GLANTZ(グランツ)は、韓国のホームシアターシステム市場で、LG電子、サムスンに次ぎナンバー3となる新進メーカーだ。このたび日本上陸の第1弾として、スマートなトールボーイ型5.1chシアターセットの販売を開始するので紹介しよう。

まずはブランド紹介だが、GLANTZの本拠はソウルにある。3年ほど前、ピュアオーディオでスタートしたが、いち早く5.1chに路線転換。これが当たって世界の9カ国に輸出し、オンラインではトップの売上げを続けるまでに急伸張した、注目ブランドなのだ。

中国は中山(経済特区「深セン」と同地域)に、スピーカー部門だけで2万坪もある大規模な工場をもっているが、もともとサンスイ、アカイの生産拠点だったもの。この周囲60キロにわたって「世界の工場」と呼ばれるおなじみの地域だ。 日本でのビジネスはネット販売のみで、グランツ・ジャパンが担当。北村さんはその代表で、グランツ社の李社長とは20年来の親しい関係にあるという。

「Evolution 300 TS」 ¥59,800
今回紹介するのは、ミドル・ロークラスの5.1chホームシアターシステム「Evolution 300 TS」。驚くのはプライスだ。5chアンプやサラウンドデコーダー内蔵サブウーファーを含むフル5.1chで、何と59,800円である。国産なら10万円は越えそうな立派なホームシアターセットだが、これが可能なのも中国の労働力とネットビジネスのおかげであろう。工場直販に近いという。

では製品を見ていこう。本国で販売されている、10ランクにも及ぶ豊富なラインナップから日本向けに組み合わせたもので、サブウーファーのFX2は大きめの筐体に8インチのドライバーと駆動アンプを内蔵。AVアンプ機能としてはドルビーデジタル、DTSデコーダーほか、2chソースも5.1ch化するドルビープロロジックII機能も備える。デジタル放送の音声にも、光デジタルケーブル一本を接続するだけで対応可能だ。

またマニュアル操作ながら、テストトーンによるセットアップができ、総合出力330Wのパワーアンプを搭載している。サブウーファー背面に用意した入力端子は、光デジタル×2、同軸デジタル×1、2chアナログ音声×2と、まずは不足のないところ。

サブウーファーの背面部。5ch分のスピーカー端子も装備
入力端子は光デジタル2、同軸デジタル1、2chアナログ音声2

5chスピーカーはスマートなトールボーイで構成される。小さなユニットをアレイ状に並べて指向性をキープするのが特徴。センターを含め共通ユニットであり、音のつながりに配慮している。キャビはサブウーファーともどもウッド製、仕上げはピアノプリントだ。

フロントには3インチのミッドレンジユニットを8個装備。トゥイーターも1インチのものを2個備えている。センターとリアも同じユニットを装備し、ミッドレンジ2個、トゥイーター1個を装備。リアはミッドレンジが4個、トゥイーターが2個という構成になる。

なお付属品として、RCAピンケーブルとスピーカーケーブル、そしてリモコン、ていねいな日本語の取扱い説明書にクリーニングクロスまで入ってる。至れり尽くせりだ。

スピーカー背面の端子は金メッキ
バスレフポートも背面に装備する
リモコン。各チャンネルごとのレベル調整ボタンも供える

ハイパワーというわけではないが、まずはすっきりとのびやかなサウンドだ。2chのまとまりがよく、定位がしっかりしていてボーカルのヌケがいい。ギター、ピアノなど楽器の質感も、小細工がなく素直だ。ビッグバンドのジャズやラトル/ベルリンフィルの「惑星」などオケものはなかなかスケール豊かで、ぐんと高さのある音場の広がりはトールボーイならではの利点。フロント2.1chでは、サブウーファーレベルの加減がポイントになる。

DVDのマルチになると、さらにスピーカーの高さが効いてくる。プラズマなどの大画面とベストマッチング。スクリーンにも位負けしないはずだ。リアスピーカーはユニット構成が簡素化されているとはいえ、107cmの高さはフロントと共通。これがいい。コンパクトスピーカーなら必要になるスタンドが不要で、スペース性の面でかえって有利になるからだ。『オペラ座の怪人』は朗々と歌いあげるクリスチーヌの歌唱力が冴える。ファントムをモチーフとした重厚なオルガンの包み込みも臨場感たっぷり。複雑な和音のスペクトルが空間に発散するようだ。

スピーカー下部にはGLANZロゴが光る
スピーカーの台座もピアノフィニッシュ

もっと動きのある作品、たとえば『キングコング』や『スター・ウォーズ』シリーズ、『ナルニア国物語』などは、効果音が部屋中を駆け抜け、空間移動のワクワク感を実感。サブウーファー効果による厚みのあるエフェクトもクラス以上のものだ。再生が難しいとされる『イノセンス』は、さすがにドアの開閉や外の雨音など、サラウンドの微妙なところまでは描写が及ばない。とはいえ直後の銃撃音やガラスの粉砕音など、迫力があってリアル。

一方、 ジャズやロックなどのミュージックDVDもゴキゲンで、息のあったグルーブ感や聴衆との一体感に浸る。リアまでその熱気がまわり込むようだ。オマー・ハキムの繊細でキレのいいドラムも、このシステムで聴くとウェル・バランスでとても雰囲気よく再現された。

デジタルケーブル1本でプレーヤーとつなげ、レベル合わせも5.1チャンネルそれぞれを独立ボタンで簡単に行えるのは便利だ。ディスプレイ付きのサブウーファーも立派であり、これで6万円弱とはまったく信じ難い。輸入販売元が直接ユーザーに販売しているのでサービス体制がよく、ネット販売につきまといがちな不安感がないのもよい。まずはグランツ・ブランドを知ってもらい、手軽なリビングシステムとしてお勧めする。

<フロントスピーカー>
●ミッドレンジ:3インチ×8 ●トゥイーター:1インチ×2 ●インピーダンス:6Ω ●再生周波数帯域:40Hz〜20kHz ●外形寸法:157W×1070H×141Dmm
<センタースピーカー>
●ミッドレンジ:3インチ×2 ●トゥイーター:1インチ×1 ●インピーダンス:6Ω ●再生周波数帯域:40Hz〜20kHz ●外形寸法:400W×150H×141Dmm
<リアスピーカー>
●ミッドレンジ:3インチ×4 ●トゥイーター:1インチ×2 ●インピーダンス:6Ω ●再生周波数帯域:40Hz〜20kHz ●外形寸法:157W×1070H×141Dmm
<サブウーファー>
●出力:70W ●ウーファー:8インチ×1 ●再生周波数帯域:20Hz〜180Hz ●インピーダンス:4Ω ●SN比:86dB ●外形寸法:460W×430H×220Dmm
林 正儀 Masanori Hayashi

福岡県出身。工学院大学で電子工学を専攻。その後、電機メーカー勤務を経て、技術 系高校の教師というキャリアを持つ。現在、日本工学院専門学校の講師で、音響・ホー ムシアターの授業を受け持つ。教鞭をとっている経験から、初心者向けに難しい話題 をやさしく説明するテクニックには特に定評がある。主な著作に「レーザービジョン ディスク入門 AV新時代を拓く」(啓学出版刊)や「ビデオとビデオディスクプレー ヤーの選び方」(音楽之友社刊)がある(これはLDのハードウェアを国内で最初に 紹介した本)。自宅視聴室に3管式プロジェクターを常設し、ホームシアター研究の ための努力と投資は人一倍。フルート演奏が趣味という一面もある。