三菱化学メディアは片面2層技術をはじめとし、技術力の高さを誇るメーカーである。ハイビジョンディスク録画時代を迎えるいま、同社の片面2層ディスクの優位性と今後の取り組みを紹介していこう。

斎藤氏(以下敬称略) 三菱化学メディアと言えば“片面2層技術”というイメージを持ちます。まずは、その辺りからお聞かせ願えますか。

吉田氏(以下敬称略) 2002年頃、ある大手ハードメーカーからDVDビデオで一般的に普及している2層ディスクが記録型ディスクでもできないかと話を持ちかけられました。当時、このような2層ディスクの実現は難しいと考えられていたのですが、我々は、スタンパー技術、成形技術および記録層を構成する色素技術といったキーとなる技術を所有していましたので、これらの技術をうまく組み合わせれば何とかなるのではないかと思い開発に着手しました。

斎藤 2つの層を最後に重ねればいいのではないかと考えてしまうのですが、そんなにいくつもの新しい技術から開発しなければならなかったのですか。

【取材協力】
三菱化学メディア株式会社 取締役 CTO 兼 新規事業開発室 室長
吉田秀実氏

吉田 記録型を開発するにあたっては、順方向と逆方向に記録層を積層した2枚のディスクを作って、それを貼り合わせて作る方式(逆積法)と、1層目と2層目とを1枚のディスクの上に順に積み上げて作る方式(2P法)の2つの方式を検討しました。逆積法は製造法は簡単なのですが、記録層を逆方向に積層した2層目の特性がどうしても出なかったため、最終的には技術的に難しい後者の2P法を選びました。2P法では、2層目の構造も1層目と同じ構造にできますので、両層の記録特性を合わせることができ、既存のドライブやプレーヤとの互換性を高めることができましたが、新しく、高度な技術の導入が必要でしたので、製造開始初期には大変苦労をしました。

斎藤 DVD-R DLのCPRM対応はいかがでしょうか。

吉田 CPRM対応ディスクの場合は認識コードを入れればいいだけです。実は2層ディスクを発売した時には2層でなおかつCPRM対応のレコーダーがありませんでした。ただ、これからはデジタル放送が主流になるだろうということ、何よりも非対応と対応の2種類を出すことでお客様を混乱させてはならないということで、はじめからCPRM対応モデルを発売しました。結果、ここ3年くらいでCPRM対応DVDは非常に増えています。

斎藤 そのお考えは正しかったと思います。その他、最近の注目すべきところではDVDビデオカメラ用の8cm DVD+R DL/DVD-R DLの製品化です。片面タイプは標準モードでも時間的に短いです。両面1層タイプは、裏返しの手間、初期化の作業が入るので、決定的な瞬間を録り逃がしてしまいます。レーベル面の書き込みスペースがないのもデメリットです。その点では片面2層メディアはとても有利です。

「2P転写法(積み上げ方式)」とは?
※図はクリックで拡大してご覧下さい

一つの基板上に、2つの記録層を順に積み上げて、2層式ディスクをつくる「2P転写法」は同社製品の特長を際だたせるコア技術だ

吉田 2004年に12cm DVD+R DLの商品を出した時点で片面2層タイプの8cmメディアを作る技術はほぼありました。DVDビデオカメラが普及期に入れば長時間録画を望む声が増え、片面2層対応ビデオカメラが出てくると思っていましたから、我々は先を見据え着々と準備を進めていました。最初に積み上げ方式を選んだのもBDやHD DVDなどにきっとこの技術が役に立つと考えたからですし、実際、BDやHD DVDの2層ディスクの開発や製造の中で反映されています。

斎藤 ディスクの2層化には未来の技術が一杯入っているわけですね。



斎藤 HD DVDとBDについてお話を伺っていきたいと思います。まずHD DVDについてはいかがでしょうか。

吉田 HD DVDもDVDもディスクの基本構造は同じです。樹脂基板の厚みは0.6mmですし、樹脂材料も同じです。違いは、スタンパーにより微細な加工技術が要求されること、レーザー波長が短くなることで、それに合わせた記録層の設計が必要になるくらいです。

両立の難しい高感度と保存安定性、再生耐久性を同時に実現する新開発の色素を2層式のHD DVD-Rに採用。製造方法には実績のある2P転写法を用いることで、L0/L1両方の記録層で高い記録特性を実現している (図は拡大可 同社はBD-Rに無機物である金属窒化物を採用する一方、有機色素(Organic Dye)を記録膜に採用したBD-Rの開発を積極的に進める。シンプルな構造と効率のよい製造プロセスを実現できる技術として、現在BDAでの規格化を働きかけている (図は拡大可
斎藤 記録層の色素はどうでしょうか。

吉田 DVDでは赤色、HD DVDでは青紫色のレーザーに反応して記録ができないといけませんので、まったく違った色素材料の開発が必要です。また、製品化されて間もない青紫色レーザーでは、高い記録パワーが望めないため、色素材料には低パワー(高感度)で記録でき、かつ再生時のパワーでは劣化しないという厳しい条件での開発が必要でした。色素材料の開発には多少の自信がありましたが、この開発に一番苦労をしました。

