JBL「Summit Everest」でレコードを“演奏”。伝説的ジャズ喫茶「ベイシー」店主によるデモで感じた、本物だけが持つ凄み
岩手県一関市の名ジャズ喫茶「ベイシー」の店主として、そして“レコード演奏家”として知られる菅原正二氏が、JBLの新たなフラグシップスピーカー「Summit Everest」の発表会に登場。自身が持ち込んだレコードを使い、Summit Everestによる特別なデモンストレーションを披露した。
「ジャズ喫茶でかけるように普通に演奏します」
菅原氏が最初に強調したのは、これから行うのは一般的な意味での「オーディオ・デモンストレーション」ではない、ということだった。
「ここから先はデモンストレーションではなく、普通にジャズ喫茶でかけるように、普通に演奏しますんで」「ちょっと気楽に聴いてください」と来場者に呼びかける。
スペックや音質チェックのために短い音源を次々と再生するのではない。自ら選んだレコードをターンテーブルに載せ、一枚のレコード、一つの演奏と向き合う。長年「ベイシー」で続けてきたスタイルそのままにSummit Everestを鳴らそう、というわけだ。
そして実際、セッションが進むにつれ、Summit Everestは「最新の超弩級スピーカー」という側面だけではなく、レコードに刻まれた音楽そのものを引き出す存在として、その実力を見せていくことになる。
聴き慣れたレコードが「新鮮」に聴こえる
最初のマイルス・デイビス「RELAXIN WITH」の再生を終えたあたりから、菅原氏自身にもSummit Everestへの手応えが生まれてきたようだ。
「古臭くなっちゃつまんないんで、こういう新鮮になるのもいいんじゃないかなと。普段聴いてるのもちょっと新鮮な感じがして」とコメント。「ちょっと期待が出てきました」と続け、次のレコードへと手を伸ばした。
ヴィンテージ録音を最新のシステムで再生する際、単に情報量を増やしたり、録音の古さを暴き出したりするだけでは、必ずしも音楽の魅力につながるとは限らない。むしろ、何度となく聴いてきたはずのレコードから新しい表情を発見できることこそ、再生装置を更新する醍醐味のひとつだ。
Summit Everestに対する菅原氏の「新鮮」という言葉には、そうした意味が込められていたように感じられた。
フランク・シナトラとカウント・ベイシー、ラスベガスの熱気を再現
続いて菅原氏は、Summit Everestのスケールに「見合ったアルバム」として、フランク・シナトラとカウント・ベイシーによるライブ録音を選択。「当時のラスベガス」を再現したいと語り、ライブバンドならではの華やかなサウンドを会場に解き放った。
Summit Everestのような大型システムだからこそ、この種の録音が持つスケール感やライブ会場の空気を存分に味わえる。菅原氏自身も再生後、「とてもいいよ」と満足そうな様子を見せ、「こういう時代があったんですね。アメリカにもねえ」と語った。
単に低域がどこまで伸びる、高域がどこまで聴こえるといった分析ではなく、録音された時代や場所まで想像させる。菅原氏の選曲によって、Summit Everestのスケールの大きさが「音楽」として提示された格好だ。
ジャズにとって「録音の音」は重要な要素
さらにセッションでは、Impulse!レコードの録音にも話が及んだ。菅原氏は同レーベルの音について「やはり無視できない録音」と語り、自身にとって再生システムを聴く際にどうしてもチェックしたくなる存在であることを明かす。
ジョン・コルトレーンの「Crescent」再生後には、「やっぱりジャズはこういう録音がとっても嬉しい」とコメント。さらに「これなんか、まあ理想的なステレオ」と評価し、Summit Everestで聴くジャズの音に確かな手応えを示した。
ジャズを聴くうえでは、演奏そのものだけでなく、それがどのように録音され、レコードに刻まれているのかも音楽体験の一部になる。数え切れないほどのジャズ・レコードを自身の店で鳴らし続けてきた菅原氏だからこそ、録音そのものが持つ個性と、それを引き出す再生装置の関係を重視しているのだろう。
最後はエレクトリック・マイルス。「とんでもない演奏」で締めくくる
「もっといろいろ聴きたいものがいっぱい湧いてきたんですけども、時間の問題がありますから」。Summit Everestでレコードを聴き進めるうちに、菅原氏自身の中でも次々と聴きたい作品が浮かんできたようだ。
そして終盤にはエレクトリック期のマイルス・デイビスへ。菅原氏はその演奏を「最高峰」「とんでもない演奏」と表現し、ライブ録音を選択。「それで盛り上がらなかったら、さらに追加します」と会場を沸かせた。
華やかなビッグバンドから、ジャズ史に残る録音、そしてエレクトリック・ジャズへ。選曲の振幅が大きくなるにつれ、Summit Everestもそれぞれのレコードが持つ異なる世界を描き分けていく。
一方で菅原氏が語ったのは、周波数特性や解像度、定位といった典型的なオーディオ用語ではない。「新鮮」「こういう録音が嬉しい」「とんでもない演奏」といった、あくまで音楽を起点とした言葉だった。
Summit Everestを「試聴」するのではなく、レコードを“演奏”する
約50分に及んだセッションを終えた菅原氏は、「今日は大変楽しかったです。お付き合いいただきまして、ありがとうございました」と挨拶。
今回のデモンストレーションが興味深かったのは、Summit Everestの性能を説明するためにレコードを使ったというよりも、レコードを“演奏”するためにSummit Everestを使ったことにある。
実際、終了後には参加者から「レコード演奏家というの意味が、初めて本当に理解できた」との感想も聞かれた。またSummit Everestはペア2,400万円という価格が発表されているが、「これを聴いてしまうと、その金額にも説得力がある」「本物同士の音」といった声が上がった。
最新技術を投入したJBLの最高峰スピーカーと、長年レコードと格闘してきた菅原正二氏。一見すると「最新」と「伝統」の組み合わせにも見えるが、実際にそこで鳴っていた音楽から感じられたのは、むしろ両者の共通点だった。
録音された音楽を、いかに目の前の出来事として蘇らせるか。
Summit Everestという巨大な器を得て、菅原氏のレコードは再び生々しく“演奏”された。スペックを確認するための試聴ではなく、次の一枚を聴きたくなる音。そのこと自体が、Summit Everestというスピーカーの懐の深さを物語るデモンストレーションとなった。


























