KEFが昨年発表した超絶のフラッグシップMUONは、おそらく世界中のオーディオファンから驚愕と絶賛を集めたことだろうが、そのMUONの開発過程で得られた成果のひとつが、「Austin(オースティン)」と呼ばれる最新世代のUni-Qである。

Uni-QはKEF独自の同軸ユニットだが、改良を重ねてその度に性能を伸ばし、ついにこのオースティンにたどり着いた。そのMUONと同じオースティンUni-Qを搭載したのが“Austin Reference”シリーズである。

オースティンUni-Qドライバーの構造図

シリーズにはブックシェルフからセンタータイプ、サブウーファーなども含まれるが、ここでは代表的なフロアスタンディング型の「Model 203/2」と「Model 205/2」を取り上げたい。
いずれもReference 203と205のリファインモデルだが、オリジナルではキャビネットの上に、ハイパートゥイーターと呼ぶ超高域ユニットが取り付けられていたのをご記憶の方も多いはずだ。しかしこのニューモデルにはそれがない。オースティンUni-Qがそこまでの帯域をカバーしているので、必要がなくなってしまったのである。それほどオースティンの帯域は広い。

実際その特性は±3dB以内で300Hzから55kHzにまで及び、通常ならユニット3個分程度のレンジをカバーする。従ってこれにウーファーを加えるだけで、十分な帯域を持つスピーカーを設計することが可能だ。ここに取り上げた両機とも、そうした設計である。

Referenceシリーズに搭載されたクロスオーバーネットワーク

キャビネットの構造は上記のイラストのようになっている Referenceスピーカー製作にたずさわる専門技術者たちの一部。製造技術者が一人でペアを完成させ、試聴チェックの上、測定データと本人がサインをした証書を1ペアごとにつけて出荷するという

「Model 203/2」
Model 203/2は、フロア型としては比較的コンパクトなタイプに属する。ウーファーは6.5インチ(165mm)。これを2基搭載したダブルウーファー構成である。従来は2基のウーファーのクロスオーバーをずらし、中低域は片方のユニットだけに受け持たせたスタガー構成だったが、本機ではパラレル動作の純然たるダブルウーファーとなっている。これもUni-Qの低域限界が伸びたためウーファーの負担が軽減され、スタガーにして中低域を補う必要がなくなったためである。

キャビネットはフロントバスレフ型だが、それぞれのウーファーに別々のダクトを与えている。内部もそれに伴って仕切りが施され、最適なチューニングが施された設計である。

本機の幅は約25cm、高さはおよそ1m。ブックシェルフタイプをスタンドに乗せたのとほぼ同じサイズになるが、少し広めの部屋に置くと頼りなく見えるかもしれない。しかし音を鳴らしてみればわかるように、これで十分な再現性を得ることができる。

スペック上は低域40Hzで-6dBとなっている。しかしこれは控えめな数値であろう。少なくとも音楽を聴いているかぎりでは、少しも不足を感じない。オーケストラの低音弦、ジャズのウッドベースなど、深々と伸びて輪郭も明瞭だ。にじみがないのは立ち上がりのスピードが速く、制動が確実に利いているからである。確かにキックドラムなどでは上級機に比べてわずかに軽い感触はある。しかしそれも比較すればの話で、8畳程度までの空間ならむしろこの軽さが変な共鳴を呼ばずにクリアネスを保つ基になる。

こうした質のいい低音を基礎に、誰もが感じるのはつながりの滑らかさに違いない。Uni-Qの高域再現には全く不安がなく、どんなに鋭い信号を入れても歪みを出さないようにさえ思われる。アカペラの強烈なソプラノでも伸び伸びとして透明度が高く、またシャープな声の表情にも余裕がある。あるいはボーイソプラノでも豊かな余韻が遠くの方まで広がっている印象で、そこに声の肉質感が重なって実在感に富む。ボーカルなどはぴったりはまった感じで、声の自然さ、表情の細かさなどがなんの無理もなく出てくる。

一体感が高いのはUni-Qのレンジの広さを考えれば当然ともいえるが、その広いレンジの中に凹凸がほとんどなく、どんな音も均質なレスポンスで描き出される。このナチュラルそのものの再現性には、性能の裏づけがしっかりと備わっているわけである。

「Model 205/2」

205/2はこれより一回り大きく、ウーファーに8インチ(20cm)ドライバーを使用している。構成は203/2と全く一緒で、ダブルウーファー3ウェイである。サイズもごく一般的なフロアスタンディングの大きさといっていい。

このモデルでは低域レスポンスが35Hzで-6dBとなっている。能率が90dBと現代では割合高めなのも、鳴らしやすさとともに反応の速さに貢献しているといっていい。

聴感上は30Hzかそれ以下までほとんど平らに伸びている印象だ。パイプオルガンの最低音域が、実に厚くまた高い透明度で描かれている。普通この帯域になると音程や音色がわからなくたってしまうことも少なくないが、このスピーカーの素晴らしさはその点が明快なことにもある。ふやけた低音ではなく、密度の高い中身のぎっしり詰まった質感だが、不思議にそれで圧迫を感じない。当たりは柔らかいが手応えがある。弾力的で瑞々しい低音である。

一体感の高さも203/2と同様で、これだけの大型モデルにしては異例といえるほど帯域の切れ目がない。大口径ウーファーと違ってスピードが速いという点も見逃せないだろう。ジャズではキックドラムのアタックが明快で十分な量感も備えている。厚く、そして切れがいい。ボーカルやアカペラの再現性も一回り深い気がするが、オーケストラでもピアノでも何を聴いても違和感がないのが一番の特質といえる。

わずかに暖かみを持った音色は、ニュートラル指向のスピーカーにありがちな冷たさがなく、クリアだが肉質感にも富んでいる。それがぴったりと平らなレスポンスに乗って、ナチュラルそのものの質感を描き出すのである。位相が揃っていることはいうまでもない。実に申し分のない完成度である。

Model 203/2

Model 205/2

形式:3ウェイバスレフ型
インピーダンス:8Ω
感度:89dB
周波数特性:50Hz〜60kHz(±3dB)
外形寸法:248W×1020H×405Dmm
質量:26.5kg
仕上げ:ピアノブラック/ハイグロスチェリー/ハイグロスアメリカンウォールナット/サテンシカモア
形式:3ウェイバスレフ型
インピーダンス:8Ω  
感度:90dB
周波数特性:45Hz〜60kHz(±3dB)   
外形寸法:285W×1105H×433Dmm 
質量:33.0kg
仕上げ:ピアノブラック/ハイグロスチェリー/ハイグロスアメリカンウォールナット/サテンシカモア
KEF JAPAN  http://www.kef.jp/
井上千岳
Chitake Inoue

東京都大田区出身。慶應大学法学部・大学院修了。有名オーディオメーカーの勤務を経て、翻訳(英語)・オーディオ評論をはじめる。神奈川県葉山に構える自宅視聴室でのシビアな評論活動を展開、ハイエンドオーディオはもちろん高級オーディオケーブルなどの評価も定評がある。