Astell&Kernの第3世代真空管DAP「A&ultima SP4000T」。最大54通りの音質カスタマイズの使いこなしを探る
ハイレゾDAPのトレンドを生み出してきたAstell&Kern(アステル アンド ケルン)のラインナップにおいて、特別な存在といえるのがフラグシップとなる “A&ultimaシリーズ” である。
現行の最上位は「A&ultima SP4000」(以下、SP4000)であるが、そのアナログ段にこだわり抜いた、個性の異なるもう一つの最高峰が「A&ultima SP4000T」(以下、SP4000T)だ。
SP4000TでもSP4000と同じ旭化成エレクトロニクス(AKM)のフラグシップ電流出力型DACチップ「AK4499EX」と、デジタルフィルターやΔΣモジュレーターを備え、DA変換におけるデジタル処理を担うデジタルデータコンバーターチップ「AK4191EQ」のペアを用いたセパレート方式DAC構成を採用。PCM 768kHz/32bit、DSD 22.4MHzまでのネイティブ処理に対応する。
このセパレートDACソリューションは、従来の同一チップ構成ではウエハーを通じ、デジタル部からアナログ部へと伝わってしまっていたノイズを抑えてS/Nを向上させるもので、SP4000Tでは前世代の真空管搭載モデル「A&ultima SP3000T」(以下、SP3000T)と同じように、左右チャンネルへそれぞれ1基ずつ搭載するシンプルな構成にまとめ上げた。
SP4000Tの大きな特徴は、それ以降のアナログ回路をこれまでの真空管バッファ搭載モデルで最も豪勢な仕様としている点だ。
力の注がれた新たな真空管回路
SP4000Tは、SP3000Tと同じ真空管全盛期に製造されたヴィンテージな直熱5極管 RAYTHEON(レイセオン)製「JAN6418」を使用しながら、SP3000Tの倍となるチャンネル当たり2本ずつ、コモンモードノイズも打ち消すディファレンシャル(差動)駆動させるという、DAP業界初のJAN6418クアッド構成を取り入れた。
JAN6418は電池駆動も可能なサブミニチュア管で、「6418」を高耐久仕様とした軍用管だ。長年未使用でストックされていたJAN6418を1本ずつ厳密にノイズやゲイン特性を測定・選別してペアにしている他、振動を拾って増幅してしまうマイクロフォニックノイズ低減のため、徹底した対策も施している。
この振動対策についてもSP3000Tから進化した「第2世代アンチ・マイクロフォニックノイズ・アーキテクチャー」を採用。2本の真空管はシリコンダンパーで覆い、両端から空中へ吊るすように配置。真空管から伸びるリード線にもシリコンチューブを装着することで、リード線から伝わる衝撃も低減した。
[1]モジュール式フレキシブル基板 [2]シリコンベース・クッション [3]シリコンチューブ [4]シリコンダンパー [5]銅製シールド缶 の5つの要素が組み合わさっている
さらにメイン基板から独立したフレキシブルモジュール基板を介し、シリコン製のベースモジュールケースでこの構造体全体を覆い、真空管からの一次衝撃を吸収するようになっている。
加えて第2世代では、超微細なノイズまで抑制する銅製シールド缶でベースモジュールとは逆側を多い、より厳重なカバーを構築した。JAN6418は発熱も少ないことから可能となる施策であり、マイクロフォニックノイズという構造的限界を克服している。
主要なオーディオ回路を一体化した独自のサウンドソリューション「TERATON ALPHA」によって統合されたアナログ回路は、効率的な電源管理とノイズの抑制、歪みを抑えた増幅を行うとともに、様々な切り替えを可能とするSP4000T独自のアンプシステムを実現した。
SP3000Tと同じく、DAC後段のバッファに半導体であるOPアンプを用いるOPアンプモード、真空管駆動のTUBEアンプモード、そしてこの2方式を組み合わせるハイブリッド駆動のHYBRIDアンプモードという3種類の出力モードを備える「トリプルアンプモード」を搭載。HYBRIDアンプモードではOPアンプ寄りかTUBEアンプ寄りかの5段階調整も可能であり、好みに応じた音質調整をより細やかに行えることも長所の一つだ。
