【第184回】この素晴らしい吐息に祝福を！Just ear「Goddess Bless You」で “ブレスだけ” を聴きまくる

■歌。その始まりのブレス。

歌における呼吸の意味が最もわかりやすい形で現れるのは、先程の例でも紹介したような「曲の冒頭のブレス」だろう。その一呼吸は、歌が始まり何かが起こることを印象付けるものであり、時には何が起こるのかまでも感じさせる、まるで予告編のような情報量を含んでいるのだ。そこで「曲の冒頭のブレス」が印象的、そして効果的な曲をいくつか挙げて掘り下げてみよう。

まずは声優ユニットTrySailの「Youthful Dreamer」。
三人が呼吸を合わせて、ゆっくりと息を吸い込む。その呼吸から生み出される始まりの歌詞は「夢を叶えて自分の未来をその手に掴め」。強い言葉だ。

インパクトの強い音色を重ねることで、曲のアレンジでもこのフレーズをさらに強調。後の歌詞でも同じフレーズがもう二回繰り返される。この一節こそ、この歌が届けようとしている一番のメッセージと受け取って良いだろう。

その一節を頭にガツン！と届けたいのであれば、その手前にはブレスも何も置かず無音にしておいた方が、落差でその強さを更に押し出せるのではないか？そういう考え方もあるだろう。

だがこの曲においては、その大切なメッセージである「夢を叶えて自分の未来をその手に掴め」をサウンドとしてより強い印象で届けることよりも、さらに大切なことがある。この曲は彼女たちTrySailのデビュー曲なのだ。

デビューシングルの第一声、その意味合いは小さくはない。この曲のそれは、明確な言葉としては、「夢を叶えて自分の未来をその手に掴め」になる。しかしだからこそ、その手前の呼吸の意味もまた大きい。

ただ「夢を叶えて自分の未来をその手に掴め」と歌うだけなら、すっと息を吸ってさっと歌い始めたって良いだろう。だがデビュー曲だからこその決意を込めて、その言葉を自分たち自身にも向けて、『わたしたちはこれから夢を叶えていくんだ。わたしたちの未来をこの手に掴むんだ』という想いを込めて歌うなら、その言葉をすっと、さっと歌い始めることなんてできない。

それぞれが胸の内で決意を確認し、三人が息を心を合わせて、そうしてこそ歌い始めることができる、そういうブレスだと僕は思っている。このブレスはこの曲この歌を表現する要素の一つであると同時に、彼女たち自身の物語のスタートを表現するものであり、だからこそ欠かせないのだ。

さて“物語を表現するブレス”という話からつなげて次に、ゆいかおり「倍速∞ラブストレート」冒頭のブレスに注目してみてほしい。何というか、目が覚めて気づいたら時計の針がもう遅刻しかない時間を指していた時、その驚きのあまりに吸い込んだ息のようなブレスだ。…なんてとぼけてみたが、実際そのブレスの後には、「ヤバイ　バイ　ババイバイ　バイバイ　倍速でドキドキ」「ハッと目が覚めて気づいたらウソ!?時計ありえない」という歌詞が続く。

そう。実はこの曲、歌に歌詞が乗る第一声の「ヤバイ」の前にもう、この「寝坊ブレス」によって物語が始まっており、そのブレスも物語の一部なのだ。

それを踏まえた上で改めて、ゆいかおりのお二人、小倉唯さんと石原夏織さんのブレスを聴き直してみてほしい。このブレスだけでもう「ああこれ完全に寝過ごしてるな」と分かってしまうような、見事なまでにそういうブレスだ。