コンパクトスピーカーの定番といえば高級機ではB&Wの805S、普及機では同じくCM1を思い浮かべる人が多いはずだ。本来ならライバル機が居並ぶはずのカテゴリーなのだが、この2機種に匹敵する人気モデルがなかなか見当たらず、あえて探せば価格レンジの異なる805SとCM1が実はライバル同士だったと気付かされる。

左が「685」、右が「686」
そのコンパクトスピーカーのカテゴリーにB&Wがまたもや戦略モデルを投入してきた。600シリーズIIIの後継として他の機種に先駆けて登場した686と685である。最初の試聴レポートで紹介したように、新600シリーズには800シリーズやCMシリーズの開発過程で生まれた技術やノウハウが数多く盛り込まれている。そのため、クラスの異なるこの3つのスピーカーには、共通するDNAの存在を見出すことができるはずだ。兄弟シリーズ同士で一戦交えるというと大げさだが、686と685の登場を機にこの三者を客観的に聴き比べてみるのも面白いのではないか。

B&Wの上級コンパクトスピーカーはMatrixシリーズの時代から805の名を与えられ、現行の805Sにも当時の設計思想は脈々と受け継がれている。トゥイーターを独立させたユニークな形状は、低域と高域の到達時間を揃えて自然な空間再現を目指すもので、801シリーズでおなじみの技術だ。主力モデルの設計思想を生かしてコンパクトな姉妹機を作るのは当時からB&Wが得意とする手法であり、それは今日でも変わらない。

大型モデルのノウハウを生かしてコンパクトモデルを作る手法と同様、上位シリーズの技術を投入してベーシックモデルを開発するアプローチも受け継いでいる。コンパクトスピーカーでは805S、CM1、686/685の系譜がまさにそのいい例であり、ノーチラストゥイーターの搭載やケブラーコーンユニットの採用をはじめ、ネットワーク回路の構成まで多くの共通点がある。新600シリーズの場合、ウーファーユニットの口径では685と805S、686とCM1がそれぞれ共通し、キャビネットのサイズもこの組み合わせのなかでかなり似通っている。

ただし、キャビネットの構造や仕上げはシリーズごとに少なからぬ違いがあり、それがグレードの違いを生んでいる点には注目しておきたい。マトリクス構造と曲面形状を採用した805Sのキャビネットはコンパクトスピーカーとしては異例といえるほど凝った作りであり、それが音にどう反映されるのか、興味深い。

発売からしばらく時間が経つが、いまだに人気ぶりが衰えない「805S」
さて、今回のコンパクトスピーカー3機種の聴き比べは、マランツのSA-13S1とPM-13S1の組み合わせで各モデルをドライブした。発売時期が早い順から、まず805Sを聴く。

このスピーカーの音を語るキーワードは「深さ」の表現が適切だろう。福田進一の《アランフェス協奏曲》は音場の奥の深さに圧倒され、オーケストラと独奏ギターの関係、そしてホールトーンが作り出す空間の広がりに感嘆した。その広い空間のなかで一つひとつの楽器の音色を見事に鳴らし分け、細かい音符の動きがクリアに浮かび上がってくる。小編成特有の緊密なアンサンブルが大きなパースペクティブのなかに立体的に展開するリアリティは、他のスピーカーではなかなか聴くことができない世界である。

バーブ・ユンガーのボーカルはウォームなタッチを失わないボーカルと、迫真の存在感を引き出すウッドベースが素晴らしい。スチール弦の張りの強さまで感じさせるアコースティックギターのサウンドは一音だけで聴き手を虜にする美しさをたたえていた。

CM1で同じソースを聴くと、さすがに兄弟機だけあって基本的な音調はきわめて近い。空間の絶対的な大きさこそ少しコンパクトになるが、演奏会場の響きやギターの音色そのものはほとんど805Sと変わらず、柔らかさと鋭さが両立して説得力がある。コントラバスの持続する低音の音色と音程を正確に引き出すことにも感心した。ボーカルは伸びやかさとボディの豊かさ、ふくよかさが持ち味。ウッドベースのピチカートもそうだが、たっぷりとした存在感があるのに響きが重くならないのがよい。マーラーの《復活》は805Sほどのスケール感は出ないが、低音の伸びは自然で音色のくすみやもない。5楽章導入部の大音量で響きが破綻しないのはサイズを考えると立派なものだ。

