― 三菱化学メディアでは今年8月、日立マクセルと同時に世界初となる8cmBD-R/-REを発売しました。今回発売された8cmBDの特長をお聞かせください。

堀江氏 最大のポイントは、記録膜の材料に当社独自の無機材料「金属窒化物」を採用していること、記録層に「SERL(非結晶系相変化膜)技術」を採用していること、表面保護層に当社独自の「強力なハードコート」を施していることです。

三菱化学メディア(株)次世代商品戦略センター長
兼次世代商品戦略センター1部 部長
堀江 通和
入社以来光ディスク関連開発に携わる。近年はBDの開発に従事。開発初期から商品化までに関わっている
三菱化学メディア(株)セールスサポート本部
テクノロジーサービス部 マネジャー
伊藤 邦雄
主にテクノロジーサービスに従事。カムコーダー用8cmディスクの開発では、メーカーとの調整などに関わった

― 記録膜に使われている御社独自の無機材料「金属窒化物」は、どのような特長を持っているのでしょうか。

堀江氏 今回発売した8cmBDでは、アブレーティブ方式の記録層であるMABL(Metal ABlative Layer)に、三菱化学メディア独自の金属窒化物を利用しています。金属窒化物は金属そのものよりも化学的に安定しているため、従来の追記型DVDディスクで信頼性が実証されているAZO色素膜に匹敵する保存安定性を実現することができます。また、圧倒的なワイドパワーマージンを持っているので、ドライブの記録パワーの変動やばらつきの影響を受けにくいことも大きな特長です。将来性という点では、多層化4倍速以上の高速記録に対するポテンシャルが高いことも大きなポイントです。実験室レベルでは、すでに12倍速まで適用可能なことも確認されています。

BD-RにはMABL記録層を採用している(クリックで拡大)

BD-REにはSERL記録層を採用している(クリックで拡大)

― 金属窒化物はなぜ高パワーマージンを実現できるのでしょうか。

(左)BD-Rに採用された金属窒化物(右)BD-REに採用されたSERL記録膜の拡大写真

堀江氏 無機材料においては、記録によって形成されるピット部分の金属(化合物)の結晶あるいは微粒子が小さく、光学特性がフレキシブルであることが重要です。パワーマージンを高めるためには、記録による金属微粒子形成が安定しているほど有利です。金属窒化物は、他社の無機材料製品と比較して金属の微粒子がさらに細かく、広範囲のパワーに対して安定して形成されるものになっています。

― 次に「SERL」技術の特長をお聞かせください。

堀江氏 SERL(Super-Eutectic-Recording-Layer;共晶系相変化膜)記録層は、CD-RW 12Xで採用して以来、当社が一貫して使用してきた高速高耐久型光ディスクの技術です。「Eutectic」とは「共晶」、つまり金属の特殊な結晶状態のことです。この結晶の粒形を極限まで微細化することで、ノイズ発生を抑えた記録の実現が可能になります。この特長がBD-REにも活かすことができると考えて採用しました。SERL記録層は今後も磨きをかけ、当社の各製品に採用していきたいと考えています。



ー 3点目の「ハードコート」について聞かせてください。ハードコートは他社の製品でも採用されていますが、その中で三菱化学メディアの技術特長はどういう点なのでしょうか。

堀江氏 記録面への傷や摩擦に強く、汚れが付着しづらいことが大きな特長です。三菱化学メディアは三菱化学グループに属している会社です。当社では三菱化学グループが持っている有機・無機ハイブリッドコーティング材料開発力をフルに活かしています。今回の製品に用いたハードコート技術も、その中のひとつです。それを採用した製品の持つ優位性は、実際に見ていただければ一目瞭然です。

(左)他社製品(右)三菱化学メディア製品。油性インクの弾き方の違いは一目瞭然だ(クリックで拡大)

