイレックス、ALBEDO/AUDIAブランド製品の価格改定を発表。2026年1月1日より
12/5 10:47 更新
音元出版の雑誌
オーディオアクセサリー199号
季刊・オーディオアクセサリー
最新号
Vol.199
世界のオーディオアクセサリーブランド大全2025
特別増刊
世界のオーディオアクセサリーブランド大全2025
最新号
プレミアムヘッドホンガイドマガジン vol.23 2025冬
別冊・プレミアムヘッドホンガイドマガジン
最新号
Vol.23
プレミアムヘッドホンガイド Vol.33 2025 SUMMER
プレミアムヘッドホンガイド
(フリーマガジン)
最新号
Vol.33(電子版)
VGP受賞製品お買い物ガイド 2025年冬版
VGP受賞製品お買い物ガイド
(フリーマガジン)
最新号
2025年夏版(電子版)
DGPイメージングアワード2024受賞製品お買い物ガイド(2024年冬版)
DGPイメージングアワード受賞製品お買い物ガイド
(フリーマガジン)
最新号
2025年冬版(電子版)
WEB
  • PHILE WEB
  • PHILE WEB AUDIO
  • PHILE WEB BUSINESS
  • プレミアムヘッドホンガイド
  • ホームシアターCHANNEL
  • デジカメCHANNEL
AWARD
  • VGP
  • DGPイメージングアワード
  • DGPモバイルアワード
  • AEX
  • AA AWARD
  • ANALOG GPX