斎藤 BDについてはいかがでしょうか。

吉田 追記型のBD-Rでは記録材料やカバー層に当社ならではの独自技術を採用しております。

斎藤 今回BD-Rの記録材料として無機材料を採用されていますが、従来DVD-R等で用いられてきた有機色素材料と製造上ではどのような違いがあるのでしょうか。

吉田 色素材料では有機溶剤を用いた塗布プロセスが用いられますが、無機材料では真空プロセスにより膜が形成される点が違います。弊社のBD-Rでは独自の金属窒化物を記録膜に使っており、記録パワーマージンが広いという特徴があります。また、弊社はアゾ色素を中心とした有機色素の技術開発についても実績を持っていますので、有機色素材料を用いたBD-Rの開発も積極的に行っています。

斎藤 カバー層についてはスピンコートされるメーカーやフィルムで貼るメーカーがありますね。

吉田 開発の段階では両方式を検討し、現在の製品にはコストと性能面で優位性のあったスピンコート法を採用しました。カバー層の上に形成されているハードコート層もスピンコート法で形成しており、指紋が付着しにくく、付着しても簡単に拭き取れる機能を持たせています。将来的にはどちらの方式が本当に良いか、現在も開発は継続しています。

斎藤 BD-R DLはいかがでしょうか。

吉田 現在製品化している無機材料をベースに開発を進めています。

斎藤 それには新しい技術が必要とされますね。

吉田 はい、2層ディスクにはそれに適した記録材料の開発が必要となりますが、すでに実用化している1層ディスクの記録材料は2層化、多層化に適した材料にしています。すでに基本設計は終わっていますので、量産設備を早急に立ち上げて、来年前半には弊社独自の材料を使った製品を出そうと思っています。

CEATEC JAPAN 2006に参考出展された三菱化学メディアの技術展示
有機色素技術をBD-Rに応用したディスクのサンプル。記録膜にDVDなどと同じ有機色素を用いることで、ディスク製造に既存のDVD製造ラインが活せる。(写真は拡大可 同社が得意とする2層化技術を活かした、片面2層タイプのBD-R/BD-REを参考出展。現在製品化されている無機材料をベースに開発が行われている(写真は拡大可 インクジェットプリンターによるレーベル面印刷に対応したBD-Rも参考出展された。録画用Blu-ray Discメディアの商品開発についても、現在着実に準備が進んでいるという(写真は拡大可



斎藤 最後にハイビジョン対応ディスクに対する信頼性について紹介して頂けますか。

吉田 信頼性の高いBDやHD DVDを提供していくには、ディスクの設計・開発技術、及び製造技術全般に渡って技術力が要求されますが、特にディスク性能を大きく左右するスタンパーをきちんと開発でき、製造できる力がないといけません。当社では、スタンパーの研究開発と製造を岡山県の水島工場で行っています。研究開発部門を製造部門の近くに置くことで、新しい技術をすぐ量産にまでもっていけるようにしています。


従来技術によるスタンパー

新開発技術によるスタンパー
上図は新旧スタンパー技術の比較。同社は長年培ってきた高精度マスタリング技術を活かして、DVDに比べて、よりトラックピッチが狭く(DVDの0.74μmに対して、HD DVDは0.4μm、BDは0.34μm) 、密度の高い超精細記録案内溝の形成を実現している(図は拡大可

また、記録材料で重要な色素も国内の工場で高い品質管理のもと製造しています。すなわち、光ディスクの品質や性能を大きく左右する部材は、国内でしっかりした品質管理のもと製造し、工場に供給するようにしています。

現在、HD DVDはシンガポール工場で、BDは水島工場で生産しており、信頼性の高い新技術をいち早く量産できる体制を作っています。特に片面2層ディスクについては他社に先行している技術だと思いますので、これらにおいても当社の技術力を駆使した新商品を開発し、提案して行きたいと考えています。


【インタビュー】
斎藤宏嗣(Hirotsugu Saito)

武蔵工業大学電気通信科卒。電機メーカーのエンジニアとして高周波回路とVTRの開発を担当ののち、オーディオ専門誌に執筆を開始する。エンジニアとしての経験を生かした管球アンプの製作で注目を集める。『季刊・オーディオアクセサリー』誌では、テープオーディオの録再テストをはじめとする各種組み合わせ試聴(スクランブルテスト)の綿密なレポートで活躍。デジタルオーディオには実験段階から深く関わり、現在でも「デジタルオーディオの第一人者」の呼び声が高い。ソフトの録音評でも高い評価を得ており、実際に録音のアドバイザーとして関係した作品はアナログ録音時代から現在に至るまで数多い。


録画用 DVD-R DL(片面2層)
VHR21YD1
録画用 DVD+R DL(片面2層)
VTR21N1

>>三菱化学メディアの製品紹介ページ
録画用 DVD-R DL(ビデオカメラ用8cm・片面2層)
VHR54YP1X3
録画用 DVD+R DL(ビデオカメラ用8cm・片面2層)
VTR55NP1X3

>>三菱化学メディアの「VHR54YP1X3」紹介ページ
録画用 HD DVD-R (片面2層)
VR150T1
録画用 HD DVD-R (片面1層)
VR75T1

>>三菱化学メディアの製品紹介ページ
データ用 BD-R (片面1層・追記型)
DBR25N1
データ用 BD-RE (片面1層・書換型)
DBE25N1

>>三菱化学メディアの製品紹介ページ

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