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今年のIFAもオーディオが盛り上がった

山之内正のオーディオ・アナリシス【第3回】IFAで見たオーディオ最前線。キーワードは「ハイレゾ」「Spotify」

2014/09/18 山之内 正
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山之内正氏が最先端のピュアオーディオを分析していく「山之内正のオーディオ・アナリシス」。第3回目は、今月ドイツで開催された世界最大のエレクトロニクスショー「IFA2014」を訪れた山之内氏が確認した、ピュアオーディオの最前線をレポートする。

■日本メーカーを中心に再びオーディオの展示が盛り上がりを見せる

今月は先週閉幕したIFAにおけるオーディオ系の展示に焦点を合わせ、そこからどんな潮流が読み取れるか、考えてみよう。

ドイツは伝統的に見本市が盛んな国で、各分野に重要な展示会を揃えている。映像機器などデジタル家電ではベルリンで開催されるIFAがその中心に位置し、近年ますますその重要性が増しているのは御存知の通り。今年も4Kディスプレイやタブレット端末など、映像機器と多様なパーソナル端末を中心に注目すべき展示が相次いだ。

独ベルリンで開催されたIFA2014の会場の様子

大きな話題を集める潮流や商品は時代ごとの移り変わりが激しい。IFAはラジオ放送の見本市として誕生した経緯があり、長期間にわたって音響製品の展示が重要な位置を占めていた。しかし、ハイエンドオーディオを中心に多くのメーカーがより専門性の高いイベントを志向するようになった。その流れが発展し、現在ミュンヘンで毎年開催されている「HIGHEND」など、高級オーディオに絞り込んだ展示会が存在感を強めていく。

現在のIFAでは、映像機器などデジタル家電がその中心を占めている(写真はIFA2014のパナソニックブース)

一方で、オーディオメーカーの出展はミュンヘンで開催されるHIGHENDに移る傾向がある(写真はHIGHENDのKEFブース)

IFAを以前から知っている来場者、出展者のなかにはそうした時代の変化を残念に感じている人たちがいる。私自身も80年代後半からIFAの取材を続けてきたなかで、展示内容の移り変わりの激しさに驚いている一人だ。特に一時のオーディオの退潮は明白で、ドイツや欧州のオーディオメーカーは大半がミュンヘンのショウに移り、オーディオ分野におけるIFAの役割は以前に比べて小さくなってしまったように感じたものだ。

しかし、その一方で最近は日本メーカーを中心に再びオーディオ関連の展示が力を増した感がある。しばらく前から活況を呈しているポータブルオーディオやヘッドフォンなどパーソナルオーディオとともに、オーディオの存在感が高まり始めているのだ。

■ハイレゾの隆盛が契機。テクニクス復活など話題も多数

今年もヤマハ、パイオニア、ティアック、オンキョーなど日本の専門メーカーのブースがオーディオ会場入口近くの一等地を占め、ゼンハイザーなどドイツメーカーと並んで大きな注目を集めていたし、昨年のIFAではソニーがハイレゾオーディオの新製品群を一気に投入して強い存在感を示した。

そして今年はパナソニックがテクニクスブランドの復活を掲げ、高級オーディオへの再参入を発表した。会場での注目度の高さは同社の予想を上回るものだったという(山之内氏によるテクニクス・レポート)。

しかし、今回のIFAはテクニクスの復活など、昨年に続きオーディオの話題も豊富だった

オーディオの展示が再び活況を取り戻しつつある要因の一つがハイレゾオーディオであることは間違いない。昨年のソニーの提案はまさにハイレゾオーディオ宣言と呼ぶべき内容だったし、テクニクス復活の背景にも、ハイレゾを中心にしたオーディオの新潮流が動き出し、その好機を活かしたいという動機がうかがえる。実際、ソニーのハイレゾオーディオ機器や、ネットワーク再生に重点を置いたテクニクスの新製品群が相乗効果を生み、ハイレゾオーディオの流れを加速させる可能性が大きい。

ハイレゾと並行してネットワークオーディオの新潮流が顕在化している。ホームオーディオではソニーやテクニクスに加えてパイオニアやオンキョーもハイレゾ&ネットワーク対応の新製品を複数公開し、この分野での日本メーカーの存在感を示したが、そこで注目したいのはストリーミングサービスの浸透だ。

■ハイレゾ対応に加えて、ストリーミングサービス対応製品が増加

日本仕様の製品にはまだ導入されていない機能だが、多くの製品は昨年頃からすでにSpotify対応を果たしており、それがオーディオ機器の標準になりつつある。ヤマハの「R-N301」やパイオニアの「N-70A」などの新製品はもちろんのこと、従来モデルの大半において欧州向けモデルはSpotify対応が進み、iOSやアンドロイド端末との連携でごく普通に楽しむことができる。ハードウェア的には日本仕様の製品でも対応は難しくないはずなので、サービスが立ち上がれば日本でも同様な機能が利用できるようになるだろう。

パイオニアの「N-70A」

ヤマハの「R-N301」(写真下)

ストリーミングサービスは欧米が先行している例の代表だが、ハイレゾオーディオなど高音質志向の動きは、特にハードウェアにおいては明らかに日本が先行している。音源の製作やリマスタリングでは欧州レーベルが先行しているのだが、それが普通の音楽ファンに届くまで、まだ時間がかかりそうな状況で、いまのところ日本の方が再生環境では一歩先を行っている。

IFAで普及価格帯にもハイレゾ対応ウォークマンを発表したソニーは、ブース内でハイレゾ音源と圧縮音源の比較試聴を行ったり、ポピュラー系コンテンツの充実をアピールするなど、ハイレゾのメリットを積極的に伝える工夫を凝らしていた。特にパーソナルオーディオではハイレゾ音源の恩恵が広く浸透している状況ではないので、そうした地道な努力を重ね、まずは音の良さを認知してもらう必要があるのだ。

ソニーはバランス駆動ヘッドホン&ポータブルアンプで注目を集めた

欧州はデジタルラジオやストリーミングサービスなど、そこそこ音の良いリスニング環境が日本以上に浸透しているだけに、音質の違いを伝えるのはかえって大変なのかもしれない。ハイレゾ音源の配信は欧米と日本がほぼ同じようなペースで広がり始めているので、この先それぞれの音楽市場がどんな展開を見せるのか、大いに楽しみだ。

【筆者プロフィール】
山之内 正
神奈川県横浜市出身。東京都立大学理学部卒。在学時は原子物理学を専攻する。出版社勤務を経て、音楽の勉強のためドイツで1年間過ごす。帰国後より、デジタルAVやホームシアター分野の専門誌を中心に執筆。近著に『ネットオーディオ入門』(講談社ブルーバックス/2013年)がある。大学在学中よりコントラバス演奏を始め、現在もアマチュアオーケストラに所属し、定期演奏会も開催する。また年に数回、オペラ鑑賞のためドイツ、オーストリアへ渡航。趣味の枠を越えてクラシック音楽の知識も深く、その視点はオーディオ機器の評論にも反映されている。

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