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PR管球アンプ作りの楽しさにも似た奥深さ

Astell&Kernの第3世代真空管DAP「A&ultima SP4000T」。最大54通りの音質カスタマイズの使いこなしを探る

公開日 2026/09/08 06:30 岩井 喬
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改めてSP4000Tでの試聴へと歩先を進めてみよう。まずはトリプルアンプモードの切り替えによる音質変化である。

HYBRIDアンプモードで3段階目を基準とするが、1段階側ではTUBEアンプの影響が支配的で、より滑らかかつマイルドな描写性だ。5段階目ではOPアンプの影響が強く、密度を持たせつつ、より力強く切れ味の良い音質傾向となる。

HYBRIDアンプモードはいわゆるバランス志向であり、まずどのモードが良いか迷う場合に選ぶと良いだろう。その上で5段階の切り替えを駆使して好みの方向性を探ってみたい。

前世代から引き続き搭載するトリプルアンプモード。バランス重視のHYBRIDアンプモード/クリアで引き締まったOPアンプモード/豊かで滑らかな響きのTUBEモードと個性は明確だ

OPアンプモードではアタック&リリースのスピードが早く、フォーカスの良いサウンドで、リズム隊のアタックも締まり良くクリアに描写。音像の輪郭も滲みなくソリッドで、ニュートラルなバランスだ。音場のS/Nも一層高まる印象である。透明度が高く、ロックやフュージョンなど、テンポの速い音源との相性が良い。大編成のオーケストラも細部の様子がわかりやすく、分解能の高いハーモニーが味わえるだろう。

そしてTUBEアンプモード(トリプルTUBEモードはウルトラリニア)は中低域方向の厚みが増し、音像のふくよかさ、輪郭の艶やかさを実感。ボーカルは艶良くしっとりと描き出し、輪郭も滑らかだ。キックドラムのファットな余韻も伸び良く豊かに表現。耳当たりの良い粒立ち細やかなサウンドである。

本モデルの成り立ちからして、多くのリソースが注がれたこともあり、このTUBEアンプモードの音像のナチュラルな佇まい、音像の厚みと滑らかな質感描写は説得力のあるものだ。小編成のアコースティックなジャズ、室内楽、女性ボーカルによるバラードあたりの音源に真価を発揮する。

そして真空管電流オプションだが、Highに切り替えると音像は輪郭が強調され、切れ味の良いサウンドへと変化。逆にLow側は柔らかくマイルドな描写性となり、余韻は広がり良く開放的な空間を生み出す。

ボーカルはしなやかで耳当たり良いが、輪郭感は幾分甘めとなる。電流が高いと制動性良くキレのある傾向、逆に電流が低いとふわりとした柔らかくスムーズな描写となるので、音像の描き方やその強調感、音場の広がりや余韻の深さにポイントを置いて選択するとよいだろう。

新搭載のトリプルTUBEモードは、音の密度に大きな違い。High Driving Modeも見逃せない

さらにトリプルTUBEモードであるが、まずはじめはウルトラリニアから始めると無難だ。まさに3極管と5極管の“いいとこ取り”なので、バランスも整い、真空管の倍音表現の豊かさや伸び良く密度の高いサウンドの醍醐味を堪能できるだろう。

また音場の描写も的確で、奥行き感や余韻のコントロールも巧みだ。クラシックの管弦楽器もほぐれ良く、スムーズかつ厚みのあるハーモニーを聴かせてくれ、ローパートの弾力も良く爽やかなサウンドとなる。定位も明確で、リアルさも垣間見える。

5極管はリズム隊の厚みが増し、濃密で存在感がある。音像の密度もあり、輪郭もくっきりとして明瞭。ボーカルの口元もクールかつフォーカス良く定位。声の存在も高く、ぐんと前へ出てくるイメージだ。エレキギターのピッキングの掻き鳴らしも開放的で、スネアドラムのリムショットもキレ良くスカッと爽快に鳴り響く。

そして3極管は肩の力が抜けたしなやかで伸び良くスムーズなサウンドとなる。穏やかな輪郭表現と艶良く緻密な余韻表現を楽しめ、リズム隊のアタックも程よく柔らかい。JAN6418は5極管の中でも少数派の直熱タイプなので、3極管として駆動させると強調感を抑えた素直かつナチュラルな描写性が際立ってくる。

高域のエッジが強く出てくるイヤホンとの組み合わせにも最適であり、穏やかでストレスなく長時間楽しむ際にもフィットするサウンドだ。

前モデルから引き続き、真空管作動時は背面の窓から柔らかな光が漏れ、アナログな雰囲気を盛り上げる

最後に総仕上げとして、High Driving Modeへ切り替えると締まり良く低域から高域までコントロールされたサウンドへと進化。解像度も高まり、ヌケ良く艶やかなゴージャスな音で、音場の見通しも深くクリアに描かれる。

キックドラムの余韻など、エアー感の再現度も高く、低重心で深く沈みつつも躍動感のある表現となる。高域のハリや伸びもよりスムーズで全体的にダイナミックな傾向だ。出力段の後半にある機能でもあり、イヤホンの駆動力に直結しているため、高感度モデルでない限りHigh Driving Modeは常に有効としていた方が良い感触だ。

これに加え、HYBRIDアンプモード+5極管+真空管電流オプションHighという“マシマシ”設定とするとマッシブでパワフルなサウンドとなり、煌き良くリッチさに溢れた音を楽しめるだろう。

しかしながら、TUBEアンプモード+3極管+真空管電流オプションMidという“歪みを抑えた管球らしさ”を生かしたセッティングとHigh Driving Modeを組み合わせると、真空管の持つポテンシャルをロスなく引き上げてくれる印象で、ウィスパーボイスをじっくり味わえるような、より身近な距離で優しいトーンを楽しむような聴き方もできる。

SP4000Tは最新DAPでありながら、真空管のディープな魅力をとことん引き出す、稀有な存在だ。3極管や5極管といった駆動条件やプレート電流設定、OPアンプとの掛け合わせなど、ある種、管球アンプ作りの楽しさにも似た世界観を提供してくれる。

真空管の音色やデバイスとしての魅力を追求したい方にとって、これ以上ない音の傾向を学べる教科書といえる、オーディオの愉しみ、奥深さも堪能できる傑作プレーヤーだ。


(協力:アユート)

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