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まずはコンテンツの整備を

<IFA>「書き割りの8K」と「本物の8K」の違い、各社テレビのデモで実感

公開日 2018/09/06 05:50 山之内 正
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2018年のIFAで急速に浸透したキーワードの一つが「8K」である。昨年まではシャープの孤軍奮闘に近かったが、今年はサムスンが欧州に4機種の新製品を導入して本格参入を表明、LGは有機ELで試作機を展示した。

シャープはラインナップ拡大に踏み切り、JVCケンウッドは家庭用として世界初の8Kプロジェクターを発表。他にも追随する動きがいくつかあり、次世代ディスプレイの先陣争いが激しくなってきた。

その一方でソニーやパナソニックなど、8Kの市場投入を急がないことを明言しているメーカーも多く、8Kへの取り組みにおけるメーカー間の温度差が意外に大きいことも明らかになった。HDから4Kへの移行時もけっして各社の足並みが揃っていたわけではないが、8Kはどうだろうか。

各社の8K映像はクオリティもコンテンツの種類も様々

8Kの新製品や試作機を公開したメーカーのブースに足を運んでみると、映し出されている映像はクオリティもコンテンツの種類も様々で、その点でもメーカー間の差が大きいことに気付く。サムスンのQLED 8Kテレビ「Q900Rシリーズ」は、4,000nitの高輝度をアピールするだけに明るさが際立っているが、近景から遠景まで俯瞰した情報量の多い画面でもその描写には奥行きが感じられず、手前の被写体と背景の距離が伝わってこない。近付けば細部を細かく再現できていることはわかるが、それでも書き割りのような平面的なきめの細かさが浮かび上がってくるに過ぎないのだ。

サムスンのQLED 8Kテレビ

LGの88型の有機ELの試作機は、深みのあるコントラスト感に引き込まれるが、静止画を用いたデモンストレーションが中心で、やはり遠近感の描写はいまひとつ伝わりにくい。新聞や紙幣などのクローズアップ映像などは4K導入時にもよく見かけたが、いくら細かい文字が読めたとしても、HDRの自然な階調表現を競うならともかく、解像度の優位性だけでは映像のリアリティに限界を感じてしまう。サムスンもそうだが、パネルやディスプレイとしての性能以前に、コンテンツの選択に課題があるように思える。

88型の8K 有機ELテレビ試作機

サムスンとLGの8K映像に比べると、シャープが第2世代として投入した3機種の映像は絶対的なクオリティとコンテンツの選び方に一日の長が感じられ、8Kを牽引するメーカーならではの優位は明らかだ。おなじみのねぶた祭りの映像では、細部のコントラストの高さに加え、手前の被写体から背景に至る遠近の描写が自然で、そこに居合わせたような臨場感が伝わってくる。

シャープの8Kテレビは第2世代。絶対的なクオリティの高さを感じる

シャープブースでは、撮影した映像をリアルタイムで8Kテレビに映し出すデモも行っていた

風景を中心とした自然映像では、背景の空と雲の立体感からHDRならではのダイナミックレンジの余裕が伝わり、紅葉をとらえた映像では微妙な色調の違いをていねいに描き分けるといった具合。8Kの精細感をアピールしつつ、階調とコントラストの描写に破綻がなく、映像自体に説得力があるのだ。サグラダ・ファミリアのファサードと思われる映像は光の陰影で彫刻の立体感を精妙に表現しつつ、細部の精緻な表現に4Kとの違いを読み取ることができる。

液晶テレビよりも有機ELよりもナチュラルなJVC「DLA-NX9」

映像としてのインパクトの強さでは、JVCケンウッドのブースで見た「DLA-NX9」の8K映像も見逃すことができない。8Kのネイティブ入力には非対応で、8K e-shiftによる投写という制約があるため、その映像だけで8Kプロジェクターとしての判断を下すことはできないが、たとえアップコンバートした映像でも4Kプロジェクターの映像とは明確な違いがあり、さきほどから繰り返し触れている「遠近感」の描写では、液晶テレビや有機ELよりもさらにナチュラルな表現ができていると感じた。

非常にナチュラルな表現ができるJVC「DLA-NX9」

さらに、コンテンツ自体の完成度とも関係するが、空気の冷たさと言った温度感や空の透明感など、その場の空気感が伝わってくるという点で、4Kプロジェクターを超える映像表現のポテンシャルを実感することができた。2.200ルーメンという明るさが生むコントラストの余裕も明らかで、プロジェクターで楽しむHDR映像として高い次元に到達している。なお、レンズの仕様はDLA-Z1と共通とのことで、8K映像の投写でも光学性能には余裕が感じられた。

あまりにもバリエーションが少ない8Kデモ映像

各社の8K映像を見ると、解像度の数値を中心に画質を競うことの限界が浮かび上がってくる。8Kでなければ見られない映像の中身を明確に追い込み、コンテンツ自体の表現力を高めることがまずは肝心だろう。現時点ではコンテンツの世界観として8Kでなければできない表現に到達しているのはごく僅かに過ぎない。静止画だったり、奥行きのない風景だけでは説得力が不十分だし、最重要コンテンツである映画、スポーツ、音楽ライブなどのデモンストレーションがあまりに少ないことも気になった。



IFAの来場者の大半は新しいものにはとりあえず興味を示し、最新技術や新製品の真価を熱心に見極めようとする。しかし、そこで「次は8Kだ」と慌てて動くことはほとんどない。4Kもそうだが、8Kが欧州で市民権を得るまでにはまだ相当な時間がかかるのではないだろうか。

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