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新しい2機種のアンプが目指したもの
あらゆるスピーカーを駆動できる高品位ハイパワーアンプを志向

エソテリックがプリメインアンプのI-03とパワーアンプのA-02をリリースした。両モデルは将来に向けた同社の方向性を示す重要な内容を含んでいる。

A-02   I-03
A-02   I-03

両モデルでエソテリックが希求したのは、ずばりパワーである。これは当今のスピーカーのあり方によるところが大きい。昨今のスピーカー、特に中型機・小型機の低価格化・高性能化には目を見張るものがある。20年前なら数百万円ものプライスタグがついていたハイエンドモデルと同等の性能を持つスピーカーが、現在では数十万円で手に入るのだ。

これは誠に喜ばしい現象ではあるのだが、必ずしもポジティブとはいえない副作用も生じた。廉価ともいえるスピーカーが、超高性能のアンプを要求するのである。

いや、中級クラスのアンプでも現代のスピーカーは立派に鳴ることは鳴る。しかし、ハイクオリティなアンプで鳴らせば鳴らすほどサウンドはハイクオリティになるのである。そして、この「ハイクオリティ」という言葉は「ハイパワー」と読み換えることもできるのである。

これまでのエソテリックは、同社が輸入しているタンノイのプレステージシリーズのスピーカーを主たる対象としてアンプの開発を進めてきた節がある。

エソテリックブランドのハイエンドアンプシリーズである「マスターサウンドワークス」のラインアップを見渡すと、ハイパワーといえるのはモノラル機のA-80(200W/8Ω)だけで、A級ステレオ機のA-03は50W(8Ω)×2、真空管式ステレオ機のA-100は45W(8/4Ω)×2。これらの数値は伝統的な高能率タイプのプレステージシリーズには向いているが、当代の低能率なスピーカーをドライブするにはやや心許ない。

それに加えてタンノイが現代最先端のDCシリーズをデビューさせ、さらには最上級モデルのKingdom RoyalもDCシリーズと同じ方向性を持っていたことが大きく影響しているのではないかと筆者は推測している。これらを十全にドライブすることのできるパワーアンプとプリメインアンプを開発することは、「マスターサウンドワークス」シリーズを完成させるうえで避けて通れない問題となっていたに違いない。

 
両機の概要と技術的な注目点
I-03は最新アンプテクノロジーで大きな出力と高いクオリティを両立

ハイパワー&ハイクオリティという命題をクリアするために生まれてきたI-03とA-02ではあるが、その手法はまったくと言っていいほど異なっている。

「マスターサウンドワークス」としては初めてのプリメインアンプとなったI-03の増幅回路はクラスD動作である。多くの読者は、“ああデジタルアンプね”とお受け取りになるだろう。“ワシはデジタルの音は聴かんぞ”とおっしゃるアナログ派もおられるかもしれない。だが、ちょっと待っていただきたい。

I-03の内部構造   I-03の背面端子部
I-03の内部構造。「Esoteric MSW(=Master Sound Works) Pure Class D」パワーアンプブロックを採用。高効率でハイスピードな最新型MOS-FETを3パラレル・プッシュプル構成で搭載し、優れたスピーカードライブ能力を誇っている。またMSW Pure Class Dパワーアンプブロック2台をチャンネルごとに独立して搭載するデュアル・モノ構成としている   I-03の背面端子部。入力端子としてRCAは3系統を装備し、RCA2はAVプリ入力として使用可能で、RCA3はLINE/MM/MC切り替えが可能となっている。XLR入力は2系統を用意する。なおACアウトレット(サービス電源コンセント)などは装備していない

一般にクラスDと呼ばれるPWM(パルス・ウィズ・モジュレーション)方式は、いわゆるデジタルすなわちPCM(パルス・コード・モジュレーション)のような計算機的な原理とまったく違うのである。

PWMとは、入力のアナログ波形を搬送波の幅に変換し、それを増幅し、最後にローパスフィルターで搬送波を除去し、アナログ出力を得る仕組みだ。

確かに見かけ上は信号が1&0化される。しかしながら搬送波に音声信号を乗せるのは伝統的なアナログの手法であり、最もポピュラーな例のひとつが音声の無線送信&受信である。

いわゆる無線は、音声を搬送波に乗せることで有線よりもはるかに効率よく信号を伝えることができる。それを増幅回路の中で行ったときの効果は計り知れないほど大きい。電力消費量は極めて少なく、発熱量も少ないので、大出力アンプを比較的容易に作ることができる。問題は電源部で、1&0の1の部分に良質な電源を供給できるか否かがクラスD動作のアンプの音質の決め手になってくる。

 
電源部はまさにアナログそのもの。ヒートシンクを持たないのが特徴

話はやや横道にそれたが、I-03の電源部は純然たるアナログ回路で、電源トランスの重量は10kgを超える。ウエイト・バランスのとれたダンベルならば同じ重量でも片手で持ち上げられるが、四角くて密度の高いトランスはまず保持できない。