まず他社商品の記録面に油性マジックで汚れを付けてみます。インクを弾かないことがおわかりでしょうか。ティッシュペーパーなどで擦ってみてもなかなか落ちません。

一方、当社の商品にも同様に汚れを付けてみます。インクをすぐ弾くので、盤面への残り方が大きく違うことがわかっていただけるでしょう。残ったインクもティッシュペーパーで軽くぬぐっただけで跡形もなく消えてしまいます。これはハードコートに使用している物性が異なるためです。当社のハードコート層には、三菱化学グループの部門がタッチパネルの開発時に培った技術知見を応用し、微妙に組成を変えながら何百回もの試行錯誤を繰り返してBD用に最適化したものを使用しています。また、鍵となる成分については、分子構造・設計にまで踏み込んで、開発を行っています。

― ハードコート技術による耐擦傷性、汚れの付きにくさは、DVDよりもBDでの方が重要になってくるのでしょうか。

堀江氏 その通りです。 BDはDVDと比較して、記録マークとトラックピッチの幅が狭くなっています。読み取りのレーザーも、波長の短い青紫レーザーを使用しています。そのため表面の傷や汚れの影響を受けやすくなっています。ですからBDのベアディスクには、強力な表面保護層は必要不可欠です

ハードコートによりディスク表面の耐擦傷性、耐塵性、防汚性が大きく向上する(クリックで拡大)

BDのハードコート技術は、その規格内で最低限サポートはされていますが、当社はより信頼性の高いものを開発し、採り入れたいと考えました。その結果開発された独自のハードコート技術は当社商品の大きなアドバンテージであり、安定した美しい映像の記録と保存を支えることができます。

― 12cmBDをすでに発売されている三菱化学メディアにとって、8cmBDを開発する上でのポイントは何だったのでしょうか。また、新たに必要になった技術はありましたか。

堀江氏 8cmBDを開発しようという構想はBD開発に着手した当初からありましたが、実際に開発を始めたのは昨年の夏からです。8cmBD-R/-REは12cmBDの技術をほぼそのまま応用しています。BDの規格は12cm、8cm共に当初から固まっていましたので、残った問題はカムコーダー用の商品化にあたって、カメラメーカーの方々といかに連携をとっていくかでした。

― その点で、メディア専業メーカーである三菱化学メディアが世界で初めてカムコーダー用8cmBDの商品化に成功できたことには、どのような背景があったのでしょうか。

堀江氏 新しい規格の商品を開発するにあたっては、ハードとメディアを実際に組み合わせながら進めていくことが必要です。当社は2002年から日立マクセルと共同で、それぞれの長所を持ち寄りながらBDの開発を行ってきました。その縁もあって、カムコーダー開発初期からサンプルを提供したり、カムコーダーの試作機を借りてテストを繰り返しながら調整を行ことができました。

また、弊社BDメディアが有する、広いパワーマージンと優れた表面性能は、カムコーダーのような厳しい環境条件で使用する用途に適していることも後押しになりました。



片面2層DVDの構造。2P転写法では、1層目、2層目共に、片面1層DVDと同じ構造になる(クリックで拡大)

― 三菱化学メディアでは片面2層DVDディスクに積極的に取り組まれています。その理由を聞かせてください。

伊藤氏 片面2層DVDディスクの最大のメリットは、長時間記録が可能なことだと考えます。カムコーダーの用途はお子さんの運動会や学芸会などの撮影が多いと思いますが、記録できる時間が短いと、大事な場面で残量が不足したり、ディスクを交換しなければならなくなったり…ということも起こります。これではがっかりですよね。ディスクの交換や、裏返すことなく約55分記録できる片面2層DVDディスクは、カムコーダーでその本領を発揮すると考えています。

また、ハイビジョン記録が可能なカムコーダーが登場したことで、記録データ量はとても多くなりました。データが多いと、記録できる時間は少なくなってしまいます。ハイビジョンDVDカムコーダーの普及に伴い、今後ますます片面2層DVDディスクが必要になると考えています。

― 高画質で長時間録画できるのは大きな利点ですね。

伊藤氏 そうですね。さらにDVDは、ビデオモードであれば撮ってすぐDVDプレーヤーで観られるほか、頭出しがいらないなど、その扱いやすさも大きな特長です。片面2層DVDディスクに対応したカムコーダーも増えましたので、より多くのお客様に使っていただけるようになると期待しています。

