約2年かけ開発されたニューモデル

<HIGH END>復活のEPOS、スピーカー「ES-14N」の早期国内導入に期待

公開日 2022/05/21 18:13 山之内 正
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3年ぶりに訪れたミュンヘンのHighEndは活気にあふれている。予約限定で人数を抑えているため、少なくともトレード関係者限定の前半2日間は通路が人で埋まるいつもの光景とは少し違うのだが、再開と再会を祝う気運がそれを上回り、特別な高揚感に包まれているのだ。そして、肝心の展示内容が充実していることも見逃せない。準備期間が延びて音を追い込む余裕が生まれたのか、完成度の高いモデルが多いように思う。

初日のプレス向けイベントで目を引いた発表の一つが、EPOSの復活である。1980年代前半にロビン・マーシャルが創設した英国のブランドで、代表モデルの「ES14」は日本でも一部のファンの間では知られた存在だった。

EPOSのスピーカー「ES-14N」。フィンク氏は、「ロビン・マーシャルの凄さも学びながら、40年前のものと同じものではなく、今の時代だからこそできるスピーカー設計を目指した」と語る

「LS3/5A」など英国の小型スピーカーのメインストリームとは異なり、大きめのウーファー(7インチ:18cm)とシンプルなクロスオーバー回路を採用。ナチュラルで伸びのあるサウンドには定評があった。その後、経営が二転三転したこともあり大ヒットには至らなかったのだが、音楽ファンの記憶から消えてしまうこともなかった。

そのEPOSの権利をドイツのFink Teamが新たに入手した。2020年のことである。同社のカールハインツ・フィンク氏はかつての名スピーカーを現代の技術で再設計することを決断し、約2年かけて「ES-14N」を完成させた。ウーファーのサイズは7インチと変わらないが、ユニット、クロスオーバー、キャビネットをFink Taemのノウハウと高度なシミュレーション技術を駆使して新たに設計し、換骨奪胎した事実上のニューモデルである。

FINK teamを率いるカール・ハインツ・フィンク氏。新たにEPOSブランドを買収し、EPOSらしさを残しながらも最新のスピーカー設計に力を入れる

ダンピング材を組み合わせたMDF製のキャビネットはバッフルとトップパネルをスラントさせて定在波を防ぎ、大きめの面取りを施して回折と反射の低減を狙う。共鳴と共振を排除したバスレフポート、空芯コイルを用いたシンプルなクロスオーバー回路など、Fink Teamのノウハウを積極的に採り入れつつ、オリジナルのシンプルな設計思想をできるだけ生かしていることに注目すべきだろう。

「ES-14N」の背面端子。あえてバナナ端子のみにこだわったことも特徴

ドライバーユニットも新設計で、マイカを混入した射出成形コーンを採用する18cmウーファーと、音質上の観点から磁性流体の使用を避けた28mm口径のアルミセラミックドームトゥイーターを組み合わせている。

発表イベントではヴァルテレの「SG-1」、ソウルノートのフォノイコライザーとプリアンプなどを組み合わせてレコードを中心に再生した。ヴァルテレのトラジ・モグハダム氏が新しいリファレンス・トーンアーム「Gen III」を紹介し、ゲストとして参加したソウルノートの加藤秀樹氏が同社の設計哲学を紹介するなど、リアルなイベントならではの充実したセッションとなった。

フィンク氏は常識にとらわれないソウルノートの設計思想とシンプルなアプローチを好むFink Teamの設計姿勢に共通点があることを示唆し、トップパネルをあえて固定しないソウルノートの手法を「これはチューニング手法の一つとして理解できる」とコメントしていた。

左からフィンク氏、VERTEREの設計に携わるトラジ・モグハダム氏、日本のSOULNOTEのチーフエンジニア 加藤秀樹氏。お互いの音作りに対する深いリスペクトにより、今回のブースが実現した

大口径ウーファーならでの重心の低さに反応の良さが加わり、ES-14Nのサウンドは小型スピーカーの制約を感じさせない。特にベースの深く力強い音が印象的だが、重く沈み込むのではなく、不自然な力みとも無縁だ。日本への導入時期や価格は未定だが、早期の導入を強く期待したいスピーカーである。

SOULNOTEの「A-2」とVERTEREの「SG-1」、DS audioの光カートリッジを組み合わせている

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