公開日 2011/03/01 11:23

「インセプション」の昏さ、なまめかしさをWoooで引き出す

話題のソフトをWoooで見る




P50-XP05
ブルーレイディスクとして発売された『インセプション』を、日立Woooのプラズマ方式のフラグシップP50-XP05で視聴した。

筆者は本作を劇場で見た(フィルム上映)が、その時に印象的だったのが映像の柔らかい陰影感であった。夢をテーマにするという着想上、もっと色彩やコントラストを整理・イコライズし、極端なことをいうとモノクロームにするなど、夢の儚さを表現する手もあったろう。

しかし、本作がチームアクション映画である以上、映像からパワーを削いでしまうことは出来なかった。本作の映像はクロマレベルも高く、コントラストも普通だが、色彩と階調に夢の質感に通じる濡れたようなしっとりした質感がある。

もう一つの決め手は光線描写である。暗所で横から俳優に低い色温度の光を当てて半身(顔半分)を浮かび上がらせた撮影が非常に多い。これは無意識領域と意識(覚醒)が交わる象徴である。

本作のいくつかのシーンの照明は早暁(朝)あるいは午後の光のような、気だるさがある。これも寝覚めの感覚。濡れたような色彩、光線描写、実はそれが液晶方式が未だに一番苦手とする表現域なのである。

液晶方式の発色はどこか生硬さがあり乾いている。階調もコントラストのダイナミックレンジこそバックライトの工夫で大きな数値を得たが、中間階調のきめ細かさ、黒の落ち着きは今一つだ。この点でプラズマ方式には明らかな利がある。P50-XP05は現在買えるプラズマ方式のテレビとして、これらの表現で最右翼である。

しかしブルーレイディスク一般に言えることだが、BDの画質と映画館での上映画質には明らかな差がある。家庭のテレビで見ることを前提に、明るくハイコントラス、鮮鋭感の方へ調整されている。もちろん、上映時のテイストは留めているのだが、フィルム上映(筆者は丸の内ピカデリーで鑑賞)で印象的だった陰影や光線の「昏さ」「なまめかしさ」が足りない。今回P50-XR05の映像調整を使って、これをもっと出してやろうと考えた。

さて、P50-XP05で本作を見る上でのポイントを整理すると次の三つ。

<1>(夢を感じさせる)光線描写と色彩、階調
<2>(2Dでありながら、夢の世界の果てのない奥行き、無限空間を引き出す)「立体感」「浮遊感」
<3>フィルム上映の自然な粒状感、タッチ

<1><2>は説明済みだが、<3>は、ノーランのいうとおり映画館の暗闇で息を潜めて見る映画こそ、私たちにとって最も身近な「夢の共有」だからである。いずれもP50-XP05という優れた家庭用ディスプレイだからこそ出来るチャレンジである。

結論を言うと、下記の調整でBDソフト『インセプション』本来の画質を再現、ノーラン監督の「観客に現実から逃避するような体験」をもたらす映像が引き出せた。

<1>についてはチャプター9の夢の第2層のホテルでコブがジェームズにここが夢の世界であることを教えるシーンで調整した。<2>についてはチャプター4の美術学生のアリアドネがデザインしたパリの街頭に合せ鏡の無限廊下が出現するシーン、ビルの中のエッシャーの無限階段、繰り返し現れる海岸の断崖が崩れ落ちるシーンで調整した。

映像モード:シアタープロ(視聴室の照度80ルクス)
明るさ:−9
黒レベル:−2
色の濃さ:−13
色合:+2
シャープネス:−13
色温度:低
ディテール:切
コントラスト:リニア
コントラストレベル:5
黒補正、LTI、CTI、YNR、CNR:切
シネマスキャン:入
DEEPCOLOR:入
カラーリミッター:切
色再現:リアル
色温度調節:しない
ピクセルマネジャー:オート
映像クリエーション:フィルムシアター
映像クリエーションレベル:標準
モスキート、ブロックノイズ:切
  
<1>にはコントラストレベル(ガンマ設定)、<2>と<3>には、ピクセルマネージャー(超解像の一種)が非常に有効だった。

立体感表出という点でディテールをオンにすると遠景のエッジが立ち、自然な奥行きがやや損なわれる。小面積の輝度信号をエンハンスするYTIもオンだとやや近景と遠景のバランスが崩れる。よってオフ。

こうして調整していると、P50-XP05が“打てば響く”、鋭敏でいて非常にハンドリングしやすいテレビであることを改めて実感させられた。

以上の調整でワーナー(レジェンダリーピクャーズ)作品らしい艶のある色彩を堅持しながら、夢の世界のおぼろげな美、果てのない奥行きが画面に現れた。

大橋伸太郎 プロフィール
1956 年神奈川県鎌倉市生まれ。早稲田大学第一文学部卒。フジサンケイグループにて、美術書、児童書を企画編集後、(株)音元出版に入社、1990年『AV REVIEW』編集長、1998年には日本初にして現在も唯一の定期刊行ホームシアター専門誌『ホームシアターファイル』を刊行した。ホームシアターのオーソリティとして講演多数。2006年に評論家に転身。

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