HOME > レビュー > OVER10万円クラス!ダイナミック型ハイエンドイヤホン2019冬、注目の3モデルを徹底レビュー

[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域【第239回】

OVER10万円クラス!ダイナミック型ハイエンドイヤホン2019冬、注目の3モデルを徹底レビュー

2019/11/29 高橋 敦
  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE

AK T9iEは音色のスムースさ、そして音場の響きや気配の濃さが素晴らしい。音のエッジを立てたシャープなサウンドを持ち味としていたAK T8iE MKIIからすると、個人的には「一変」したとさえ感じる。

しかし前述のように、ドライバーは同じものだという。このサウンドの違いはドライバー以降のチューニングの違いだけで生み出されているわけだ。つまりドライバー自体には、当初からこのサウンド「も」内包されていたと言える。改めてテスラドライバーの力を思い知らされた感がある。

そのスムースなサウンドは、女性ボーカルの表現において素晴らしい力を発揮することが多い。例えば早見沙織さん「メトロナイト」を聴くと、しっとりとした空気感と共に、早見さんの歌の色気が強く引き出される印象だ。刺さりもほとんど感じられず、しっかりとほぐれてソフトタッチ。それでいて不明瞭にぼやけることはない、絶妙の感触である。

音楽全体としても、豊かな響きや湿度感が持ち味となる。Robert Glasper Experiment「Human」は、A8000で聴くとエレクトリックに構築された空間表現が際立つが、こちらで聴くとメロウでソウルフルな空気感が際立つといった具合だ。

なお、AK T8iE MKIIではサードパーティ製イヤーチップを使っても良好な音を得られる場合が多かったが、AK T9iEでは純正イヤーチップから他に交換すると、高域が柔らかくなりすぎる事が多いように思えた。イヤーチップとリケーブルを組み合わせて調整するなど、使いこなしのポイントになりそうだ。

左の純正イヤーチップは右の一般的な形状ものと比べてステム出口からイヤーチップ出口までが極端に短い

EAH-TZ700は、スペックとして超ワイドレンジなだけではなく、チューニングにおいても、そのワイドレンジさを不自然にならない範疇で巧みに際立たせてある印象だ。

ベースやバスドラムといった低音楽器は、太さやふくよかさといったところがうまく肉付けされており、例えばバンドサウンドのベースラインはブリブリとした音色でドライブ感を強めてくれる。

高域側のシンバル、ギターのエッジ感は適度にシャープ。しかし広域については、楽器のシャープさよりも、非常にすっきりとした空気感が感じられ、EAH-TZ700の大きな強みであるように思えた。それのおかげで、中低域の楽器が存在を少し強めに主張しても、空間が狭苦しく感じられないのだ。

中低域の豊かさは、男性ボーカルとの相性の良さにもつながっている。星野源さん、SANABAGUN.、Robert Glasper Experimentといったあたりで、胸から腹での声の響き、そこで生まれるそれぞれの声の魅力をよりはっきりと感じられた。

またその帯域の厚みのおかげか、男性ボーカルは特に、やや大柄に描き出されて前に出る印象だ。それでいて低音楽器も適度にプッシュされ、すっきりとした見晴らしのおかげで他の楽器もクリアに届いてくるので、音楽全体のバランスも崩れない。ボーカル中心のポップな描写に寄せつつ、音楽全体を俯瞰するようなリスニングにも対応した幅広さがある。



今回は10万円を超える “超ハイエンド” なダイナミック型イヤホンの2019秋冬新製品から、僕の琴線に特に触れた3モデルを紹介させていただいた。今季は本当に豊作で、ここで紹介した製品の他にも、同じく超ハイエンドクラスならDITA「DREAM XLS」、もうちょいお手頃な普通の(?)ハイエンドモデルならAcoustune「HS1650 CU」など、現在のダイナミック型ハイエンドイヤホンは選択肢が豊富だ! ぜひとも改めて注目してみてほしい。

高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域 バックナンバーはこちら

前へ 1 2 3 4 5 6

この記事をシェアする

  • Twitter
  • FaceBook
  • LINE