前回の“B&W新XTシリーズを聴く”では、先行して発売されたシリーズの顔であるフロア型「XT8」を試聴した。9月末にブックシェルフ型の「XT2」、センタースピーカー「XTC」、フロアスタンド「FS-XT」が発売され、新XTシリーズが完成した。

新XTシリーズ。サブウーファーの「PV1」は以前から販売されているモデルだ

今回、東京・恵比寿のD&Mショールームで、XT2による2chステレオシステム、さらにフルラインナップでの5.1chシステムを聴く機会に恵まれた。前回記事とあわせてお読み頂き、最も新しいB&W、新XTシリーズの全容に触れて頂ければ幸いである。

 

B&Wの高度な音楽再生をリビングルームでハイセンスに楽しむスピーカー“XTシリーズ”が、アルミボディをリファインして帰ってきた。旧XTはアルミポリッシュだったため品質管理が難しかったが、ヘアラインに変えて生産安定を達成したのである。それだけでなく、XT8は使用ユニットと構成が大幅に見直されている。XT8の変更点とシリーズ全体のコンセプトについては前回の記事をお読み頂くことにして、今回の主役はコンパクトブックシェルフのXT2とセンタースピーカーのXTCである。

XT2は、ノーティラスチューブローデッド・アルミドーム・トゥイーターと13cm口径のウォーブン・ケブラーコーン/ミッドウーファーで構成したコンパクトなブックシェルフスピーカーである。使用ユニットは旧モデルから変更はない。バスレフ形式のエンクロージャーはブラッシュドアルミを折り曲げ加工したもので、800シリーズ同様の馬蹄形断面を持つ(バッフルはABS樹脂系素材を使用)。

幅は154mm、奥行きは200mmで、フロア型のXT8と全く同じ。この形状が強度と音の出方の美しさを狙ったことは言うまでもない。MDFなどの木を使ったら同じ強度を得るためにずっと厚くしなければならないが、アルミボディは薄くても強度が確保できる。“オーディオのためのオーディオ”、“高音質のための高音質”を目指すのでなく、リビングルームをB&Wグレードの音楽再生で満たすことを考えた場合、アルミ素材と馬蹄形形状の融合が必須だったのである。

XT8を上から見たところ。XT2もアルミ素材を用いた馬蹄形形状のエンクロージャーを採用している

新XTシリーズのスリムなエンクロージャーには二つの目的がある。一つは環境に溶け込み、佇まいに威圧感がないこと。もう一つはバッフル面の回析現象を減らして、音楽の自然で豊かな広がり感でリビングを満たすことである。このあたりに、世界のスピーカー専業メーカーの頂点に立つB&WがXTシリーズに込めた深慮がある。

新XTシリーズは、技術要素の多くを800シリーズから受け継いでおり、ユニットの構成はCMシリーズと重なる部分が多い。価格帯もCMシリーズとオーバーラップする。ちなみにCM5とXT2の価格は160,000円(ペア)と同じである。ユニットもバスの口径は違うが同系列で、ネットワークは別の物である。CMシリーズとは切り口を変えたB&Wの高音質再生の思想がXTで、その核心が音場表現の豊かさなのだ。

 

さて、新XTシリーズの音場表現の真価を知るために、前置きはこれくらいで止めて試聴に入ろう。使用システムは、前回を踏襲して「SA-7S1」(SACD/CDプレーヤー)、「SC-7S2」(プリアンプ)、「MA-9S2」(モノラルパワーアンプ)×2という構成だ。

まずはXT2を2chステレオで再生。スリムでコンパクトな外観からは想像できないほどの豊かな音場が現れた

XT2によるステレオ再生を一言で表現すれば、コンパクトなサイズを超えて何十倍もの広がり感のある音で満たされた美しい空間を作る。ステレオ再生でもサラウンド的なふくらみが感じられるのだ。

CMシリーズが、コンパクトなプレイバックリファレンスとしても使える端正な音質で、音に色付がなくて美しいだけでなく、B&Wモニター系列の「精確で厳しい」一面を持っているのに対して、XT2はB&Wのもう一つの美学、すなわち音の波動の生動感、音場が広々と息づく心地よさを積極的に出してくる。そう、堅牢なアルミボディとスリムな形状は、この聴き手の心を開放する音場表現のためにあったのだ。

