フォーカルのプロ向けスピーカーのフラグシップ「UTOPIA MAIN」発表。“モニタリングの頂点” を目指して開発
メディア・インテグレーションは、FOCAL(フォーカル)プロ向けスピーカーのフラグシップモデル「UTOPIA MAIN 212」「UTOPIA MAIN 112」の発表会を、千駄ヶ谷のビクタースタジオにて開催した。今年のNAMM(アメリカ・カリフォルニア州のアナハイムで毎年開催される楽器ショウ)にて発表されたモデルが、日本国内でも正式にお披露目となる。
発表会には、フォーカルのプロ向けオーディオ部門のプロダクト・マネージャーであるシルヴァンさんと、セールス・マネージャーのヴィンセントさんが登場。フォーカルブランドの開発思想や、プロ向けオーディオ製品開発の基本理念、最新の “UTOPIA MAINシリーズ” の開発の狙いなどを解説してくれた。
フォーカルは、1979年に、ジャック・マフル氏によって創業されたフランスのオーディオメーカー。当時、彼の耳を納得させる十分なスピーカーもドライバーも存在しなかったことから、「それならば自分で作るしかない」と考えてブランドを立ち上げたそうだ。現在はイギリスのnaimとグループ企業となっており、独自の技術を背景に、スピーカー/ヘッドホンを中心とした幅広い製品開発を行っている。
フォーカルは現在、3つのビジネスユニットで構成されており、ホーム用のHi-Fiオーディオ、カーオーディオ(モビリティ)、そして放送局やスタジオなどのプロ向けとして展開している。それぞれ販路も異なっており、日本国内の代理店もそれぞれ別で棲み分けされている。Hi-Fi向けはラックスマン、車載はビーウィズ、プロ向けはメディア・インテグレーションで、今回のUTOPIA MAINは、メディア・インテグレーションが国内の販売を担うプロ向けシリーズとなる。
UTOPIAは、フォーカルの中でもフラグシップクラスの製品にのみ与えられる名称であり、今回のUTOPIA MAINシリーズも “モニタリングの頂点” を目指して開発されたものとなる。
「212」はペア800万円程度、「121」はペア500万程度を想定する。いずれもパワーアンプまでセットとなっているが、アンプはスピーカーとは別筐体。3.5ウェイモデル「212」はウーファー/ミッドレンジが2基ずつとトゥイーター1基の5ドライバー、3ウェイモデル「121」はウーファー/ミッドレンジ/トゥイーター各1基ずつの3ドライバー構成となっている。
フォーカルはドライバー開発においてさまざまな素材を検討してきたが、特に「軽量」「剛性」「ダンピング」という3要素を重視しているという。振動板の軽量さは素早い動作のため、剛性の高さはユニットの変形を防ぎ歪みを低減するために必要で、またダンピング性能は不要な共振を抑えるためにも重要となる。こういった基本性能は、ホームオーディオ向けでもプロ向けオーディオでも変わらぬ理念が貫かれている。
UTOPIA MAINシリーズのトゥイーターは、軽量かつ剛性の高いベリリウム振動板で、中央が凹んだMシェイプ形状を採用。逆ドーム形状になっている理由については、「スイートスポットがより広く確保できる」と説明。さらに、トゥイーターの後ろの空間を開放することで、不要な振動を避けるIAL(インフィニティ・アコースティック・ロード)という技術も採用している。
ミッドレンジも同じくMシェイプ形状となっており、新開発の “Wコーン振動板” を採用。またエッジの部分にはTMDと呼ばれる “おもり” のようなサスペンション機能を搭載し、よりフラットな周波数特性を実現。ウーファーはWコーン振動板となっており、強力なマグネットと余裕のある振幅で、広いダイナミックレンジに貢献しているという。
アンプについては、同社の特許技術であるClass Hアンプを搭載。いわゆる電流駆動型と言われるもので、フォーカル製品の中でも最も低いTHDのスペックを実現しているという。
通常のアンプは電圧駆動で動作するものが多いが、スピーカーを駆動した際のインピーダンスは、コイルの位置や周波数、温度などによってどうしても影響を受けてしまう。このシリーズはアンプとスピーカーが一体となって開発されており、ダイレクトにスピーカーをコントロールすることで「透明でナチュラルなサウンドを実現する」としている。
アンプはピュアアナログ設計となっており、いわゆるDSP等は搭載しない。その代わり、背面端子にある調整ボード内で、アナログフィルターの各種設定や、ドライバーごとのゲイン調整なども行えるようになっている。
またキャビネットについても、30mm厚のキャビネットに、共振防止のレゾネーターやブレーシングで補強がなされている。またフロントバスレフ方式で、ポートノイズを抑えるようLaminar Portと呼ぶフレア形状のポート形状を採用。なお、ポートをふさぐアクセサリーも別売りで用意されており、密閉型スピーカーとして使用することもできる。
発表会の最後には、Mrs. GREEN APPLEやK-POPグループ TWICE(トゥワイス)などのミックスを担当しているというグレゴリーさんも登場。UTOPIA MAINシリーズの音質について、「212は非常にわかりやすいスピーカーで、ローエンドにスピード感を感じて感動しました」と高評価。さらに、「長時間聴いていてもハイが痛くならないので疲れにくいこと、ロックからダンスまでどんなジャンルの音楽でもしっかり鳴らしてくれます」と賛辞を送る。
また、エンジニアならではの要求として、「エンジニアはフラットで正確な音を求めていますが、ミュージシャンやプロデューサーは聴いていて楽しい音を求める、という傾向があります。ですがこのフォーカルのスピーカーはその両方を満たしてくれます」と、制作の現場で長期的に使えるスピーカーであると語ってくれた。
短時間ながらビクタースタジオ内で音を体験してみると、非常に切れ味のよい低域、そして全帯域にわたる解像感の高さが感じられる。シルヴァンさんに「プロ向け製品の開発で最も重視している点は何ですか?」と尋ねると、「それは “性能(パフォーマンス)” です」という明確な答えが返ってきた。
「Hi-Fiオーディオは好きな音楽を楽しむためにありますが、プロ向けスピーカーは、制作者にとっての大切な “道具” です。その道具としての性能をいかに突き詰めるか、ということに私たちの仕事の大きな役割があります」
UTOPIA MAIN以外のフォーカルのプロ向けラインとしては、手頃なグレードから順に「Alpha Evo」「Shape」「ST6」「Trio 11」といったラインナップを有している。「Alpha Evo」は、ペア10万円程度のアクティブスピーカーとなっており、デスクトップオーディオなどにも活用できそう。「Shape」より上位グレードはメイド・イン・フランスとなっている。
また、“CIシリーズ” と呼ばれるウォールマウント/シーリングスピーカーも用意。こちらは祐天寺にあるメディア・インテグレーションのラボにても活用されている。
またヘッドホンについては、「Listen Professional」「Lensys Professional」「CLEAR MG Professional」の3モデルを用意。ホーム向けヘッドホンとの違いについてシルヴァンさんに尋ねると、「プロ向けヘッドホンは、スタジオの環境を自宅など、別の場所でも再現することができる音質チューニングがされています」とのこと。
フォーカルのプロ向けスピーカーは、スタジオモニターとしての基本的な性能の高さを追求しつつ、プロフェッショナルの現場での使いやすさを追求して開発されている、ということが改めてよく理解できた。UTOPIA MAINは、今後国内のスタジオなどへの導入を目指して展開していくとのことだ。