TUBEアンプモードやHYBRIDアンプモード時にJAN6418のプレート電圧を3段階切り替えられる「真空管電流オプション」も継承。そしてこれらの豊かな機能性に加え、新たに業界初の「トリプルTUBEモード」も搭載した。
DAP初の「トリプルTUBEモード」で54通りの音質カスタマイズを実現
このトリプルTUBEモードはJAN6418が5極管だからこそ実現できたモードだ。5極管は増幅の基本となる3極管(KORGの「Nutube」などもこちらに属する)のプレート電流を変化、制御するコントロール・グリッドとプレート間にスクリーン・グリッドとサプレッサー・グリッドを追加し、カソードからの電子をさらに引き出し、プレート電流を増やすことができる。故に3極管よりは力感のあるサウンドが特長だ。
SP4000Tでは全ての電極を使う「5極管(Pentode)」だけでなく、スクリーン・グリッドとサプレッサー・グリッドを使わない(もしくはスクリーン・グリッドとプレートを同電位とする)「3極管(Triode)」として駆動することも可能なほか、スクリーン・グリッドにかける電圧を3極管接続時と5極管接続時の間となるように調節し(局部NFB)、この二つの接続方法の中間的動作となる「ウルトラリニア(Ultra Linear)」も選択できるようにしている。
3極管では出力や効率が低い一方、歪みも抑えられており、滑らかで繊細な音を聴かせてくれる。5極管は高出力・高能率だが、3極管より歪みは多い。音的には力強くダイナミックなサウンド傾向となる。ウルトラリニアは出力や効率は中庸で、歪みは3極管と同じ程度。音質としては滑らかさと芯の強さを両立したバランスの整った傾向を持つ。
こうした「トリプルTUBEモード」「トリプルアンプモード」「真空管電流オプション」を組み合わせると、最大54通りものカスタマイズが可能となる。
このアナログ回路にはもう一つ、SP4000から継承した「High Driving Mode」を備えている点もポイント。これは最終段のOPアンプの駆動方法を変えるもので、従来同様の出力構成となるNormal Modeと切り替えることが可能だ。
Normal ModeではOPアンプ1基に対し、High Driving ModeではこのOPアンプと並列にもう一つOPアンプを追加。より多くの電流を流して駆動することで、回路の低インピーダンス化と駆動力の向上、歪み感やノイズの抑制に効果を発揮するとともに、さらなる低域の伸びと量感の確保、躍動的でダイナミックなサウンドを実現できる。
アナログ出力端子は3.5mmアンバランス出力に加え、4.4mmバランス出力を装備。それぞれ、出力電圧を切り替えできるライン出力設定も可能だ。
豊富なアンプ/真空管モードを聴き比べ!各モードごとに相性のよい楽曲ジャンルとは?
試聴にはビクター「HA-FW10000」とアコースティックリヴァイブ製リケーブル「REC-absolute-FM」(MMCX-4.4mm)を用い、バランス駆動で確認。まず軽く前世代のSP3000Tと聴き比べてみた。
それぞれ、HYBRIDアンプモードでちょうど中間となる3段階目に設定。真空管電流オプション(Tube Current)はMidとして聴いてみたが、SP4000T(トリプルTUBEモードはウルトラリニアを選択)の方がS/Nが高く、空間性もクリアに表現。音像の輪郭や表情の彫りの深さにも分があり、より高解像度でメリハリ良い音へと進化しているようだ。
ボーカルの質感もリアルで、楽器の密度感、倍音の艶やかさもスムーズに表出する。OS周りや無駄のない基板レイアウト設計も含め、SP4000開発の成果も注入されたことで、より音質の純度や精度に磨きがかかったようだ。
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