XT2の音の素性は、自然でのびやかな音質であることが大きな特徴だ。無理に低音を欲張っていないのだが、サイズの割に聴感上のレンジ感がある。アンドラーシュ・シフの弾くベートーヴェンのピアノソナタop.101は、高域の歪みや誇張がなく原音に忠実、左手と右手のコントラスト感も豊か。それが、先のエンクロージャーのコンセプトと一体になり、大らかな音楽の情景を生み出すのだ。

同時に発売された専用スタンドFS-XTと組み合わせて聴いたのだが、スタンド設置状態で1m足らずの高さである。しかし、音像は2台のXT2の中央にくっきりと浮かび、スケール感がある。XT8同様、細かな音を洩らさず伝えてくるのも印象的だ。カエターノ・ヴェローソのボーカルを再生して、ボーカル、ギター、音像を等身大的に描く力があるのは立派というほかない。低音の豊かさはXT8が上だが、音像を虚空に軽やかに描き出す空間表現という点で、FS-XTとXT2の組み合わせを好む方も多いだろうから、XTシリーズに関心をお持ちになったら、ぜひ聴き比べてみてほしい。

 

さて、次はXT2にサラウンドを受け持ってもらい、フルラインナップでの5.1ch再生である。アンプはAV8003/MM8003、BDプレーヤーはUD9004。フロントにはXT8を、サブウーファーにはPV1をそれぞれ使用している。

まずはXT2を2chステレオで再生。スリムでコンパクトな外観からは想像できないほどの豊かな音場が現れた

ここでセンタースピーカーXTCを簡単に紹介すると、XT2と共通のケブラーコーン・バス/ミッドレンジドライバーを2本使用、ノーチラス・アルミドーム・チューブローディング・トゥイーターと組み合わせ、XT8、XT2との音質統一を配慮したスピーカーである。

試聴ディスクについては、XT2のサイズを越えた音場の広がり、前回レポートしたXT8の雄大でリアルな音場の描写を考えて、最近の邦画ではサウンドデザインが出色の『崖の上のポニョ』(ジブリ/ディズニー)を視聴した。

 

イントロダクションの深海のシーンは、海中に音がこだましていく描写や、空気でなく海水の密度を介して音が伝達していく、水に満たされた世界の広がり、遠さが出て驚かされる。B&Wの、あるいは新XTシリーズの音場密度あってのサラウンドである。

先ほどメインスピーカーとして使用したXT2をサラウンドに配置

続いて映画のタイトルが出るのだが、ここで林正子の歌が鮮明で奥に引っ込まず、歌詞が完全に聴き取れる。林正子のソプラノは豊麗で美しいが、センタースピーカーが非力な場合、あるいはLRとのバランスが整わないと、日本語の発声が響きに埋没して聴きづらくなる。XTCは切れ込みが良く、音が前に出てくるし、B&Wにしては音調が立っていて、セリフが明快に聴き取れる。センターとしての役割に徹することを心がけた製品である。静的なサラウンド表現だけでなく、魚群が海面に向かっていくシーンでは、天地方向の移動感も鮮明で音場を高々と表現する。

 

視聴中の筆者。「天地方向の音場感が感じられる」と新XTシリーズのサラウンド再生を高く評価した
次に視聴したのが『天使と悪魔』(SPE)。クライマックスシーンの、反物質をヘリでサンピエトロ広場上空へ追いやるシーン。肝心の高さの表現がなかなか出ない、サラウンド機器泣かせのシーンなのだが、XTシリーズで聴くと、バックの音楽のオケの広がり感が広く遠く、その中で音が遠巻きに動いていく描写が凄い。前後と音場斜め(対角線)方向の移動もきわめて鮮明で、フロントなどの補助スピーカーを設置していないのに、天地方向の音場感が生まれるのに驚かされる。

新XTシリーズに共通するのは、のびやかでストレスを感じさせない生動感豊かな音。それを束ねれば「このスリムなスピーカー群から!?」と耳を疑わせる広大な音場が出現するのは自明のこと。

新XTシリーズはB&Wの考えるリビングオーディオ像をうかがわせるが、同時にリファレンスである800系から多くを受け継いだ最新モデルでもある。新XTシリーズでサラウンド/ステレオを聴くと、B&Wが新XTシリーズに託したものの深さ大きさが、単なるデザインコンシャスでなく、家庭の音場への思想と研究成果を盛り込んだ最新のB&Wであることが、自ずと理解されることだろう。