I-03に搭載された質量10kgを超える大容量カスタム・トランス   大型トランスを持つ石原氏
I-03に搭載された質量10kgを超える大容量カスタム・トランス。大型コンデンサーで構成された強力なアナログ電源回路を採用している   I-03に搭載された大型トランスを持つ石原氏。そのあまりの重さにビックリしていた

各ブロックの配置は三次元的に最短距離がとられている。プリアンプ部はC-03の系譜を受け継ぐもので、入力端子とほぼダイレクトにマウントされる。

プリアンプ部は、L/R各チャンネルを完全独立基板としたデュアル・モノ構成を採用
プリアンプ部は、L/R各チャンネルを完全独立基板としたデュアル・モノ構成を採用。プリアンプ専用のシャーシコンパートメントを2mm厚のスチールプレートで分割し、L/R用に2枚のプリアンプボードを搭載している

パワー部は左右のサイドパネル側にマウントされている。主要増幅素子はMOS-FETの3パラレルだ。通常のダイレクト増幅アンプと異なってほとんど発熱しないため、素子はアルミブロックを介してパネルと接しているだけで、ヒートシンクのようなものは一切ない。

パワーアンプブロック部は左右のアルミの側板部に搭載
パワーアンプブロック部は左右のアルミの側板部に搭載。MOS-FETの発熱を、この側板に逃がすため、ヒートシンクはまったく存在しない

しいて言えば、アルミブロックとサイドパネルが放熱の役割を果たしているのだが、これらは通常のヒートシンクに比べて共振が皆無に近いのは自明の理であろう。

また、エアーインテークはトップ&サイドパネルにはなく、分厚いパネルを組み合わせたシャーシの剛性は極めて高い。

ボリュームノブと信号回路は機械的に接しておらず、ノブの回転を検知してプリアンプ部の音量コントロール回路が動作する仕組みになっている。スペック表にも記されているように、I-03の出力は240W×2(6Ω)である。

I-03のボリュームノブはアルミ削り出し製で微妙な曲面を持っている
I-03のボリュームノブはアルミ削り出し製で微妙な曲面を持っている。操作時の音声信号の変化カーブを5種類のカーブから選択可能となっている
 
AB級動作のパワーアンプは高い剛性でトランスを2個搭載する

一方、A-02は伝統的な手法に則ったAB級動作のパワーアンプである。シャーシの作りはA級動作機のA-03のそれをほぼ踏襲しており、筐体の剛性は極めて高い。

A-02に採用された「Esoteric MSW(= Master Sound Works)Class AB」パワーアンプブロック
A-02に採用された「Esoteric MSW(= Master Sound Works)Class AB」パワーアンプブロック。このパワーブロックをチャンネルごとに独立して搭載するデュアル・モノ構成を採用。モノラルパワーアンプに肉薄するサウンドクオリティをステレオ機のサイズで実現している

ヒートシンクは指で弾いてもほとんど共鳴音を発しない。純A級動作ほどではないにせよ、AB級動作でも素子はある程度発熱するので、放熱効果の高いヒートシンクをつけないわけにはいかないのだが、ヒートシンクの共振は機械的なフィードバックとなって素子を振動させ、音像にニジミを発生させるケースが多い。しかし、これだけの剛性感があれば、そのような心配をすることはまずないといっていいだろう。

A-02の内部構造   A-02の背面端子部
A-02の内部構造。高剛性ボディコンストラクションを採用。 パワーアンプとして極めて剛性の高い約41.5kgにもおよぶ質量を誇り、内部の回路コンポーネントは2mm厚の鋼材による各回路専用のインナー・コンパートメントにそれぞれセパレートし、ボトムシャーシには5mm厚鋼材を採用。各回路間の相互干渉を防ぎ、内部/外部振動による共振の悪影響を最小としている   A-02の背面端子部。入力はXLR/RCAを各1系統といたってシンプル。大型のスピーカーターミナルはWBT製のもの

回路はシンプルな3段。入力段にはトロイダルトランスをもつ独立した電源部が与えられており、出力段の電流変動の影響を最小化している。

パワーアンプの核を構成する強力な電源部には、音質に優れた高効率大容量トロイダルトランスを2個搭載
パワーアンプの核を構成する強力な電源部には、音質に優れた高効率大容量トロイダルトランスを2個搭載(小さい方のトランスは入力段専用の電源である)。圧倒的なダイナミックレンジや力感など、セパレートアンプの醍醐味を存分に引き出してくれる

入力段の左右チャンネルのモジュールボードは、入力端子直近のリアパネルに左右対称にマウントされる。入力段と独立した出力段は大容量のトロイダルトランスによって電源が供給される。このモジュールボードは左右のヒートシンクの直近にマウントされる。

増幅素子はバイポーラ・トランジスターのなかでもLAPT素子と呼ばれるもので、高電圧・高電流への耐性が高く、それでいて高域特性に優れている。回路構成は5パラレル・プッシュプルで、200W×2(8Ω)/400W×2(4Ω)のパワーを叩き出す。ダンピングファクターの公称値は1000。これは、スピーカーのインピーダンスが限りなくゼロに近付いてもドライブできることを意味する。