オーディオテクニカ「AT-LP7X」速攻レビュー!レコード入門者にもベテランにもオススメの実力派プレーヤー
音質レビュー:「まず感じるのはS/N感の立派さ」
自宅リスニングルームで音を聴いた。まずは完全デフォルト、カートリッジを付属のAT-VM95E BKとし、内蔵のフォノイコで音を聴く。
まず感じるのはS/N感の立派さで、冒頭の無音溝で聴こえる針音が全然耳障りにならず、オーケストラは広大で濃厚な音場の中へしっかりと定位し、弦の艶やかさ、木管の瑞々しさが耳へスーッと入っていく。
高級プレーヤーに比べると僅かにオケの音像は前へ出るが、それで別段再生音の品位や解像度が損なわれているかというと、そういう風でもない。
普及クラスのVMカートリッジ・ボディに接合楕円針を装着したこのカートリッジで、しかも内蔵のフォノイコを使いながらこの再現が得られることは、ある種の驚きでありアナログ入門層への大きな福音でもあろう。
ジャズは一定の節度を保ちつつ、ハーモン・ミュートを突っ込んだトランペットがグッと前へ出て、独特の金属音をややまろやかな質感で描き出すという印象だ。リズムセクションは軽やかに弾み、ベースもドラムスももたつかないのが素晴らしい。
ソロのサックスやギターは実体感豊かに響き渡る。大きなアクセサリー・チューンを施さず、買ってきてすぐの状態でこのクオリティが得られるというのは、驚くべきといってよいのではないか。
ポップスはさすがに少しだけ強烈なドラムスのピークが大人しくなり、歌手のシャウトも「まだ先はあるぞ」という格好になる。
しかし、いろいろ上級のプレーヤーやカートリッジを用いて散々聴いてきた盤だからこういう感想になるわけで、この全体に音が太く音がリスナーへ飛びかかってくるような表現は、むしろこういう激しいロック向けという風にも取ることができる。
MCカートリッジでの音質は?内蔵フォノイコの実力に「恐れ入った」
続いて内蔵フォノイコをMCポジションとし、同社の新製品MCカートリッジAT33xMLBを聴いてみよう。同社のヘッドシェルAT-LH11Hへ取り付け、KSリマスタのOFC単線シェルリードで武装した、わが新レファレンスの個体である。
実測22.4gに及ぶこの構成を、AT-LP7Xのトーンアーム+標準サブウエイトでは、余裕を持って取り付けられるのがありがたい。
クラシックは一気に音数が増え、音場は遥か広大で見晴らしが極めて良くなった。オケの音像は一歩引き、ホールの比較的前の席からS席に替わったような聴き心地となった。この実力派MCカートリッジの持ち味をそこそこ聴かせてくるな、という印象である。
ジャズは僅かに残っていた音場のザワつきが一気に収まり、ハーモン・ミュートを介したトランペットの音に本来の細さと鋭さ、パワフルさが出た。サックスの音像は濁りが消え、ギターはホロウボディのメロウな響きが実に心地良い。
ウッドベースは一歩引いた距離感をそのままに、存在感が大幅に増す。ドラムスはハイスピードかつパワフルにアタックを決めるが、ソロ楽器をまったく邪魔しないのが素晴らしい。もう数段どころではない音質向上に、しばし時間を忘れた。
ポップスはドラムスの切れ味とエレキベースの刻むビート、ギターのピッキングがピシリと決まり、そんな端正なバックにガッチリ支えられながら歌姫が青天井のシャウトを聴かせる。それでもほんの僅かに緊張をほどくような質感を聴かせるのは、AT-LP7Xの固有キャラクターなのであろう。
改めて、プレーヤー内蔵のMCフォノイコがここまでの解像度と表現力、S/N感を聴かせるとは恐れ入った。十分以上に実用的なMM/MCフォノ段といってよいだろう。
AT-LP7Xは「いい聴き心地」
お次は内蔵フォノをパスし、単体フォノイコへ受けてみよう。まずは付属AT-VM95E BKを聴く。
クラシックはさすがに解像度が数段アップ、音場の見晴らしが大幅に向上してオーケストラが演奏するさまがくっきり見えてくるようになったが、その一方で内蔵フォノイコの有するちょっとした"緩さ"が、再生音にどこか潤いのようなものを与えていたのだな、とも感じさせる。
単体フォノイコの方が明らかに正統派のハイファイなのだが、絶対的な器に限界のある廉価カートリッジでも、音楽を美しく表現させていた内蔵フォノイコにも、これは大いに存在価値がある。
