いまオーディオの世界では、PCとデジタルソース、そしてこれまでのオーディオにはなかった「ネットワーク」を活用する新しい試聴スタイルが注目を集めています。

「CDよりも高品位な音源を楽しめる」「各機器を連携させて便利に試聴できる」というオーディオ新時代の幕を開いたのは、2007年に登場したリンのネットワークプレーヤー「KLIMAX DS」だったと言えるでしょう。

あれから3年。DSシリーズもラインナップが5機種に増え、「ネットワークオーディオ」という言葉もだいぶ普及してきたものの、まだDSシリーズがどんなものなのかピンとこない方もいるのではないでしょうか? かくいう編集部もそのひとり。そこで今回、評論家の山之内 正氏に、「DSシリーズって何?」という疑問に答えていただきました。

構成/Phile-web編集部


編集部:まず「DSシリーズ」についておさらいさせてください。「DS」とは「デジタルストリーム」の略で、現在のところ下のような5シリーズの機器がありますね。

KLIMAX DS
AKURATE DS
MAJIK DS
KLIMAX DS¥2,940,000(税込)
AKURATE DS ¥892,500(税込)
MAJIK DS ¥451,500(税込)
KLIMAX DS
KLIMAX DS
KLIMAX DS
MAJIK DS-I  ¥504,000(税込)
SEKRIT DS-I ¥262,500(税込)
DSは全部で5モデルをラインナップ。最上位「KLIMAX DS」、「AKURATE DS」はアナログXLR出力を装備。「MAJIK DS」は同軸デジタル出力を装備する。「MAJIK DS-I」「SEKRIT DS-I」はアンプを内蔵しているのが特徴。アナログRCA出力と光・同軸デジタル入力を備え、シンプルなシステムを構築することができる。


「NASやルーターとLANケーブルでつなぎ、『ネットワーク』を活用して高音質な再生ができる」ということですが、これがいまひとつピンときません。まずDSシリーズは、どんな働きをする機器なんでしょうか?

山之内:DSシリーズは、ネットワーク上にあるソースを自在に再生できるプレーヤーです。音源の保存と送り出しができるHDD(NASと言います)から音楽データを読み出して、再生することができます。

その基本の仕組みは、CDプレーヤーとよく似ているんですよ。CDプレーヤーは、レーザーピックアップでディスクに刻まれたPCM信号を読み取り、データをデジタルからアナログ信号に変換するもの。DSは、NASに保存されたオーディオファイルを呼び出して、内蔵のソフトウェアでPCMにデコードし、D/A変換するものです。D/A変換した信号は、外部アンプ(KLIMAX〜MAJIK DS)あるいは内蔵のアンプ(MAJIK DS-I/SEKRIT DS-I)に受け渡され、スピーカーから音楽として流れます。

DSシリーズのしくみはCDプレーヤーとよく似ているが、NASやPC、iPod touchなどとネットワークでつながることで、データを双方向にやりとりできるのが特徴だ

編集部:なるほど。「ネットワークオーディオ」と聞くと馴染みがなくて構えてしまいますが、言ってみれば音源がCDからNASに、CDプレーヤーがネットワークプレーヤーに替わったもの、ということなんですね。

山之内:CDプレーヤーとDSシリーズの大きな違いはまず、再生できるデジタル音源のフォーマットです。CDプレーヤーはリニアPCMの再生しかできませんが、DSシリーズはFLACやApple Lossless、WAV、AIFF、MP3など、世の中に流通している音楽ファイルのほとんどを聴くことができるんですよ。

それと、CD以上の高クオリティな音源の再生も可能です。というのも、CDは規格によって「収録できる音源は44.1kHz/16bitのリニアPCM」と決められていて、これに適合しないデータは収められないのですが、デジタルデータにはそういった制限がありません。そもそもスタジオでは、44.1kHz/16bit以上のクオリティで音源の制作をしています。そういった、マスターそのままのクオリティの音源を聴けるのも、大きなメリットです。

高音質音楽配信を行うサイトはKRIPTON HQM STOREや、Deutsche Grammophon Web Shopなどがあり、クラシックやジャズ、ポップスなど様々なジャンルの高音質音源をダウンロートすることができます。リンが運営するリンレコード(LINN RECORDS)では、最高192kHz/24bitのマスター音源が配信されていますよ。

 