― 三菱化学メディアでは、片面2層DVDディスクには「2P転写法」という技術を採用されています。その特長を教えてください。

堀江氏 「2P転写法」とは、1層目と2層目とを1枚のディスクの上に順に積み上げて作る方式のことです。順方向と逆方向に記録層を積層した2枚のディスクを作って、それを貼り合わせて作る方式(逆積法)と比較すると、製造の難易度は高くなります。しかし1層目、2層目の構造が共に、普及している片面1層DVDと同じ向きになるため、ドライブが対応しやすくなり、互換性を高めることができるのです。


― 三菱化学メディアはAZOに代表される有機色素に強みを持っていますが、今回発売された8cmBDでは無機材料が使われています。その理由は何だったのでしょうか。

堀江氏 BDメディアの規格がドライブメーカーのイニシアチブによって誕生したことが背景にあります。BDの規格を決定するにあたっては、ソニーやフィリップス、松下電器さんが大きな影響力を持っていました。彼らはドライブメーカーであるとともにメディア部門も持っていますが、使っている素材は無機が中心です。そのため、BDの規格を決定するにあたって、無機材料系がベースにされました。

― 有機色素を使ったディスクと、無機材料を使ったディスクの違いはどのような点にあるのでしょうか。

堀江氏 無機と有機では、スペック面ではどちらもほぼ同様のものが作ることができます。大きな違いは製造コストです。

無機材料を用いたBDメディアは、記録膜の成形にスパッタという真空蒸着技術を使用するため、新たな設備投資が必要になります。一方、有機色素を使用したBDメディアは、スパッタではなく、塗布で成膜するスピンコート技法を使用します。この方法では、有機色素を使用しているCDやDVDと同じ既存の設備を使用することができるため、製造コストが安価に抑えられ、ひいてはそれを商品に反映できることが、ひとつの大きな利点です。

― 有機色素を使用したBDディスクの開発も進んでいると聞いています。三菱化学メディアの今後の商品展開において、有機色素を使用したBD、また、片面2層BDをリリースする予定はありますか。

伊藤氏 いずれの製品も今後リリースを計画しています。来年早々を目標に、12cmの有機BD-Rを市場に投入する予定です。8cmの有機BDに関してはまだ具体的なことは申し上げられませんが、遠からず実現したいと考えています。

片面2層については、これまで「2P転写法」を用いた2層DVD開発・量産技術の深化を優先し、良い商品をご提供することに注力してきました。BDの片面2層化は、記録層材料に関わらず、同じ「2P転写法」が適用できますので、2層DVDで蓄積した量産技術・実績を適用して、近々上市するべく準備しています。

新しい規格を成功させるためには、お客様が買い求めやすいメディアの価格を実現することが必要です。有機素材を用いることによって、ハイビジョンの素晴らしい画質を一人でも多くの人に、少しでも早く楽しんでいただけるようになればと思います。

― 12cmBDについては、高速記録への対応はどのように展開されるのでしょうか。

堀江氏 まず、MABL記録層ベースの単層品で4倍速の製品を発表してから、次に片面2層品での2倍速、4倍速を順次発表する、というステップになると思います。また、有機色素記録層ベースでも、弊社が得意とする分子設計技術を発揮し、高倍速品等の開発を進め、低コストのメリットを幅広いユーザーに提供していきたいと思います。

― そこでも三菱化学グループの総合力を背景に、強力な商品を送り出していこうということですね。

堀江氏 三菱化学メディアの強みは、特に有機系材料を中心に、三菱化学グループが培ってきた多くのノウハウを商品に活かせる点にあります。これからも優れた技術を積極的に投入しながら、信頼性の高い商品をユーザーに提供していきたいと考えています。ぜひ、期待してください。


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■三菱化学メディアのホームページ http://www.mcmedia.co.jp/

■製品に関する問い合わせ先 カスタマーサービス室 TEL/0120-34-4160