しかし、そうなると俄然実験意欲が湧いてくる。1世代前の製品で申し訳ないが、長年鳴らし込んだ上級製品カートリッジのVM740MLを取り付け、同じレコードを聴いてみたらもうその差は歴然だ。
解像度は何倍にも上がり、MCと比肩するほどの音場の広さと見通しの良さ、オケの楽員が1人ずつ見えてくるのではないかという解像度を聴かせてくれた。内蔵フォノイコへ戻して聴き比べると、やはりこちらの方は若干音を緩め、すべては見せない代わりに独特の聴きやすさと潤いを載せる。うむ、おそらくこれは意図的な音作りなのであろう。
カートリッジを元に戻し、試聴を続行する。ジャズはセプテットの音像それぞれに魂が吹き込まれ、パワフルにガンガンくる感じがいかにもAT-VM95Eらしい表現となった。粗削りなところもあるカートリッジだが、そこも含めて美味しいところを実に上手く引き出している、そんな印象である。
ポップスはボーカルもバックも、艶やかな音もガチャガチャした音も、俺が俺がと我先に耳へ吹っ飛んでくる感じが出た。うん、これこそがAT-VM95Eそのものの音である。
最も "ロックな音" の旨味が出たサウンド方向だが、そんな中にほんの僅か緊張を鎮める成分が乗るのは、おそらくAT-LP7X固有のキャラクターなのであろう。うん、いい聴き心地だ。
「若いマニアから相当のベテランまで安心して薦められる実力派」
さぁ、MCの試聴にかかろう。クラシックはオケの音像がグッと引きつつ、噴き出すようなパワー感を伴って朗々と鳴り響くことに痺れる。音場の広さ、クリアさはやはりMCの方が巧みに表現するな、ということもはっきりと分かる。
アクリルのプラッターを持つプレーヤーは、優しい方向の音に躾けられていることが多いように感ずるのだが、本機は確かにその片鱗を感じさせはするものの、しっかりと音の角や底力を表現してくる。見た目以上にタフな音のプレーヤーである。
ジャズは音像がピンポイントに決まり、ハーモン・ミュート特有のギュッと鋭い音の旨味があふれ出してくる。ドラムスは実直な刻みの一つひとつに神が宿る。まるで少し離れたところで所属楽団の仲間が叩くドラムスを聴いているかのような生々しさだ。
ポップスはパワーと切れ味、シャウトの鋭さなどが大幅に増した。ハイファイの魅力を存分に味わわせてくれる。おぉ、これこそ俺が聴きたかったリンダ・ロンシュタットだと欣喜雀躍する一方で、AT-VM95Eの雑味や野蛮さまで含めて成立させた "下町グルメ" 的な音質も、あれはあれで魅力的だったなと思わせるところもあり、本当にオーディオというのは面白いなと再認識した。
少しじっくりと時間をかけて音を聴き終え、総合的な感想を申し上げるなら、本機は内蔵フォノイコと付属カートリッジを使い、何もアクセサリーを追加しない状態で聴いても、存分にその実力を発揮してくれるタイプのプレーヤーであろう。
アナログへ入門しようという若者が、フォノイコ内蔵でないヘッドホンアンプなどへつなぎながら、何とMCカートリッジを買い増してもそのまま、しかも結構なクオリティで使えるのだ。
こんなに汎用性が高く、アナログ入門の間口を広げてくれるプレーヤーにして、付属トーンアームは高さまで含めて融通無碍の調整しろを持つし、感度も十分以上に高い。かなり高級なカートリッジでも、その実力を発揮させることができるだろう。
さらに、本アームには別売で重量級のサブウエイトが存在する。シェルおよびリード線込みで28.5gまで使えるようになるもので、こうなると例えば自重10.1gのAT33xシリーズに、重量級ヘッドシェルのAT-LH15HやAT-LH18Hも使えるようになる、ということである。他社カートリッジも、選択範囲は大いに広がることであろう。
10万円台前半というプレーヤー大激戦区に、またしても有力な選択肢が1台増えた。個人的に、このクラスのプレーヤーを買っておけばアンプやスピーカーを遥かな上級品に交替させても、またプレーヤーより遥かに高額のカートリッジを購入しても、その持ち味をしっかりと発揮させてくれることを確認している。
例えば「サウンドバーガー(AT-SB727)」でアナログ入門するというのも実に有力かつ魅力的な選択肢なのだが、少し頑張ってこのクラスを購入しておくと、将来に対する展望は遥かに広く大きくなる。若いマニアから相当のベテランまで、安心して薦められる実力派プレーヤーと言い切ってしまってもよいだろう。
