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[連載]高橋敦のオーディオ絶対領域

【第220回】ダイナミック型イヤホンの限界を引き上げるサウンド! FAudio「Major」が凄い

公開日 2018/12/19 06:15 高橋 敦
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また複数の弦を一度に弾いてコードを鳴らしているところでは、コードがひと塊りになりすぎず、弦の一本一本の音を感じられる「ぱらけ具合」なのも好ましい。このぱらけて軽やかな感じでないとシティポップス感が弱まり、ちょっとガッツのあるロック感が強まってしまう。このあたりの質感や空気感の再現性は、前述のプレゼンス帯域の豊かさからも来ているのではないかと思う。

ベースもまずは前述のように、太さの帯域より深さの帯域に重心を置いたバランスがポイント。「ベースの音色の中での低域を充実させ、中域は少し抜いてある」といった感じだ。中域を少し抜くことでわかりやすい太さや厚みはやや控えられるが、低域の充実で深みが表現され、トータルでのベースの存在感は十分以上。

そしてベースにとっての中域はボーカル等にとっての低域に近い部分。ベースの側でそこを控えることで、ボーカルの厚みといった要素がベースと被らずに届きやすく映えやすくなる。

そしてそのボーカル。この曲は早見沙織さんの曲の中ではアグレッシブなサウンドであり、歌詞の内容から歌い回しも切迫感や焦燥感のようなニュアンス強めだ。なのだが、早見さんのそもそもの声質が攻撃的な鋭さを持つものではない。あくまでも早見沙織さんの優しくしなやかな声で切迫感や焦燥感を表現していることがこの曲の肝となる。

こちらのイヤホンはそこも秀逸に再現!ハイハットシンバルを薄刃に心地よいほど鋭さで描写しつつ、同時に早見さんの歌声にはシュッと抜けるシャープさ、そしてそれだけではなく、しっとりとした湿度感も纏わせてくれる。高域から超高域の再生能力が、それぞれの音色の個性を描き分けるレベルに達している証しだ。

この部分が足りないと「シンバルはシャープでいい感じだけど、歌声もシャープになってしまう」とか、「歌声はしっとりしてていいけど、シンバルがシャープに抜けない」とかになってしまう。なおこの超高域の感触には「内壁を磨き上げた無酸素銅サウンドチューブ」の威力も大きそうだと感じた。

2pinのリケーブル端子。埋め込み型ではないタイプ

耳周りは針金ワイヤーではなくあらかじめくるりと曲げてあるタイプ。個人的には好み

他には例えば、相対性理論「ウルトラソーダ」では、その冒頭にギターやシンセ、シンバル等のサウンドで表現される「シュワシュワ」感の雰囲気が抜群に良い。楽器の音色自体の素晴らしさに加えて、ディレイやコーラスなど空間系エフェクトの成分がクリアに映えて、その重なりや広がりが実に効果的に再現される。

Robert Glasper Experiment「Human」では、バスドラムの踏み込みのしっかり感、そこからの深い響きが印象的。スネアドラムの抜けと響きも良い。クラブ、エレクトリック系サウンドとの相性も全く問題ない。ジミ・ヘンドリックス「Little Wing」では、このイヤホンのギターサウンドの素晴らしさを再確認。古い録音ならではの削ぎ落とされた生々しさも堪能できる。

最後に2種類のイヤーチップの音の違いについても紹介しよう。ここまでは「FA Vocal」での印象をお伝えしてきたが、ここからは「FA Instrument」に変えたらどうなったか?をレビューする。

復習しておくと、メーカーの狙いとしては、「FA Vocal:ボーカルライン重視」「FA Instrument:楽器の音にフォーカスしてタイトな低域」としている。

FA Instrumentの感想をまずざっくり言うと、ベースの重心は少し上に上がって太さも主張するようになり、逆に超高域は主張を少し弱める。開口の大きさなどからしても、FA Vocalは出てきた音をできるだけそのまま届けるタイプ、FA Instrumentはイヤーチップ部分でも音を整えてまとめるタイプだろうか。帯域バランスをちょい大げさにデフォルメしてグラフ表現するとこんな感じ。


個人的な好みはFA Vocalだが、一般論的なバランスに優れるのはFA Instrumentだろうか。FA Instrumentでは、グラフの低域Lowが伸びることで、その下の超低域Subは相対的には目立ちにくくなる。そこを「タイトな低域」と表現しているのかもしれない。

FA Vocalの「ボーカルライン重視」は、前述のようにベースの太さの帯域であるLowを整理することで、その上のボーカル帯域Midとの被りを減らしている、と解釈できそうだ。

何れにせよ音の変化は明らかだ。イヤーチップ交換での音の変化を、付属品だけで体感でき活用できるというのは、これまで試したことのないユーザーへの提案としても期待できる。



FAudio「Major」、そのサウンドが自分の好みにドンズバすぎて、ひたすら賞賛する内容になってしまっている自覚はある。僕という一個人の好みにここまでハマりすぎるということは、別の一個人には逆に全くハマらない可能性も万が一あるかもしれない。極端に個性的なサウンドというわけではないので大ハズレと感じることはないとは思うが、「ちょっと自分の好みと違う」程度は普通にあるはずだ。

だがそれでいい。誰が聴いても頷くしかない納得の総合力を備えた上で、さらにその中の何割かだけに刺さる個性も備えている。それがハイエンドオーディオの魅力。このモデルはまさにハイエンドオーディオだ。

高橋敦 TAKAHASHI,Atsushi
趣味も仕事も文章作成。仕事としての文章作成はオーディオ関連が主。他の趣味は読書、音楽鑑賞、アニメ鑑賞、映画鑑賞、エレクトリック・ギターの演奏と整備、猫の溺愛など。趣味を仕事に生かし仕事を趣味に生かして日々活動中。


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