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第17回「音の匠」決定 − NHK緊急地震速報チャイムを開発した伊福部 達氏

編集部:小澤 麻実
2012年12月06日
(社)日本オーディオ協会は、トーマス・エジソンがフォノグラフを発明した12月6日を「音の日」と定め、音を通じて文化や生活に貢献した人々を「音の匠」として顕彰する活動を行っている。本日、都内で行われた「音の日」行事において、第17回「音の匠」顕彰式が開催された。

今年「音の匠」に選ばれたのは、NHKの緊急地震速報チャイム音を開発した伊福部 達(いふくべ・とおる)氏。また、歴史的な蓄音機を多数収集・展示している金沢蓄音器館 館長の八日市屋 典之(ようかいちや・のりゆき)氏も「音の匠 特別功労賞」として顕彰された。

伊福部 達氏(写真右)と八日市屋 典之氏(写真左)

■緊急地震速報のチャイムが生まれるまで

昨年3月におきた東日本大震災。大きな余震が続く日々に何度もテレビから流れた「チャララン、チャララン」というチャイム音は、多くの方の記憶に残っているのではないだろうか。

このチャイム音を開発した第17回「音の匠」伊福部 達氏は、東京大学 高齢社会総合研究機構の特任研究員。視覚や聴覚に障害がある方向けの支援ツール開発を行う福祉工学の分野でさまざまな研究を展開している。また、北海道出身ということもありアイヌの音楽や踊りにも親しみ、研究を行っている。

視覚や聴覚に障害がある方向けの支援ツール開発を行う福祉工学の分野でさまざまな研究を展開している伊福部氏

アイヌ音楽の研究も、叔父・昭氏とともに行ったという

2007年、アイヌのドキュメンタリー制作で関わりのあったNHKのディレクターから「緊急地震速報のチャイムを作ってくれないか」と依頼される。作曲家ではないし人命に関わることだから、と一度は断った伊福部氏だったが、最終的に承諾し「危険を知らせつつ不安感を与えず、難聴者にも聞こえやすいといった音楽はないか?」という探求をおこなっていった。

緊急地震速報チャイム開発までの経緯


■なぜ緊急地震速報のチャイムはあの音になったのか

危険や恐怖心を呼び起こす「キャー」という叫び声を解析してみると、始まって0.2秒ほどで一気に周波数が上がるのが特徴なのだという。そこで、音が急速に上昇するモチーフを探していたところ、同氏の叔父で作曲家である伊福部 昭氏の交響曲「シンフォニア・タプカーラ」の第3楽章冒頭を使うことを思いついたのだという(ちなみに同じく伊福部 昭氏の作品である『ゴジラ』を使うことも考えたが、知名度がありすぎるのと、恐怖感を煽ってしまうという理由でやめたという)。

危険や恐怖を知らせる音(叫び声、動物の警戒音)などは、一気に周波数が上がる音型が特徴だという

叔父・昭氏の作品「シンフォニア・タプカーラ」をモチーフにチャイムを構築していった

「タプカーラ」とは、アイヌ語で「立って踊る」という意味。「シンフォニア・タプカーラ」は、熊祭りで踊られるダンスなど、アイヌの風習をモチーフとした作品だ。3楽章冒頭はオーケストラ全体の「ドン」という和音のあとに、弦楽器が弾くトリル的な音型が繰り返される構造。

3楽章冒頭の構造を分解して制作していく

まず、冒頭の和音をハ長調に移調。「ド・ミ・ソ・シ♭・レ♯」の和音は、レ♯が完全にハモりきらず緊張感を与えるテンション・ノートになっている。さらに、この和音をアルペジオ化することで、急速に音階を上昇させ、注意を喚起するかたちとした。また音色についても、単純な機械音だと家庭内のアラーム音などとかぶってしまうため、様々な音を試してみたという。試作されたパターンは30以上にのぼる。

冒頭の和音をアルペジオ化したもの(上昇/下降)、トリルの有無、ピアノ音/電子音など音色の違い…など、30以上のパターンを作成

できあがったパターンは7つほどに絞り込まれ、聞き取り評価実験が行われた。これは難聴者を含む大人/子供に各パターンを聴いてもらい、聞こえやすさや心理的影響を調べるもの。緊急性が高く感じられるが不安感は少ないという結果が出た候補について、繁華街やデパート内といった様々な騒音下、そして警報スピーカー放送時の聞こえやすさなどといった項目チェックをおこなった上で最終決定されたという。

聞き取り評価実験を行い、聞こえやすさや心理的影響を調べるなどして最終決定された

「緊急地震速報のチャイム音が完成したあとは普通に研究生活を送っていたのだが、2011年の東日本大震災で一気に注目を浴びてしまった。真似をするオウムや、チャイムを管弦楽曲に編曲する人なども現れた」と語る伊福部氏。「緊急地震速報のチャイムには、人の心や体を探求してきた福祉工学の知恵が詰まっている」と締めくくった。

