初の本格派モデル 音質マイスターエディション「KH-K1000」の核心に迫る

ここ数年ヘッドホン市場が活況を呈している。iPodをはじめとするデジタル携帯プレーヤー市場の拡大によって、付属のヘッドホンの音では満足できないユーザーや、自分だけのツールとして他の人と差別化を図りたいと考えるユーザーなど、ヘッドホンに対する多様なニーズが生まれている。このように改めてヘッドホンが注目される中、ケンウッドが新たに本格派モデルを投入してきた。それが3月初旬に発売された「KH-K1000」(製品データベース)である。型番から想像がつく通り、銘機賞にも輝いた単品コンポーネントシステム「K1000」の流れを汲み、音質マイスター・萩原光男氏が最後の音質チューニングを施した“音質マイスターエディション(Sound Meister Edition)”である。

インタビューはケンウッド本社にて行われた。
視聴室で対談するインタビュアーの岩井氏(左)と音質マイスターの萩原氏(右)

「KH-K1000」は、ネオジウムマグネットや高純度OFCボビン巻きボイスコイルを採用したΦ53mmの大型ドライバーを搭載。磁気回路には透磁率の高い純鉄(SUYP)製L字型ヨークを採用している。純アルミハウジングには裏から制振材が貼られ、鳴きを抑えている。

これまで同社からは、インナーイヤー型のモデルが数機種発表されていたが、ここまで本格的で独自の音作りを意識した大型タイプの密閉型ヘッドホンは今回が“初”である。突然現れた大物はどのように開発されたのか、その核心に迫るべく、ケンウッド開発陣にお話を伺うことにした。


“ケンウッドの音”をヘッドホンでも再現したいという長年の思いが結実
(株)ケンウッド
ホームエレクトロニクス事業総括部
国内営業部 事業推進グループ
住谷 健作氏
まずは「KH-K1000」開発の経緯をマーケティングを担当された住谷健作氏より 語っていただいた。

「近年、スピーカーを鳴らす環境がないので代わりにヘッドホンで音楽を楽しもうとする方が増えてきた。そういうことであれば弊社システムの組み合わせの中で、ヘッドホンも含めてきちんとした“ケンウッドの音”を出してみたいということになったのです。

これまでも色々なオーディオイベントで他のメーカーさんのヘッドホンを使ってきたのですが、スピーカーで再生するときのケンウッドの音を、他社のヘッドホンで再現するには限界があると感じていました。いつかヘッドホンまで含めて同じ音を再現したいと思っていたところ、昨今のヘッドホン市場拡大を目の当たりにしまして、今がそのタイミングだと。

また、ヘッドホンの中でも音を外に出さずキッチリ聴けるという意味で密閉型の大型タイプを作りたいという考えは、当初から念頭にありました。最終的に他のメーカーにないもの、スピーカーでの再生音の再現という目標もうまくまとめられたと思います。

住谷氏をはじめ、ケンウッド開発陣は納得できる音作りをヘッドホンに施してみたいとずっと思っていたとのこと。長年の想いが結実したモデルがこの「KH-K1000」なのだ。

続いて「KH-K1000」の技術的側面、サウンド作りのポイントについて設計を担当した美和康弘氏に伺った。

スピーカーで音楽を聴いているような自然で開放感あるサウンドを実現
(株)ケンウッド
戦略技術開発センタ 要素技術開発部
シームレスシステム開発プロジェクト
美和 康弘氏

「多くの密閉型ヘッドホンは低域が自然に伸びていない、どこかの帯域が強調され、ガツンとした音になっていることが多いと感じています。そこで『KH-K1000』ではハウジングにポートを設け、ポートを調整することによってドライバーを鳴らそうと考えました。スピーカーのバスレフのようなダクトの共鳴を利用して低域を増強する方式と似ていますが、振動板そのものを積極的に動かして、自然な低域を得るという考え方ですね。そうすることによって変なところに盛り上がりがない、特性の良い低域を実現できました。振動板がきちんと動くことによって低域の音離れが良くなるんです。さらに振動板の前側にも音響調整フィルターをつけることで、低域から高域に渡ってスムースな音の繋がりを実感できるサウンドに調整しています。

ハウジングの制振材も形状など色々と試行錯誤しました。ユニットは耳の形に合わせて角度を付け固定されており、またユニット背面側に充分な容積の空間を確保することによって、より自然な音の広がりを得ることができました。

これらの要素により、密閉型であってもオープン型に近い音ヌケ・開放感を得られる“スピーカーを聴くような”サウンドを持つヘッドホンとなったわけです。

また音質と同時に装着面にもこだわりました。長時間使っていても疲れないヘッドホンを目指し、側圧は緩い方向に調整し、安定した装着感が得られるフリーアジャスト機構を採用しました。」



