試聴したのは量産モデルに入る前の試作機であり、今後発売までの数ヶ月、さらに音の追い込みが行われる予定であることをあらかじめお断りしておく。そうはいっても最初にステレオ再生の音を聴いたとき、その響きのスケールの大きさと奥行きの深さに気付くまでほとんど時間はかからなかった。「セパレート型のメリットはやはり小さくない」というのが、本機の音に触れて最初に感じた印象である。

試聴はマランツ川崎本社で行った
具体的な例を紹介していこう。ジェーン・モンハイトのボーカルは、まずは声の純度の高さに感心した。くぐもったところやぼやけた雰囲気がなく、ステージで実際に歌っているときの感覚がストレートに立ち上ってくるのである。ウッドベースは一本一本の弦がふるえる動きが見えるようなリアリティがあって、芯のあるサウンドだが、余分なふくらみやにじみ感がなく、声と同じようにピュアなタッチ。普及クラスのアンプとの違いは、そのクラリティの高さにあるといえそうだ。サックスなどホーン楽器は実在感とボリューム感があって、明瞭でも痩せたサウンドにならないことに感心した。

オーケストラはマーラーの交響曲第2番《復活》を聴いた。これだけ編成の大きな管弦楽と合唱はそれなりのシステムで聴かなければ本物のスケール感がなかなか出てこないものだが、さすがに出力に余裕のあるパワーアンプで鳴らすと違いがよくわかる。特に最終楽章冒頭など全奏(トゥッティ)のマッシブな量感とアタックの切れの良さは、大出力アンプならではの威力というべきだろう。低弦の力感と厚み、金管楽器の押し出し感も期待以上で、彫りの深いサウンドを堪能することができた。ステージ裏で演奏するバンダの驚異的なピアニシモは、アンプのダイナミクス表現の実力が端的に現れる部分だが、その静寂感には特筆すべきものがある。無音のなかに緊張が持続し、ホルンの旋律が遠くで響く部分では、AV8003とMM8003のS/N感の良さを実感することができる。

マルチチャンネルSACDは本機のピュアオーディオ再生の実力を検証するには好適なソースだ。ダンディンコンソートのバッハ《マタイ受難曲》(リンレコード)は、同団体が前回収録したヘンデルの《メサイア》と同様、合唱とオーケストラを最小人数で構成した注目のディスクで、特にマルチチャンネルで再生すると深みのある音場が目前に広がってひときわ臨場感が増す。この録音を本機で再生すると、すべての楽器の配置が立体的な音場空間に一つひとつ自然に浮かび上がり、その響きと溶け合いながら独唱、合唱が生き生きとしたハーモニーを作り出す。いい意味で動きのある演奏の特徴が、聴き手に素直に伝わってくると感じた。声の透明感の高さと、オルガンの低音部のくもりのなさにも感心したが、これは異種信号の干渉を徹底して抑えた設計を行ったことの成果だと思う。

BDソフトの再生に使用したのは同社初のBDプレーヤー「BD8002」。テスト時は試作段階だったが、高次元な映像・音声の再生能力を感じさせた
映像ソースはBDを3タイトル試聴した。最初は《ダイ・ハード4》のDTS-HD Master Audioを聴く。この映画の醍醐味は映像と同様にサウンドデザインに驚くほど手間をかけていることで、派手なアクションシーン以外にもいろいろな場面に聴きどころがある。今回はマクレーンとマットがヘリに追跡されるシーンを見たが、複雑な動きのカメラに同期して効果音や環境音がレスポンスよく変化し、緊張感を高めていく手法が見事だ。細かい部分まで一つひとつの効果音の音色、質感、スピード感などを精度高く再現するうえ、たくさんの音が重なったときのセパレーションが高い。これだけふんだんに音が詰まった作品も珍しいと思うが、それでも混濁感がなく、音楽のリズムと台詞の緊迫感もしっかり浮かび上がってくるから不思議である。この作品のサラウンド音声はリアスピーカーも含めてすべてのチャンネルの音圧が高いことが特徴で、同時に大音響で鳴り渡るシーンが次々に連続して連なっている。全チャンネル動作時の出力に余裕のあるMM8003の実力が如実に現れる作品といっていいだろう。

BD化されたミュージカル映画のなかの最高傑作というべき《ヘアスプレー》はマランツのセパレートアンプでどんなサウンドを聴かせてくれるだろうか。

DLNA経由での映像ソース視聴も行った

この作品の一番の聴きどころはなんといっても声の力強さとハーモニーの美しさにある。トレーシー役のニッキー・ブロンスキーの張りのある明るい声と、クィーン・ラティファの深みのあるヴォイスの対比が見事で、どちらもロスレス音声ならではの伸びやかさに耳を傾けるべきだ。リズム楽器の動きの鮮やかさと弾力感も聴きどころなのだが、こちらはあくまで脇役。だが、その脇役であるベースやパーカッションのサウンドの力が薄まってしまうと、途端にこの作品のノン・ストップで突っ走る魅力が萎えてしまう。秀逸な振り付けの力も、パワー感のあるリズムに支えられてこそのものということを、あらためて思い知らされる。AV8003とMM8003はその点においても期待以上のパフォーマンスを見せてくれた。ベースやパーカッションだけでなく、ソロをサポートするコーラスまで含めて、音のアタックがよく揃って、音が消えるときの切れ味も鋭い。クオリティの高いサウンドで楽しむほどに面白さが増す。

最後に聴いたのはエアチェックしたメトロポリタン歌劇場のベッリーニ《清教徒》。DVDも発売されたばかりだが、画質を優先してエアチェック版を試聴した。冒頭で合唱の存在感の大きさに感心したが、最高音域まで密度の高いネトレプコの声を聴くと、興奮は一気に頂点に向かう。このライブ感を家庭内ネットワークで満喫できることを歓迎したい。