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角田郁雄のオーディオSUPREME

【第7回】ラックスマンの真空管フォノイコ「EQ-500」でレコードの情報量をとことん引き出す

公開日 2015/07/03 13:11 角田郁雄
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さらに私の気を惹いたのは、海外のハイエンドアンプやDACなどでも使用され、音質で高い評価を受けているドイツのムンドルフ社製のカップリングコンデンサーが使われていることだ(左右で16個使用されている)。このコンデンサーを使ったモデルにおいては常々、音の艶、透明で豊潤な倍音、深みのある音質に貢献しているように感じている。

写真のようにフォノイコライザー回路をシールドケースで封入することで、電磁波ノイズをシャットアウトする

写真のようにフォノイコライザー回路をシールドケースで封入することで、電磁波ノイズをシャットアウトする

その他にも慎重に選択したと思われる高音質パーツが随所に使われている。これらフォノイコライザー回路は、電磁波ノイズの影響を受けないようにシールドされている。この回路を支える電源部も充実し、スイッチングノイズのない「EZ81」真空管とシールドされた大型トランスが使用されている。実に、創業90周年を記念するラックスマンらしい、贅沢な回路と仕様である。私は試聴を重ねると共にEQ-500のデザイン・音質・回路・機能にすっかり魅了され、購入を決意した。

聴き慣れたレコードから、音楽において大切な繊細さ、静けさ、深みを引き出す

自宅に招いたEQ-500を接続するレコードプレーヤーは、ドイツのトランスローター社「Rondino FMD(ロンディーノ)」で、マイソニックのカートリッジ「Signature Gold」を取り付けたSME「series V」トーンアームを搭載している。

TRANSROTORの「RONDINO」を使用。プラッターと駆動ユニットは完全分離されており(右写真参照)、それぞれのマグネットが引きつける力で駆動を行う。ベルトから開放されることで音の透明度と静寂感が高まり、解像度の高いワイドレンジ再生が可能となる

最初はいつも、楽器数が比較的少ない穏やかなメロディーのLPを再生する。感激したのはダイアナ・クラールの最新アルバム「Wallflower」だ。なかでも「Sorry seems to be the hardest ward.」を聴くと、ストリングスの響きが、音階によってシルクのようにもビロードのようにも広がり、ピアノは真珠のように柔らかな響きを放つ。その中央に、しっとりと低い声を際立てたダイアナ・クラールが定位する。微妙に歌詞を紡いでいくアーティキュレーションの表情にも、デリカシーを感じる。スクラッチ音がなければスタジオのテープレコーダーの音に匹敵するほどの豊かな倍音に惚れたEQ-500は、汚れなき透明な音質でマスタリングの良さを引き出す。

カートリッジはマイソニック「Signature gold」を用いた。本機は極めて低い内部インピーダンス(1.4Ω)と高出力によって、アナログレコードから色づけのないリアルな演奏を描写する

きめ細かで音数の多い倍音を発するので、ヴァイオリニストのチョン・キョンファによるDECCA往年の『サンサーンス:ヴァイオリン協奏曲第3番』や、チェリストのジャクリーヌ・デュ・プレによるEMI往年の『エルガー:チェロ協奏曲』などを聴く。すると柔らかで木質感たっぷり弦楽パートが再現され、スピーカーの中央にソロ奏者の演奏が、録音した時代にワープしたかのようにリアルに再現される。

チェロも実に響き豊かで重厚だ。ジャズを愛好する方にもEQ-500をぜひ聴いて欲しい。マイルス・デイビスの『At Plugged Nickel ,Chicago』の「So What」では、シンバルのアタックと倍音が、ずば抜けて鮮明。マイルスのトランペットとショーターのテナー・サックスからは、響きが噴出するような感覚を憶える。倍音が、ストレートに空間に放出してくる感じがするのだ。ベースの弦もびんびんと震え、タイトで重厚だ。目の覚めるようなワイドレンジでスリリングな演奏には毎度魅了される。

スピーカーシステムにはVIVID Audio「GIYA G3」およびMAGICO「S1」を用いた

EQ-500は、聴き慣れたレコードから、音楽において大切な繊細さ、静けさ、深みを引き出す。音楽のスケールの大きさに関わらず、レコードに内包する倍音を、鮮度高く、鮮やかに再現できることは大きなアドヴァンテージだ。そのうえ、低域から高域までをワイドレンジに再生できる。ちなみに私のカートリッジでは、入力インピーダンスのツマミを高くすると、高域に伸びを感じ、キャパシタースイッチを300pF方向に段階的に高めると、中低域、柔らかみを覚えた。この操作がまた楽しい。自分の好みの音質が探れるところも魅力だ。レコードを愛聴する読者の皆さんには、ぜひ、早々にEQ-500の音に触れて欲しい。

トーンアームを調整する角田氏。精密な調整機構を備えるSMEのトーンアーム「Series V」は、レコードに反りがあっても常に針圧をかけられるダイナミックバランス方式により、音溝からのトレース能力は群を抜く

角田氏はレコードの手入れにKLAUDiOの超音波式レコードクリーナー「CLN-LP200」を愛用している。本機で洗浄を行うことで、レコードの情報量をさらに引き出すことが可能になるという

最後に一つアドバイスを。EQー500には今流行のバランス入力はない。しかし、トーンアームケーブルの左右2本のケーブルに、2芯シールド線が使われていれば(アーム側のDINコネクターのトーンアーム・アースにシールドが接続され、RACコネクターのコールドとシールドがショートされていないことが大切)、XLRキャノンコネクターではなくてRCAコネクターであっても、EQ-500は入力トランス受けなので、バランス伝送となる。




【筆者プロフィール】
角田郁雄
北海道札幌市生まれ。父の影響を受け、オーディオに興味を持つ。セールスエンジニア的な仕事を経験したので、物の原理や技術を追求してしまうタイプ。オーディオブランドの音、背景にある技術、デザインの魅力を若い世代にも伝えたいと執筆活動を始める。



〜編集部より〜
アナログレコードに刻みこまれた情報を可能な限り引き出したらどうなるのか、今回の取材に立ち会うことでその一端を味わえた。それくらいに掛け値無しに素晴らしかった、EQ-500を通したレコードの音。音楽再生の「リアル」とは何だろうと改めて考えさせられる。アナログにはハイレゾでも再現できないものがあると言ったら、両方を同等に楽しんでいる角田氏に叱られそうだが、今回改めてそれを体感した気がする。我が家のSL-1200でそれを感じることはできるだろうか。ここ数日はApple Musicのストリーミングに没頭していたが、この週末は久々にレコード再生を楽しんでみたいとも思った。(編集部:小澤)

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