山之内:さて、CDプレーヤーとDSシリーズの最も大きな違い、それは、「ネットワークにつなげる」ところです。

編集部:「ネットワーク」…最近よく耳にしますが、実際のところ活用するとどういう良いことがあるのでしょうか? 機器をわざわざネットワークでつながなくても、「PC+USB-DAC+外付けUSB-HDD」の組合せで、デジタル音源の恩恵は受けられるように思うのですが。

山之内:まず「ネットワーク」とは何かについて整理しましょうか。

多くの方が「ネットワーク」と聞いて思い描くのはきっと「インターネット」ですよね。でもオーディオで言う「ネットワーク」は、インターネットとは少し違います。インターネットが世界中のウェブサイトをつなぐように、家のなかにある機器同士をつなげる「家庭内のネットワーク」のことなんです。

これまでのオーディオでは、機器同士がケーブルでつながっていても、一方通行のデータ伝送しかできませんでした。でもLANケーブルでつないで「ネットワーク」を構築すると、双方向でデータのやりとりができるのです。

これまでのオーディオは一方通行のデータ伝送しかできなかった

編集部:機器同士が双方向にやりとりできると、どうメリットがあるんですか?

山之内:たとえば、複数のプレーヤーで1台のNASに保存した音源を共有することができます。ルーター(Router)という、ネットワーク内の機器同士を中継する装置を介して、ネットワークに接続された全ての機器とデータや操作情報をやりとりすることができるんです。

USBでつないだ場合、再生/操作できるのは直接つながっている機器同士の“1対1"の関係ですが、ネットワークでつなげば“1対たくさん”の関係を構築できるんですね。

またUSB-HDDは、PCからの呼出に応えてデータを送り出すだけですが、NASにはデータを自分でネットワーク内の機器に配信する、サーバー機能があるんです。そのため、PCをわざわざ起動させなくてもNAS内の音楽を聴くことができるのが利点です。

それから、ネットワークを使うことは、データ伝送の精度という点でもメリットがあります。LANでつながったNAS・ルーター・DSシリーズの間には、伝送データをリアルタイムにチェックする機能があるんです。

編集部:どんなことをチェックするんでしょう?

山之内:データをやりとりしながら、「オリジナルデータ」と「相手に伝わったデータ」が同じものかチェックしています。「いま送ったデータはちゃんと届きましたね」「いま届いたデータは間違っていたから、こっちを使ってください」というふうにストリーミング(データを流すこと)を行っています。

編集部:つまり、リアルタイムでチェックをすることによって、オリジナルデータを正確に伝送できるということですね。

山之内:伝送の際のデータの管理方法(プロトコル)は、実は「TCP/IP」という、インターネットと同じものです。例えばホームページを開くときに、web用に書かれた言語を正確に読み取ってページを表示させますよね。それと同じで、送ったデータと届いたデータの間の整合性が取れるようデータのやりとりをしているところが、ネットワークならではの利点なんです。

編集部:でもたとえば間違ったデータを送り直している間に、音楽の再生が途切れたりしてしまわないのですか?

山之内:そうならないために、DSでは「バッファ」という小さなデータのプールを作っているんです。誤ったデータになってしまったら一旦そのストリームを止めて、バッファに溜めたデータを流している間に正しいデータを取りに行く、という作業をしています。DSシリーズは5〜7秒分のバッファを持っています。

CDの場合、こういったデータチェック作業を行うと曲が途切れてしまうので、誤ったデータが来た際は「多分こういうデータだろう」と推測して補間するエラー補正を行うのですが、これは音質が変化したり、ノイズが発生する原因になってしまうんですよね。

編集部:DSシリーズの働きや、ネットワークを使う利点がよく分かりました。さて次に気になるのは、肝心の「音」についてです。DSシリーズを使うと、音質的にどんなメリットがあるのでしょうか。

山之内:まず1点めには、上でも話しましたが、「CDには入らないマスター音源を聴ける」ということが挙げられます。

2点目は、DSシリーズが「音楽再生専用機」であり、高性能なデコーダーとDACで音源の信号を処理できることです。

PCは飽くまでも汎用機ですから、様々なアプリケーションを使えるよう演算装置やデバイスが積まれています。こういった部品から出るノイズが、知らないうちに音を悪くしている可能性があるのです。その点DSシリーズを使えば、こういった心配を回避できます。

3点目は、DSシリーズの機構がとてもシンプルで、音質を劣化させる要因を排除していることです。DSシリーズのなかには、モーターやピックアップといったメカニズムが一切入っていないんです。機械的に動く機構から発生する振動やノイズから切り離して再生ができるのも、高音質を得られる大きな理由になっています。

