私がリンのDSを導入した動機は2つ。CDライブラリのスペース削減と快適な使い勝手の実現を狙って決断を下した。しかし、その2つの目的以前に1つの大前提があった。それは、つねにCDを上回るクオリティを実現するという条件で、それが難しいのなら導入は見送るつもりでいた。

その条件をクリアできるかどうかは、最終的には自宅でCDと聴き比べてみないと結論が出せないと考えた私は、輸入元に頼んで試聴用機材を借用し、じっくり聴き比べてみることにした。いまからちょうど2年前のことである。

DSとハイエンドのCDプレーヤーで同じ音源(CDとリッピング後のデータ)を交互に聴き比べたあと、結論を出すまでそれほど時間はかからなかった。音の違いは歴然としている。問題はどちらがオリジナル(=マスター)に近い音なのか、ということだ。

数多くの演奏や録音の現場で積み重ねてきたそれまでの経験を元に私が下した結論は、DSの再生音の方が演出が少なく、原音に近いという判断であった。

CDの音は輪郭が強めで力強く聴こえることがあるが、複数のソースを何台かのプレーヤーで聴いていくと、力強さや量感などの特徴の多くがプレーヤー固有のものであることに気付く。その事実に気付いた後で聴いたDSの音は、それぞれの音源に本来そなわるダイナミクスの大きさや音色の特徴はそのまま再現しながら、それ以上の余分なキャラクターや演出を付け加えることがない。それは、マスターの音に限りなく近い鳴り方なのだ。ネット経由で入手できる本物のマスター音源なら違いが出て当然だが、CDをリッピングしてHDDに保存した音でも、CD以上に源流に近い音がする。

その事実に気付けば、もう迷う必要はない。DSの導入を決断した数日後には大容量のNASを購入し、ロスレス形式(FLAC)でのリッピング作業を始めた。DSが届いたとき、再生する音源が少ないと寂しいから、作業には寝る間も惜しんで本気で取り組んだ。

リンが推奨するソフトを使ってリッピング作業を進めていくと、これまで聴きなじんできたCDのうちの何枚かは、読み取り時のエラー発生率が高く、リトライを繰り返さないと正確に読み出せないものがあることが判明した。CDプレーヤーで再生しているときには気付かなかったが、長い間にキズなどでディスクが劣化したのか、エラー補正が働く頻度が確実に増えていたようだ。ただし、リッピング時に時間をかけて再読み込みを行えば、大半のディスクから正確なデータを抽出することができた。

山之内氏の試聴室で活躍するKLIMAX DS
最近自宅外に第2試聴室をつくり、MAJIK DSも導入した

NASに保存したCDのデータをDSで再生すると、特に読み込みが難しかったディスクの場合は、CD再生時とDSの音の格差が驚くほど大きいことに気付く。さきほど紹介したような音の差は大半のディスクで聴き取れるのだが、キズが多いCDなど、まるで違うディスクのように鮮度の高い音に生まれ変わり、「こんな音が入っていたのか!」と驚かされるのだ。同じ音をCDプレーヤーから出そうと思ってもまったく不可能だし、ディスクによっては同じ箇所で音飛びを起こすことすらある。それが、新品のような勢いのある音で蘇るのだから、まるで魔法のようだ。

KLIMAX DSの内部構造。デコーダー、D/Aコンバーター、電源部で構成されるシンプルなつくりで、ノイズ対策を徹底的に施すことにより高音質化を実現する

しかし、DSの音がいいのは魔法ではなく、その背景にはしっかりとした理由がある。CDプレーヤーの機種ごとの音の違いが大きいのは、DACを含むアナログ回路の設計の違いだけではなく、リアルタイムのディスク再生という、音楽CD固有の非常に特殊な環境と無縁ではない。

デジタルデータを読み取っているにも関わらず、データの整合性が確保できない場合は予測値を埋め込む補間作業を行い、音楽が途切れないようにする。この仕組みは、よく考えられているようで、実は大きなデメリットもあるのだ。ディスクに本来記録されていたはずのデータを正しく再生していない場合でも、リスナーがそのことに気付くのはきわめて難しい。さらに、キズ以外にも読み取りを難しくする要素はいろいろあり、偏心や反りは肉眼で確認することができない。実際のディスクには相当な頻度でばらつきや不整があるのに、信号面にキズが見つからなければ、そのCDが正しく読み取られると信じてしまう。実際にはプレーヤーがピックアップを高速で制御し、最善の方法でデータの読み取りに挑戦するが、その動作自体が余分なエネルギーを消費し、ノイズ源になることも少なくない。

DSの内部にはメカニズムが皆無で、特殊設計の電源回路を積むことにより、電源トランスが発する振動すら極限まで抑え込んでいる。具体的には、アルミブロック材からの削り出し加工で丹念に仕上げたフラグシップ機「KLIMAX DS」に象徴されるように、外部から伝わる振動に対してもパーフェクトと言える遮蔽を実現しているのだ。振動源を排除するだけでなく、ラック面や空中から伝わる振動への対策をここまで徹底している例はきわめて珍しい。

同様にノイズ対策にも際立った特徴を見出すことができる。KLIMAX DSの独立コンパートメント構造は内部でのノイズ伝播を最小に抑え込む効果が大きく、信号の純度を確保するうえで大きな威力を発揮する。さらに、独自開発のピュアオーディオ用スイッチング電源は2009年に「ダイナミックパワーサプライ」に進化し、さらにノイズフロアを下げ、レンジの広い再生音を実現した。高効率のオーディオ機器用電源のなかで、「ダイナミックパワーサプライ」の不要輻射の少なさは群を抜いているのだ。

DSの再生音には余分な演出がないことをすでに紹介したが、それに加えて、非常に透明感の高い音場を再現することにも特徴がある。機械的な稼働部がなく、振動源、ノイズ源がないことが、透明なサウンドを生む大きな要因だと、私は考えている。