2008年の夏、旭化成エレクトロニクス(以下 AKM)の最新32bit対応DAコンバーター(以下 DAC)が“Celestaシリーズ”として鮮烈なデビューを飾った。今回は“Celestaシリーズ”から、改めて「AK4399」「AK4392」「AK4390」というプロダクトネームが掲げられたDAC各製品について、それぞれの特徴をAKMのプロダクトマネージメントに携わる佐藤氏に紹介いただいた。
 
 

― まずはシリーズのトップモデルである「AK4399」の特徴について、初の32bit対応DAコンバーターとして2007年に登場した「AK4397」から改良されたポイントなども含めてご説明いただけますか。

 

佐藤氏:AK4397からのアップグレードに関しては、まず数字的なスペックアップにこだわりました。AK4397のときは歪みが「-103dB」でSNが「120dB」でしたが、AK4399では歪みが「-105dB」で2dBアップ、SNは120dBから「123dB」で3dBアップを実現しました。あとは音質面でAK4397の開発でやり残してしまった部分をアップグレードすることも課題でした。またファンクションとしては、AKMとして新しい音を提案したいと考え、AK4399/4392/4390の3製品からショートディレイ・タイプのデジタルフィルターを搭載しています。

 

― デジタルフィルターはAK4397にはなかった機能ですか。


旭化成エレクトロニクス(株)
電子部品マーケティング&セールスセンター オーディオ事業グループ 課長代理

佐藤友則氏

 

佐藤氏:搭載はしていましたが、左右対称型の波形を持つシャープロールオフ・タイプとスローロールオフ・タイプの2種類でした。AK4399ではシャープロールオフのフィルターに加えて、ショートディレイと呼ばれるフィルターも搭載しました。このタイプのフィルターはAK4397の頃から開発を進めていて、当時からインパルス特性がサウンドに及ぼす影響を様々なシミュレーションを行って検証していました。ショートディレイの特徴はプリエコーのないタイプを採用しました。インパルスを入れた際の応答が、立ち上がり特性が自然界の音に近く、例えば物をたたいた時にぱっと立ち上がるような特性を、今回新しく搭載したフィルターに設定しています。音としては今までにない、新しいタイプの音に仕上がっていると考えています。このため聴いていただいたお客様の好みがはっきりと分かれると感じていますが、楽器の音を忠実に再生するとか、声の子音をはっきり聞かせるという面でメリットがあります。今までにない“生音に近い”サウンドを得ることができます。

 

― フィルターのON/OFFで音を聴き比べてみると、すごくメリハリがはっきりする

印象です。

佐藤氏:そうですね。余韻が長く聴こえるような従来の音質とは少し違って、どちらかと言えばエッジがハッキリとしてくると思います。AK4399/AK4392では、さらにデジタルフィルターをOFFにして、デジタルシグマとスイッチドキャパシタのみを通過させるモードも搭載しています。本デバイスを採用いただくお客様のなかには、独自にデジタルフィルターの開発に力を入れているメーカー様もありますので、オリジナルのフィルターが持つキャラクターも活かしながら、AK4399/AK4392のDACとしてのクオリティをベストな状態で使っていただけるようなインターフェースを今回採り入れました。

 

― これによって使い手側の自由度がものすごく高まりますね。

佐藤氏:はい。私たちが提案するデジタルフィルターで音づくりもできるけれど、お客様の方でも独自のDSPなどを活かして自由な音づくりができる製品になっています。

 

AKM最新DACが搭載するデジタルフィルター
AK4399/4392/4390のDACシリーズに搭載された「ショートディレイ」タイプのデジタルフィルターが持つインパルス特性。インパルス応答が“プリエコー”を持たないタイプとなっており、素早く自然な音の立ち上がり実現している(図は拡大します) 一方、従来の「シャープロールオフ」タイプのデジタルフィルターでは、インパルス入力時の波形が左右対称型にあらわれる。従来のAKMのDACほか、AK4399/4392/4390シリーズにも採用されているは拡大します)

 

