メリディアンは日本語に訳せば「子午線」だが、「頂点、最盛期」の意味もある。社名と同様にメリディアンの評価とブランド力は1977年の設立以来衰えを知らないが、その背景として2人の創立者アレン・ブースロイドとボブ・スチュアートの先見性を見逃すわけにはいかないだろう。洗練された設計思想とハンドメイドへのこだわりを持続させてきた同社は、いまや英国のハイエンドオーディオを代表する存在に成長を遂げた。

MERIDIAN「F80」
フェラーリレッド

ハードウェアが過剰な存在感を主張せず、生活空間に自然に溶け込むことも英国流だ。また、同社の製品は複雑な操作系を排したシンプルなデザインにこだわっているが、その一方で使い勝手がとても良いことでも知られる。

プレーヤーやアンプの操作体系を統一していることに加え、その基本設計を長年にわたって踏襲しているので、新しい世代の製品に買い変えても操作に迷う心配がない。何年かに一度、外見に思い切った変更を加えることはあるが、それでも使いやすさは変わらないのである。

メリディアンはハイエンドオーディオメーカーのなかでも技術的な先進性が際立っていることで有名だ。DSPを駆使したデジタル信号処理に早い時期から取り組み、BDに導入されたHDオーディオの基礎となるMLP(メリディアン・ロスレス・パッキング)を開発したこともよく知られている。

今回同社が完成させたF80には、そうした最先端技術がふんだんに盛り込まれている。

 

F80がフェラーリとのコラボレーションの成果として生まれたと聞いて両社の結び付きを不思議に思うかもしれない。だが、プレミアムカーのオーディオシステムをハイエンドオーディオのブランドが手がける例は珍しくないし、自動車メーカーが開発した新素材や振動制御/防振技術のなかにはオーディオ機器への応用がきくものがあり、実例もいくつか存在する。

F80はCD/DVD再生、FM/AMチューナーを内蔵した一体型システムなので、筐体内部にはドライブメカニズムのモーターやスピーカーの振動板など複数の振動源が存在する。その振動による音質劣化を回避するために、今回はスピーカーユニットをサポートするキャビネット素材などにフェラーリが開発した特殊素材が導入されているのだという。

F80はメリディアンの製品のなかでもきわめてユニークな形状を採用しているので、振動の制御やパーツ・基板の配置には様々なノウハウが詰まっている。

ポピュラーな小型システムの基準で作るならともかく、メリディアンのコンポーネントの技術をそのまま凝縮した高級システムとなると、完成までにいろいろな課題を解決する必要があったはずだ。

本体キャビネットにフェラーリ社がF1のマシン開発で培ったメタルと合成樹脂のコンポジット素材を採用するなど、クオリティにこだわり抜いたパーツを各所に用いている
本体メイン基板。写真右側の位置に高品位電源トロイダルトランスが搭載される
背面端子部。光デジタル入出力のほか、ミニピンタイプのアナログ音声入出力、ヘッドホン端子、S映像/コンポジット映像出力を装備

内部構造に注目してみると、トロイダルトランスを採用した高効率電源回路、表面実装技術を駆使した高密度なメイン基板、振動対策を徹底させたドライブメカなどを立体的に組み合わせており、メインユニットとサブウーファーで構成されたスピーカーブロックは巧みに電気回路と隔離されていることがわかる。

メタルと合成樹脂の特殊なコンポジット素材などを使っていることもあり、本体は見かけから想像するよりも重量級で、仕上げの質感も高級システムにふさわしいものだ。オプションで用意されるiPod用ドック「i80」も本体と共通のデザインに統一されている。

本体側面に配置されたボリュームノブ
本体正面にフェラーリとメリディアンのロゴマークを配置
高音質FM/AMチューナーを搭載。写真のロッドタイプアンテナとワイヤータイプのアンテナが付属する

