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プログレでも歌われたブーリンの数奇な運命

話題のソフトを“Wooo"で観る − 第20回『ブーリン家の姉妹』(Blu-ray)

2009/06/01 大橋伸太郎
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この連載「話題のソフトを“Wooo"で観る」では、AV評論家・大橋伸太郎氏が旬のソフトの見どころや内容をご紹介するとともに、“Wooo"薄型テレビで視聴した際の映像調整のコツなどについてもお伝えします。

皆さんの中に「プログレ」のファンはいるだろうか。トヨタの車の名前でなく「プログレッシブ・ロック」。1960年代の終わりに主にイギリスに誕生し、1970年代の前半に隆盛を極めたロックのカテゴリーである。

ロックは、それまで主にブルースを基礎としていたが、プログレはギター、ピアノといったレギュラー楽器以外のバイオリンから管楽器、電子楽器までを使いクラシックの和声感覚とカラフルな音色、複雑な変拍子を大胆に導入し、コンセプチュアルな楽曲の構成でロックの表現範囲を大きく広げた。しかし、それはロックの粗野なエネルギーを減退させていくことになり、70年代後半、パンクロックとニューウェーブに引導を渡される形で衰退していく。

代表的なバンドに、ピンク・フロイド、キング・クリムゾン、EL&P、イエスらがあり、これらを俗に「プログレ四天王」と呼ぶ。最後のイエスは、現在も全盛期のメンバーが集まって、数年おきにコンサートを行っているが、全盛期のキーボーディストがリック・ウェイクマンである。イエスの初来日公演は1973年だが、それに先立って発売、大いに話題になった初ソロ作が、『ヘンリー八世の六人の妻』であった。

イエスの来日公演でリックは、肩を覆う金髪と魔法使いのようなキラキラ衣装でステージに現れ、いでたちの異様さと相まって華麗な鍵盤テクニックで聴衆の度肝を抜いた。本作から抜粋で数曲を披露した位だから、初ソロ作はさぞかし自信作だったに違いない。事実、『ヘンリー八世の六人の妻』は、当時高校一年生の私を魅了したアルバムだった。

「アラゴンのアン」、「クレーブのキャサリン」といった曲名の並ぶ本作は、リックがイエスの同僚をサポートメンバーに従え、16世紀の英国王の正妻、側室(というのは日本だけ?)の女たちをピアノとシンセ、オルガンで描写したいわば音楽による肖像である。今聞き返すとワンパターンなのだが、リックが手にした歴史書からイマジネーションをふくらませたという、アルバムのコンセプトが新鮮だった。

当時はもちろん今だって、日本のロックやポップスにはこうした着想はない。「お市と三人の姉妹」とか「秀吉をめぐる女たち」とか「和宮降嫁」とか、あるいは「明治を彩った女たち〜樋口一葉、モルガンお雪、松井須磨子etc」とかそんなロックは聴いたことがないではないか。

日本でロックがどれだけメジャーになっても、曲のテーマは恋愛とかの身辺生活の心象風景か、体制や社会への抗議、あるいは一気に人類愛や世界平和にいってしまうかに限られている。別にそれが悪いというのではないが、このあたりに音楽家の関心というものの彼我の広がりの差を感じてしまう。

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