― 音質面ではAK4397からどんなところが変化していますか。

佐藤氏:今までお話した部分は、どちらかと言えばデジタル的なアプローチですが、アナログ部でも回路のレイアウトをAK4397から見直しました。LRチャンネルの独立設計はAK4397の頃からのスペックですが、AK4399からはクロックラインを短くしたり、電源がよりスムーズに通るような引き回しも突き詰めて行くことで、“芯の強さ”を追求してきました。また、仕様として明らかに違う点では、「VCOMピン」と呼ばれる、いわゆるアナログスイングの中心点を出すピンをAK4399/AK4392に実装しています。このデバイスは5ボルトの電圧で動くので、アナログ信号のスイングのセンターは大体その真ん中ぐらいの電位で動作点を決めています。これを外側に出して安定的にアンプの動作点が決められるようなピンとして追加しています。

 


【データA】AK4399モノモード片側チャンネルのデータ(図は拡大します)

通常VCOMピンの電位は単純にアナログ電位の半分に設定するのですが、実はAK4399とAK4392ではそれぞれ異なる値に設定しています。具体的な数値については控えさせていただきたいのですが、ともに最適化して異なった電位で供給しています。今回のモデルでは歪みを-105dBでスペックしていますが、この部分を調整してチャンピオン的な数字を取ろうとすれば、実は-110dBの値も出すことができます。また内部のアナログアンプの基準点をつくっていますので、このピンに好きな音質のコンデンサーを使ったり、流れる電流を微妙にコントロールすることによって低音の量感を出したり、音質がチューニングできるという効果もあります。

32bit対応DAC「AK4399」のポテンシャルとして、-146dBFS 32bitのデータを入力した場合のFFT結果(データA)を示します。このデータはROHDE&SCHWARZ社製のUPV(32bit I/F搭載)という測定器で測定したものですが、非常に性能が良いため、1k付近ではノイズフロアが-164dBというとても低いフロアノイズのデータを測定できます。AK4399単体でのリニアリティは-164dBまではありませんが、モノモードで多数個使いすることによりS/Nを向上させることができ、さらに広大なダイナミックレンジを確保することが可能になります。このことによってさらに32bitデータの再現性を高めることができます。

 

― 今回“AK43シリーズ”を3つのラインナップで展開されたことも新しい戦略だと思いますが、それぞれにどんな違いのある製品なのでしょうか。

佐藤氏:AK4399をフラグシップに据えて、一つ下のAK4392ではSNを120dB(AK4399は123dB)に設定したほか、内部の回路についてもサイズダウンを行っています。さらに下位のモデルとしてラインナップするAK4390ではパッケージをさらに小さくして、コストを抑えています。先述のVCOMピンやデジタルフィルターの外付けインターフェースはAK4399/AK4392のみに実装し、AK4390では省略しています。その代わりにAK4390は30ピンのパッケージにして、コストパフォーマンスと汎用性を高めています。

 

― それぞれユーザーの用途を想定したラインナップ展開になっているわけですね。

佐藤氏:はい。例えばあるメーカーの中でトップモデルを筆頭に様々なランクのモデルを展開する際に、それぞれにAKMのDACを活かしていただけるよう、価格や機能のバリエーションを設けています。

 

製品紹介
AK4399
AKM 32bitオーディオDAC
AK4399


32bit対応DACのフラグシップモデル。内部回路は新開発の音質を考慮した32bitデジタルフィルターを採用。従来のアドバンストマルチビット方式の優れた低歪特性に加えて、さらに広いダイナミックレンジが実現されている。内蔵のポストフィルターにはスイッチトキャパシタフィルタを採用し、クロックジッターによる精度の劣化を改善。デジタル入力は216kHzのPCM入力とDSD入力の両方に対応する。

>>旭化成エレクトロニクスの製品情報
AK4392
AKM 32bitオーディオDAC
AK4392


トップモデルのAK4399の汎用性を活かしたスタンダードモデル。歪みが-103dB、SNが120dBという、前フラグシップモデル「AK4397」と同等の性能を備えつつ、32bit対応の最新デジタルフィルターを組み込んだ意欲的なDAC。エソテリックの SACDプレーヤー「SA-50」に採用されている