 
こうした開発者の想いが詰まったヘッドホン「KH-K1000」のサウンドを実際に確認すると、派手さとは無縁の、非常に自然で押し付けがましくないフラットな音を楽しむことができた。3万円台中盤という価格設定からすると、ずば抜けて音楽表現力が高く、音質も数ランク上と思えるほどの実力派・ハイC/Pモデルである。
オーディオ中間層に、ピュアオーディオへ踏み込む足がかりとなるような製品を届けたかった
「この値段はいかに驚きを作るか。他のメーカーさんではできないケンウッド独自のメリットを打ち出したかったんです。ビジネス的なことも考えていますが、それ以上にオーディオ中間層の方々へもっとしっかりと訴求させたい、いいものを届けたいという想いの方が強いこともまた確かです。iPodが普及し音楽を聴く時間は増えているはずですし、その人たちにもうちょっとピュアオーディオの方へ来てほしい。

高音質で評価いただいている弊社のポータブルデジタルオーディオプレーヤー「HD60GD9」への買い替えも増えてきているようです。これまで多くのメーカーが行ってきた“セットからポータブルへ”という流れではなく、“ポータブルからオーディオへ”という流れを作り出さないといけない。その途中に『KH-K1000』のようなヘッドホンがあるという図式ですね。

『KH-K1000』は強調感を一切排除した音作りをしたいという点からスタートしていますし、ストレスなくずっと聴き続けられる音を目指しました。他のヘッドホンと較べると地味に感じられるかもしれませんが、じっくり視聴して判断して欲しいですね。」
と住谷氏は締めくくった。
     
 

発売以来大好評の小型コンポーネントシステム「 K1000 シリーズ」も視聴。今回のヘッドホン「KH-K1000」も含め、ケンウッドは原音再生というサウンド・ポリシーに基づいてオーディオ製品を製作している

 
     
  自身も普段から愛用しているというケンウッドのDAP「HD60GD9」で視聴する岩井氏  
ユニット前面に設けられた音響調整フィルターによる音決めは、音質マイスター・萩原光男氏が最後までこだわっていたポイントであったそうだ。「KH-K1000」は、その材質や穴の形状など、様々な条件を試して辿り着いた、まさにヒアリングによる音決めで完成したというヘッドホンである。萩原氏からは単品システムも含めての同社のサウンドポリシーについても伺った。

部品の選定やグランドの引き回しの見直しで、低価格でも高音質なオーディオシステムは作れる
 
(株)ケンウッド
戦略技術開発センタ
音質研究所/音質マイスター
萩原 光男氏

「オーディオ製品を開発する際に、まず大事にしているのはCDなど、ソースの録音現場のリアリティを追求することです。ディティールの表現、質感をどう再現するか。例えば何か他のことをしながら、BGMのように再生していても、ふとした瞬間にハッとする音が出るシステムを目指しているんですよ。50〜60年代のジャズだったり、70年代初頭のロックだったり、昔の曲もきちんと鳴らせられないといけない。中途半端なシステムだと中域ばかり目立って、そのレンジ感の広さを再現することはできないんですね。

それを高級機ではなく、普及帯のモデルでどう実現するかが肝となるのですが、干渉をなくし分離の良い音を作ることが重要になります。その方法のひとつにフルデジタル化がありますが、基幹となるパーツも以前に較べれば技術の進歩で、小型・低価格かつ高音質になってきました。そういった部品を活用しつつ、基礎的なグランドの引き回しなど見直すことで音質は改善されます。そういった点では電源部も重要な場所で、音楽表現の深さに影響してきます。そうしたバランスを取った作り方をすることで、高級機でなくともいい音がするシステムが実現するんです。

最近はオーディオ店などのイベントにも出向き、こうした弊社のサウンドマインドを直接お話しする機会を増やしています。丁寧にその想いを伝えていくというのが自分の、そして我々にしかできないことだと思っています。」

それまでヘッドホン市場に参入してこなかったメーカーまでも矢継ぎ早に商品を発表している昨今、一見そうした動きと同じように感じられる「KH-K1000」の発売であったが、その裏にはオーディオメーカーの根幹たるマインドを反映させ、一つのコンポーネントシステムとしての裏付けを持たせていたことが分かった。高級機が目立つ市場でもあるが、機会があるのなら是非とも「KH-K1000」のサウンドを実感していただき、これまでとは違うヘッドホンの世界を体感して欲しいと思う。
【SPEC】
>>製品データベース
>>ケンウッドの製品ページ
形式 密閉ダイナミック型
ドライバーユニット φ53mm
(高純度OFCボビン巻きボイスコイル採用)
出力音声レベル 98dB/mW(JEITA)
インピーダンス 42Ω
最大入力 1,500mW(JEITA)
再生周波数帯域 10〜45,000Hz
プラグ 金メッキ標準ステレオプラグ/ミニステレオプラグ
質量 約390g(コード除く)
著者プロフィール
岩井 喬 Takashi Iwai

1977年・長野県北佐久郡出身。東放学園音響専門学校卒業後、レコーディングスタジオ(アークギャレットスタジオ、サンライズスタジオ)で勤務。その後大手ゲームメーカーでの勤務を経て音響雑誌での執筆を開始。現在でも自主的な録音作業(主にトランスミュージックのマスタリング)に携わる。プロ・民生オーディオ、録音・SR、ゲーム・アニメ製作現場の取材も多数。小学生の頃から始めた電子工作からオーディオへの興味を抱き、管球アンプの自作も始める。 JOURNEY、TOTO、ASIA、Chicago、ビリー・ジョエルといった80年代ロック・ポップスをこよなく愛している。