奥行きの浅い扁平の半球状ボディは、中央のボトム部にスロットローディングメカを内蔵している。操作は本体上部に横一列に並んだ操作ボタン、または付属の小型リモコンで行うスタイルで、本体の操作ボタンは複数の機能を階層構造にわかりやすく配分したメリディアン独自の方式を採用。入力切替やアラームクロック機能などの基本操作に加え、DSPによる音場コントロール、DVDのメニュー操作、ディスプレイの明るさの変更などもこの操作部だけですべて行うことができる。

表示部には有機ELディスプレイを採用し、周囲の明るさに応じて輝度を自動的に調整するため、読みやすく、目に優しい。

DSPを利用した音場コントロールは、本機の設置場所をフロア、コーナー、シェルフ、フリーのなかから選択し、さらに部屋のサイズや音響特性に合わせて広がりをきめ細かく(7段階)調整することができる。コンパクトだが広がり豊かなステレオ音場を再現する秘密が、F80の緻密な音場プログラムに隠されているのだ。

F80本体のカラーバリエーションには写真のフェラーリレッドを含む5色の“フェラーリカラー”を活かしたラインナップが揃う。本体のリッチなデザインとともに、部屋のインテリアやユーザーのライフスタイルに合わせたコーディネートも楽しみたくなるはずだ
フェラーリイエロー
フェラーリホワイト
ブラック
シルバー
 


自宅試聴室で設置場所を変えながらF80をしばらく使い続けているが、使い込むほどに本機の音の良さと使いやすさを実感している。

自宅試聴室でF80のサウンドを楽しむ山之内氏

最も感心したのは、テーブルに載せてもラックに収めても、DSP音場コントロールが有効にはたらいて、自然なステレオ感と豊かな広がりが得られることだ。不利な設置条件では声がこもったり、ベースがふくらんだりしそうなものだが、呆気ないぐらい簡単に伸びやかで自然な音場が広がる。

曲線を生かした丸みのあるデザインも功を奏しているのか、見た目にも音の上でもオーディオ機器の存在を感じさせない。

広めのリビングルームでも音圧感に不足のない音量が得られるし、その場合でも音が歪みっぽくなったり、きつさや硬さが顔を出すことがないのも立派だ。これはボディの制振対策が有効に機能している証拠なのだろう。普通はこのサイズでここまで大きな音を出せばうるさくて聴いていられないという思うほど音量を上げても、鳴りっぷりの良い響きで軽々と音を出してくるのには驚かされた。

深夜など、音量を絞らざるを得ない環境では、いよいよF80が本領を発揮する。トーンコントロールを使わなくても低音の音圧感があり、音楽のバランスが整っているし、ボーカルや旋律楽器の重要なフレーズがしっかり聴き取れる。

低音は量感に頼るのではなく、質感の良い響きを出すことで存在感を引き出しているのだが、そこがまさに他のコンパクトシステムと大きく異なる点だ。このサイズのオーディオシステムで低音の音色や立ち上がり、立ち下がりのタイミングがクリアに聴き取れる例はきわめて珍しい。

DVD/CD対応のドライブはスロットローディングタイプ
山之内氏の自宅試聴室でのテスト。オーディオラックに設置した環境の他にも、写真のような窓際の棚置き環境でも試聴も行ったが、DSPの設定を行うことで環境ごとに最適なサウンドがチューニングできる






『Not Too Late』
Norah Jones
『La Stravaganza/12 Violin Concertos』
PODGER RACHEL/ARTE DEI SUONATORI
『Beyond The Missouri Sky』
Charlie Haden/Pat Metheny