>>旭化成エレクトロニクスの製品情報
AK4390
AKM 32bitオーディオDAC
AK4390


216kHzサンプリングモードに対応した高性能プレミアム32bit対応DACシリーズとして、30ピンのパッケージで供給されるハイCPモデル。ΔΣ変調器には新開発のアドバンスト・マルチビット方式を採用し、デジタル入力は192kHzのPCM入力に対応する。32bitデジタルフィルターも搭載している。

>>旭化成エレクトロニクスの製品情報


 

― DACの音質評価はいつもこちらの試聴室で行っているのでしょうか。

 

佐藤氏:はい。評価用のデバイスを搭載した評価ボードをつくって、このような一般的な直流の安定化電源をつないでリスニングを行っています。この部屋で音質評価のために費やする時間もなるべく多く取って、音を聴かない日をできるだけなくしたいと思っています。やはり慣れていくことも大事なことだと考えていますので、毎日少しでも音に神経を研ぎ澄ます時間を設けるようにしています。

 

― 最終製品の音質評価は全て佐藤さんがお一人で担当しているんですか。

 


旭化成エレクトロニクス本社のオーディオ試聴室。オーディオDACをはじめ、Audio 4 Proブランドのオーディオ製品の音質評価がこちらで行われている(写真は拡大します)

佐藤氏:私のほかにもう一人のスタッフで決めています。

 

― 互いの意見がずれることはありませんか。

 

佐藤氏:当然ありますが、やはりAKMとしてのサウンドポリシーが決まっていますので、向かうべき音がずれていくということはないと思います。

―  佐藤さんはDACの開発に関わり始めて何年ぐらいになりますか。また実際に今まで開発に関わって来られて、DACについての価値観が変わったことはありますか。

 

佐藤氏:私がDACを担当し始めたのは2000年前後ですので、今年でほぼ9年になります。DACを担当した当初は、良質な部品を使うことが音質の向上に最も有効と考えていましたが、今ではレイアウトが最も大事ではないかと思っています。確かにコンデンサーや抵抗など、部品を変えることによる効果はありますが、今回“AK439Xシリーズ”の開発を始めてからというもの、レイアウトを工夫することで、部品が持っている様々な特性が引き出せることを発見しました。極端に言えば電子の流れを滑らかにすることが“いい音”に一番つながるのではないかと思います。

 

― 佐藤さんご自身は、いつも開発の際にどんな音を追求していますか。

佐藤氏:私がターゲットにしたいのは、本当の生の演奏を再現した音です。演奏者の方たちのテクニックだけではなく、“演奏者が表現したいこと”をわれわれのデバイスでも表現できたらいいなと思います。いわゆるオーディオの音と生の音というのはやはり違うと考えていまして、生の音は“すごく力強い”という印象があります。そういう力強さやダイレクトなエネルギー、音の芯を表現したいというコンセプトで、これまで取り組んできました。

 

― メーカーの開発担当者の方々と話をする際に、佐藤さんはAKMのサウンドポリシーをどのようにご説明されていますか。

 


「AK4399」の評価ボード。直流の安定化電源をつなぎ、試聴室のリファレンスシステムでデバイスの音質が評価されている(図は拡大します)

佐藤氏:AKMのサウンドポリシーについてアピールさせていただくこともありますが、やはり出てくる音の好みであるとか、各メーカーのサウンドポリシーというのものがありますので、受け入れていただける場合とそうでない場合は必然的に分かれてきます。私の方では、そのメーカーが出したいと考えている音が「AKMのデバイスを使うことで出しやすいですよ」というかたちでご紹介をしています。デバイス自体の音に“色付けをしない”ことも私たちが開発のうえで大事にしているポイントです。ニュートラルでクセのない音というところで、様々なお客様の好みにも対応できることが、AKMの製品の良さであると考えています。お客様の手元で全く音を変えられない製品だとなかなか採用していただけないと思いますので、その点は開発時にいつも気にかけています。
 