たとえば私が使っているKLIMAX DSは、D/Aコンバーターやデコーダー、電源が互いに及ぼす僅かなノイズ発生の危険性までも考慮して、お互いの回路を完全に遮断した設計が採用されています。

KLIMAX DSの内部構造。デコーダー、D/Aコンバーター、電源部で構成されるシンプルなつくりで、ノイズ対策を徹底的に施すことにより高音質化を実現する

私はソニーのネットワークウォークマンなど初期段階から様々なネットワークオーディオ製品を触っていましたが、DSを試聴してみて「これまで聴いてきたネットワークオーディオ機器とは全く次元が違う、ハイエンドオーディオの領域の音だ」と感じました。

山之内:ではDSシリーズが音楽を再生しているしくみや、操作面での利点をみていきましょうか。

本体を動かしている「ファームウェア」、PCで操作を行う「コントローラーソフト」、そして、iPhoneやiPod touchで操作ができるサードパーティ製コントローラーソフト。それと一番最初に使う設定用ソフト「Konfig」。これらがDSを動かす基本のソフトです。

それぞれのソフトには、分かりやすいよう名前がつけられています。「ファームウェア」は世代ごとにファミリーネームがついていて、現在の最新版は「CARA」です。「コントローラーソフト」は「Kinsky Desktop」と呼ばれます。

編集部:「CARA」はPCで言うOSのようなもの、「Kinsky Desktop」はiTunesのような楽曲の再生を操作するもの、というイメージでしょうか。

山之内:そうですね。ファームウェアはバージョンアップにより、どんどん機能が追加されていきます。最近も「バージョン6」へのアップデートがあり、WMAファイルの再生対応や、インターネットラジオ機能の強化が行われました。※関連ニュースはこちら

機器を買い換えなくてもできることが増えていくというのは、いままでのオーディオにはなかった楽しみですよね。

さて、楽曲を再生する際ですが、Kinsky Desktopで再生したい曲を集めた「プレイリスト」を作り、それをDSシリーズ側に送るだけでOKです。

「Kinsky Desktop」のインターフェース。左側のNAS内のコンテンツリストから右側のプレイリストに聞きたい曲をドラッグして再生する アルバム再生時の画面

iPhoneなど向けのサードパーティー製コントローラーソフトを使えば、PCレスでもっと手軽かつ簡単に再生することができます。代表的なものは「Plug Player」(¥600)と「Song Book」(¥10,000)です。

「Plug Player」のインターフェース 「Song book」のインターフェース


素晴らしいと感じるのは、こういったソフトを使って「沢山のデータをサッと呼び出して再生できる」ことです。大容量のNASにCDのデータを取り出して保存(リッピング)しておけば、CDの棚から目当てのタイトルを選び出す手間も、何枚もCDをかけかえる手間も要りません。

編集部:「あのディスク、どこにやったっけ?」というストレスなしに、好きなときにすぐ好きな曲を聴くことができるんですね。

編集部:DSシリーズがどういうものなのか、そしてDSシリーズが実現してくれる新しいオーディオの楽しみについて、とてもよく分かりました!今回教えていただいた、 DSシリーズでできることと、注目ポイントを下記にまとめてみたいと思います。

★DSシリーズのここに注目
FLAC/Apple Lossless/WAV/AIFF/WMA/MP3など
 多彩な音源が再生できる
CDを超えるクオリティの音源を楽しめる
ハイエンドな音を実現できる「音楽再生専用機」
 →高性能なデコーダーやDAC搭載
 →メカニズムを内蔵せずノイズや振動を排除
PCソフトやiPhone/iPod touchでも操作ができる
沢山の曲を簡単に検索&再生できる
ファームウェアアップデートにより、できることがどんどん増えていく
★導入のときに用意するもの
*ハード
・NAS(音源を保存するもの)
・ルーター(機器同士を仲介してくれるもの。無線LAN対応だと◎)
*ソフト
・CARA/Kinsky Desktop/Konfigなどリンの基本ソフト(ダウンロードはこちら
・iPhone/iPod touch向けコントローラーソフト
・リッピングソフト(CDからデータを取り出す)

山之内:さまざまな音源を、リンが培ってきたオーディオの技術と便利なソフトで高品位に楽しむことができるDSシリーズは、音楽との距離をさらに近づけてくれるはずです。ぜひ体験してみてください。