筆者の愛聴盤、ノラ・ジョーンズの『Not Too Late』(EMIミュージック・ジャパン)はギターやピアノがとてもナチュラルで、少し大きめの音で再生しても無理な力みがないのがいい。本体のサイズが小さいにも関わらずベースは驚くほど豊かな響きを引き出すのだが、そのベースの音に余計なふくらみとかノイズがまとわりつかないので、ピアノやギターの音色がくもらず、とても風通しがいい。ボーカルは輪郭がにじむことがなく、透明なタッチで伸びやかに広がっていく。別のことをしながら聴いていてもアコースティック楽器の良質なサウンドで気分がリフレッシュできるし、音量を上げてじっくり聴けば息遣いや余韻までリアルに再現していることに驚かされる。こんなに小さなボディから、なぜこれほどストレスフリーのなめらかな音が出てくるのか。私の部屋を訪ねてきた知人は、誰もが例外なく不思議そうにF80を眺めていた。

ポッジャーとアルテ・デイ・スオナトーリの演奏によるヴィヴァルディの『ラ・ストラヴァガンツァ』(チャンネルクラシックス)は弦楽器だけの小さなアンサンブルなのに、音の厚みとスケール感は実際の数倍の人数で演奏しているような迫力がある。とても元気のよい演奏で、ヴァイオリンの音が飛び出してくるような勢いがあるのだが、その動きと力強さが、大型のオーディオシステムで聴くときとは違うゆったりとした気持ちで楽しめるのがF80のいいところだ。朝の目覚めとともに、F80でこの曲を聴けば間違いなく気持ちの良い一日を過ごせるだろう。

パット・メセニーとチャーリー・ヘイデンの『ミズーリの空高く』(ポリドール)は、ウッドベースとアコースティックギターのデュオが心地よい空気を運んでくる。テーブルトップに載るほどコンパクトなシステムで、ギターはともかくベースは厳しいのではと首を傾げる読者がいるかもしれないが、F80ならその心配はいらない。2つの楽器のバランスも自然だし、ベースの音色も澄み切って、しかも十分に深い。

本体に搭載した有機ELのディスプレイ。DSP音場コントロールは「フロア置き/コーナー置き/棚置き/テーブル置き/フリー」に対応するほか、部屋のサイズに合わせた音の広がりを7段階に調整可能
手になじむコンパクトなリモコン。フェラーリのロゴが配置されている

なお、付属のシンプルなアンテナ(ロッドアンテナとアンテナワイヤー)をつないだだけでAM/FM放送が良好に受信できたのも意外であった。強電界地域ということもあるが、なによりサウンドのバランスが落ち着いているので、長時間聴いてもストレスを感じることがない。最近はクルマ以外でラジオ放送を聴くことはめったになかったのだが、F80が手近にあると自然にスイッチに手が伸びる。

音楽を聴くスタイルを広げるツールとしても価値の高いシステムといえそうだ。


パイオニアショールーム/目黒店

ゆったりとした雰囲気の中で、MERIDIAN「F80」をはじめ、パイオニアのプラズマテレビ“KURO”やホームシアターシステムなどが心ゆくまで楽しめる。

営業時間 10:00〜18:30
定休日 毎週水曜日
住所 東京都目黒区目黒1-4-1
電話 03-3495-9911
FAX 03-3490-2325

>>http://pioneer.jp/corp/showroom/
 

F80専用iPodコントロールドック
MERIDAN「i80」

専用接続ケーブル付属

>>パイオニアマーケティングの製品情報

MERIDIAN「F80」専用のオプションとして、iPodの音楽ソースが楽しめる専用のコントロールドック「i80」も発売を予定している。専用のケーブルで両機を接続して、iPod内の音楽を再生したり、iPodの充電も同時に行える。

また F80のリモコンを使ってiPod内のソースもコントロールできる。i80との接続時には、F80のディスプレイにiPodのメニュー画面と連動してアーティスト名や再生中の楽曲を表示することも可能。F80本体との上質なデザインマッチングを楽しめる。(Phile-web編集部)

i80本体。ドック部は最新のiPod/iPhone 3GやiPod nanoとの接続にも対応 F80との接続は付属の専用ケーブルで行う。PCとUSB接続も可能だ F80との組み合わせ時にも優美なデザインマッチングが楽しめる