CM1を試聴。会場の響きやギターの音色そのものはほとんど805Sと変わらない コンパクトスピーカーで売れ筋ナンバーワンを長期にわたってキープする“名機”だ

次に686に交換してみよう。《アランフェス協奏曲》でまず感心したのは音の立ち上がりが素直なことで、ギターはもちろん、オーケストラの低弦のアタック、ファゴットの発音も軽快でスムーズだ。ヴァイオリンの音色は硬さがないが、弓を弾ませるスピッカート奏法の粒立ち感はいかにも生々しい。木管楽器と独奏ギターの遠近感が正確に出てくる空間再現力の確かさは、805SやCM1からしっかり受け継いでいる。

女性ボーカルとウッドベースは音像が適度に引き締まり、落ち着いて質感の高いバランスがなかなかよい。通常よりも音量を上げて聴いてみたが、硬さや突っ張り感がなく、ベースも破綻なく量感が増すことに驚く。パワーを入れても期待以上にしっかり応えてくれるスピーカーであり、無理に鳴らしている印象はない。マーラーのような大編成の管弦楽を聴いても空間の見通しがいいのは、このゆとりによるものだろう。

600シリーズが搭載するノーチラストゥイーター 600シリーズのトゥイーターはハウジング内部に内蔵されている

最後に聴いた685が再現する空間の広がりは、686よりはCM1や805Sに近く、音が空気のなかに放たれた瞬間の伸びに余裕がある。独奏ギターの音像は若干大ぶりだが、一つひとつの音はよく引き締まっていて、勢いや推進力があり、オーケストラの旋律が沈み込むこともない。これは805SをはじめとしてB&Wのコンパクトスピーカーに一貫してそなわる長所に数えるべきだろう。低音楽器の響きはCM1よりも805Sに近いタッチで、残響豊かだが見通しがよく、大きな空間が現れる点もよく似ている。セッティングの簡単な調整とポートプラグの使いこなしを工夫すれば、本機からこの見通しの良さを引き出すのは難しくないはずだ。

「685」を試聴。686よりはCM1や805Sに近い 実際の家庭での「685」設置イメージ

ボーカルはフォーカスがシャープで、粒立ちの良いウッドベースには弾力もそなわる。ほとんど原寸大といってよいほどリアルなウッドベースの重量感は、805Sの響きにかなり近いものがあった。

4機種をまとめて聴くと、空間表現力のたしかさ、音楽の推進力とエネルギー感、小型機らしからぬスケール感など、B&Wのコンパクトスピーカーならではの共通した特質を聴き取ることができる。クラスレスと呼んでいい質感の高さがベーシックモデルの600にまでしっかりそなわっていることも意外な驚きであった。

685 [製品データベース] 686 [製品データベース]
●形式:2ウェイ2スピーカー バスレフ型
●使用ユニット:25mmアルミニウム・ドーム・トゥイーター×1、165mmウォーブン・ケブラーコーン・ミッド/ウーファー×1
●再生周波数帯域:42Hz〜50kHz(-6dB)
●出力音圧レベル:88dB(2.83V/1m)
●公称インピーダンス:8Ω(最低3.7Ω)
●クロスオーバー周波数:4kHz
●外形寸法:198W×340H×331Dmm
●質量:7.0kg
●カラー:ライト・オーク、ウェンジ
●形式:2ウェイ2 スピーカー バスレフ型
●使用ユニット:25mmアルミニウム・ドーム・トゥイーター×1、130mmウォーブン・ケブラーコーン・ミッド/ウーファー×1
●再生周波数帯域:45Hz〜50kHz(-6dB)
●出力音圧レベル:84dB(2.83V/1m)
●公称インピーダンス:8Ω(最低5.1Ω)
●クロスオーバー周波数:4kHz
●外形寸法:170W×265H×284Dmm
●質量:4.9kg
●カラー:ライト・オーク、ウェンジ

B&W オフィシャルサイト
特別企画 vol.1 「コンパクトスピーカーの新基準 685/686」
Phile-webニュース【B&Wから600シリーズの新ブックシェルフ「685/686」が登場 − センターSPも同時発売】

山之内 正
Tadashi Yamanouchi

神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。