また、他のデバイスメーカーと比べてAKMはハイエンドオーディオ製品での歴史が浅いブランドですので、その分お客様のニーズや新しい技術を製品開発の中に積極的に取り入れることも大事にしています。例えば、先ほどのショートディレイのフィルターについては、おそらく多くのお客様が今まで聴いたことのないような音だと思いますが、一方でショートディレイを新しい切り口にして、お客様のニーズをうかがい、反響のあった事柄を積極的に取り入れながら、素早く製品に反映させていくことができることもAKMの強みだと考えています。お客様とのコミュニケーションを密に取り、ニーズに素早く応えていく環境を整えながら、同時に今まで培ってきた“職人の技”をベースに音をコントロールできる経験を積んで行くことで、AKMとして他のブランドにはないトータルの魅力を打ち出して行きたいと考えています。




― 32bit対応DACの登場により、AKMの“Audio 4 pro”ブランドへの注目はますます高まっていますが、佐藤さんも同じ実感を得られていますか。

 

佐藤氏:そうですね。今のところは32bit対応DACが“Audio 4 Pro”のステータスを高めて、認知の拡大を牽引していると感じています。ブランドに対するお客様の印象もだいぶ変わってきていますし、おかげさまでAKMに対する期待感も高まっているようです。

 

― AKMが“次のチャレンジ”として取り組まれている技術や製品がありましたら教えて下さい。

 


「AK4390」に続くハイコストパフォーマンスモデルとして開発が進められているDAC「AK4480」。3種類のデジタルフィルターと外付用インターフェースを搭載したフルファンクションモデル(図は拡大します)

佐藤氏:今回発表しましたAK4390と特色を違えたコストパフォーマンスモデルのDAC「AK4480」を開発しています。ショートディレイを含めて、既存の対称型のインパルスを持つシャープ・ロールオフと、もう少し柔らかい音のスロー・ロールオフといった3種類のデジタルフィルターを装備したフルファンクションのDAC製品です。また、より広い用途に活用いただけるよう、外付けデジタルフィルターのインターフェースも持たせています。AK4390とはSNのスペックを変えていて、AK4390の120dBに対してAK4480では114dBと、回路構成を省略してコストを抑えています。ふたつのデバイスについても、それぞれ用途に応じて使い分けていただけるようなご提案をしております。

 

先ほどAKMではレイアウト部分での音づくりにも注力していることをお話いたしました。これまでは主にアナログの部分に注力してきましたが、AK4480では新しい試みとしてデジタル部のレイアウトにも手を入れて、今までとは違った音を追求しています。一般的にデジタル回路のレイアウトというものは配線が自動化されているため、レイアウトをした際にループが多くなってしまいます。今回はそこに敢えて設計者の手を加えることによってループを極力なくし、高音質化を図ったデジタル回路のレイアウトを実現しています。

 

― こうした試みは今回の「AK4480」で初めてのことですか。

 

佐藤氏:はい。まずはAK4480からスタートして、今後開発していく上下のモデルに展開して行きたいと考えています。基本的にDAC製品については、アナログ回路に手を加えると音が変わるという見解が一般的だと思いますが、デジタル回路についても電源など工夫をすればだいぶ音が変わり、AKMの音を差別化していくのにも有効であることが分かってきました。現在のサンプルでは中域や高域に関してはAK4390とはまた違った面白い鳴り方をしています。

 

― ここでもAKMならではのサウンドが実現できるということですね。

 

佐藤氏:そうですね。実は他にもう1つ新しいデバイスを開発しています。AK4390は2チャンネルのDACですが、これの“4チャンネル版”のようなデバイスを企画しています。この製品についてはデジタルフィルターを4枚搭載しています。インパルスは既存の対称型の響き感を持たせたものを軸に、生音に近いダイレクト感を持たせたフィルターを搭載する予定です。

― 4チャンネルのDAコンバーターはAKMの“Audio 4 Pro”ブランドからは初めての製品になりますか。

 

佐藤氏:DACでは初めてだと思います。ADCではAK5388という製品があります。

 

― とても楽しみな製品ですね。ぜひ期待したいと思います。本日はありがとうございました。

 

【AKM製品/問い合わせ先】
旭化成エレクトロニクス(株)

TEL/03-3296-3911