チャイム音完成後は「普通の研究生活に戻っていた」とのこと。ウェアラブル人工咽頭や腹話術を真似た発声楽器など、精力的に開発を行っている


■貴重な蓄音器を聴ける“タイムマシンのような場所”「金沢蓄音器館」

つづいて「音の匠 特別功労賞」として顕彰された八日市屋 典之氏も、挨拶をおこなった。

八日市屋 典之氏

八日市屋氏は石川県金沢市にある「金沢蓄音器館」の館長。同館は、市内で長年レコード店を営んできた父・八日市屋 浩志氏が収集した蓄音器とSPレコードのコレクションを基に、2001年にオープンした。現在は蓄音器600台・SPレコード3万枚以上を所有しており、その一部(150台ほど)を実際に聴くことができる。

石川県金沢市にある「金沢蓄音器館」

貴重な蓄音器を多数コレクションし、試聴することができる



八日市屋氏は、金沢蓄音器館が所有する蓄音器の銘機とその魅力について紹介。一台一台の持つ特徴やそれにまつわるエピソードを洒脱な語り口で披露し「若い方にもこんな音色があることを伝えたくて、この仕事を続けています」と語る同氏の言葉に、集まった出席者は興味深そうに聞き入っていた。

一日3回蓄音器の聴き比べも実施している

名曲のSPを、本館所有の蓄音器で再生した音源はCD化もされている


蓄音器に魅せられるのは大人だけではない。来館した小学生の男の子も魅力にひきこまれ、夏休みの自由研究で素晴らしい発表をしたとのこと。その研究成果は「金沢蓄音器館」にも展示されている
さらに、会場には“蓄音器の王様”と呼ばれるビクターの「ビクトローラ クレデンザ」が用意され、実際にSPレコードの音を楽しむこともできた。

“蓄音器の王様”ビクターの「ビクトローラ クレデンザ」が登場し、その音を楽しむことができた

八日市屋氏は「金沢蓄音器館を訪れた老夫婦が、蓄音器で流れる『ホワイト・クリスマス』を聴いて、幼少の頃の父親との思い出が甦った…と涙を流したこともあった。金沢蓄音器館はタイムマシンのようなところ。かつてこの音を聴いたことがある人は、その頃に一気にタイムスリップしてしまうはず。金沢を訪れた際は、ぜひいちど乗りに来てください」語った。


■日本オーディオ協会設立60周年
− これからの課題は“次の60年へいかにつなげていくか”



日本オーディオ協会 校條亮治会長
なお、今年2012年は日本オーディオ協会設立60周年、CD誕生30周年という記念の年に当たる。校條亮治会長は「1952年12月4日にソニー創業者・井深大氏の呼びかけのもと『日本オーディオ協会』はスタートし、同年12月には早速4日間の『全日本オーディオフェア』を開催、ラジオの立体放送実験なども敢行した。昨今、日本国内においてはデジタル化・小型化の波によってオーディオ業界の低迷が語られるが、設立当初のエネルギッシュな活動は現在まで連綿と続く礎となっている。節目の年を迎え、これからの課題は“次の60年へいかにつなげていくか”ということ。とかく技術や機能が語られがちではあるが、日本が世界に誇る『感性価値』を忘れないことが重要だ。今後もオーディオを日本の幹たる産業に復活させるべく努力を続けていく」と語った。

第6回日本オーディオ協会賞の授与式も行われた。今回表彰されたのは以下のとおり。


“CDの父”中島平太郎氏らが表彰された
・協会栄誉賞
「音響機器およびデジタルオーディオ分野の開発と実用化を先導し、オーディオ産業と文化の向上に貢献」
元日本オーディオ協会会長/現ビフレステック(株)取締役会長 中島平太郎氏

・協会大賞
「残響制御技術 Revtrinaの開発と実用化」
日本電信電話(株)
NTTラーニングシステムズ(株)
NTTエレクトロニクス(株)

「デジタルテレビ放送におけるラウドネス運用規定の国内標準化」
一般社団法人電波産業会 スタジオ設備開発部会 スタジオ音声作業班

・協会賞
「国内オーディオ文化の夢を創造」
アキュフェーズ(株)代表取締役社長 齋藤重正氏

「卓越した経営により新たなオーディオ市場の開拓」
(株)オーディオテクニカ 代表取締役社長 松下和雄氏

「国内オーディオ市場の活性化」
ラックスマン(株)代表取締役社長 土井和幸氏

「若年層を含めた新たなオーディオ市場の開拓」
(株)トライオード 代表取締役 山崎順一氏

「リスニングルーム設計研究と施工の実践活動」
石井オーディオ研究所 代表 石井伸一郎氏

「サラウンドサウンドにおける、スピーカー配置の検証と、国内ガイドラインの設定」
(有)沢口音楽工房 代表 沢口真生氏

・感謝状
長年にわたり協会展示会への出展を行い、カーオーディオ市場の認知向上と拡大に努め、特にホームオーディオとの親和性に寄与
 三菱電機(株)三田製作所
 富士通テン(株)
 パイオニア販売(株)

オーディオの原点である自ら作る歓びを「イヤホン工作教室」として提案、具現化し新たなオーディオ若年層の拡大に努める
 S'NEXT(株)


(編集部:小澤 麻実)