オーディオ銘機賞「ベストバリュー大賞」受賞! DALIの技術と美学を凝縮した「KUPID」の実力に迫る
大橋伸太郎「オーディオ銘機賞2026」の発表号である『オーディオ・アクセサリー 199号』。数多くの優れたハイエンド製品が受賞を果たしたなかで、本誌が今回あえてその表紙に選んだのがダリのスピーカーシステム「KUPID」。今年から新設された「ベストバリュー大賞」の初代モデルである。
ピュアオーディオ製品の高額化が進むなかで、より現実的な価格帯の中でも優れた製品を選出したい。
こんな思いを込めて、ピュアオーディオの専門家たちが“本物のスピーカー”として認めた逸品。その魅力を審査委員、大橋伸太郎氏が語る。
ダリの特質の数々を備えた生まれながらの白鳥
「オーディオ銘機賞2026」の審査会で販売店側審査員の口々から上がったのは、ダリが小型ブックシェルフ「KUPID」を発売した意義を讃える声だった。それに応え、評論家側審査員からKUPIDの音質の良さが一頻り話題になった。この声の高まりに応え「ベストバリュー大賞」が新設され、KUPIDが初代モデルに選ばれた。
高額なスピーカーシステムが業界を騒がせた今年、話題をさらったのは、両手で抱えることができるコンパクトなペア57,200円(税込)のスピーカーだったのである。
ダリはKUPIDを「生まれながらの白鳥」と評している。コンパクトなエントリークラスだが、同社の特質の数々を備えた「本物のダリ」という意味である。
音場表現主体の欧州勢の中にあって、ダリは音像表現を重視する。楽音がくっきりと前に出る。活気、躍動感がありノージャンルで音楽を楽しめる。
生国デンマークがヨーロッパでもジャズの盛んな国であることを思い起こさせる。音場に透明感がありオーガニックな空気感がある。そうした美点をKUPIDは生まれながらに備えている。白鳥の所以である。
サイズと価格の制約でKUPIDはKOREテクノロジーの代表、例えばハイブリッドトゥイーターは搭載しない。その代わりKOREで培った知見と技術要素をコンパクトスピーカーというジャンルに特化させた。
トランジェントを重視するKORE技術を継承
具体的に見ていこう。KUPIDは「ネジ一本まで新しい」スピーカーである。
115mmウーファーのペーパー&ウッドファイバーコーンは従来と同じだが、センターキャップのないスフェリカルコーン(お椀型)を搭載する。従来のダリに見られなかったタイプである。不要な高域をウーファー自身が落とすので急峻なフィルターをかけずに済むことが利点。
一方、強度(剛性)の弱さと組立時のセンタリングが出しにくいことが弱点だが、ダリはアルミニウムカプラーを介在させて剛性と量産性にまつわる問題を解決した。
KORE技術のひとつに、トランジェントを重視するため、トゥイーターのボイスコイルにダンパーに代えて使われる磁性流体の使用を止めたことがあるが、KUPIDは量産性を重視して粘性の低い磁性流体を使用した。
しかし、ダンピング効果が緩いと低域まで動いてしまう。その制動を目的に磁気回路にネオジウムを採用し、強い磁気制動をかけた。ダリ人気のブックシェルフ機「OBERON 1」はフェライトに止まる。磁性流体と磁気制動の合わせ技でトゥイーターの再生周波数下方を巧みにコントロールしている。
ネットワークは、コンデンサー2個、コイル3個、抵抗3個のシンプルな構成で、OBERON 1と同等だが、トゥイーター用がOBERONの電解コンデンサーに対し、KUPIDはフィルムコンデンサーを使用する。
エンクロージャーを抱えてみると見かけよりずっしりした手応え(2.96kg)がある。
「家庭のスピーカーはインテリアの一部である」というダリの美学で、コーナーをきれいに丸めている。背面を含めネジが一切見えないが、組立は接着でなくエンクロージャーの内側からネジ止めしている。剛性と美観を両立させるダリのこだわりである。
外装色は5色あり、ウーファーのコーンの染色を変えてエンクロージャーにコーディネートさせている。キャラメル・ホワイト(白)とゴールデン・イエロー(黄)の黄色がかったアイボリーがコーン紙本来の色味である。
個性と彩りを演出できる大胆でポップなカラー
ブラック・アッシュや、ダーク・ウォルナット、キャラメル・ホワイトといった、空間に馴染みやすいカラーだけでなく、ゴールデン・イエロー、チリー・ブルーといった大胆な色を用いたカラー・バリエーションも魅力。空間のアクセントとして個性を演出することも可能だ。
リビングのメインシステムに、デスクトップや寝室のサブシステムにも、個性と彩りを加えられる。
立ち上がりは鋭敏そのもの サイズに似ず音場は広々
試聴は本誌ホワイトルームで行った。
SACDプレーヤーにアキュフェーズ「DP-770」、ストリーマーにBLUESOUND「NODE ICON」、プリメインアンプにアキュフェーズ「C-3900S」を組み合わせた。バランス上やや高価だが、生まれながらの白鳥に敬意を表した。
デンマーク出身の女性ジャズ歌手、シーネ・エイの新作CD『SHIKIORI 想帰庵』は、ピアノの繊細なタッチ、立ち上がり立ち下がりの瞬間を表現できるかが重要。
磁性流体の粘性を軽くし、トランジェントを改善した効果が現れ鋭敏そのもの。サイズに似ず音場が広々とし四囲の壁と天井が取り払われたように大きく深い。北欧の森林か日本の深山幽谷の中にいるように心地よい。
同じシーネ・エイのビッグバンドとの共演作は、多種多彩な楽器の音色を曇りなく表現しわける。コンパクトなプレイバックレファレンスとして使えるバランスと解像力である。ベースの音程が鮮明で滲みがない。さすがにローエンドまでは無理だが、低音に音楽の土台を支える確かさがある。
Qobuzのハイレゾを聴いてみよう。ノラ・ジョーンズ『ヴィジョンズ』(96kHz/24bit)は、音色が豊富。多重で重ねた楽器が存在感を発揮し、エレキギターのディストーションがきれいに出る。
ノラの強い声も曇りなく、バック演奏と分離してきれいに空間に浮かび上がる。重厚な低音よりキレのいい弾む低音を狙った印象。このスピーカーの想定する音楽ソースとテイストがわかる。
ボズ・スキャッグスの新作『デトゥアー』(88.2kHz/24bit)は、典型的なオンマイク録音。ポイントは声の厚み、枯れた地肌の表出だが、声帯の筋肉のひだをなぞっていくような描写力がある。ダリの特徴を備えた、明快で美しい音のスピーカーだ。大編成ソースも鳴らせる器の大きさがある。
白鳥が日本に飛来する時季。これから五色の白鳥が日本中のリビングやリスニングルームに次々に舞い降りることだろう。
製品情報・スペック
スピーカーシステム:DALI「KUPID」
SPEC ●型式:2ウェイ・バスレフ型 ●ドライバーユニット:26mmソフトドーム・トゥイーター、115mmペーパー&ウッドファイバーコーン・ドライバー ●再生周波数特性:63〜25,000Hz±3dB ●感度:83dB@1m for 2.83V ●インピーダンス:4Ω ●最大音圧レベル:103dB ●クロスオーバー周波数:2,100Hz ●外形寸法:150W×245H×198Dmm(グリル含む) ●質量:2.96kg(グリル含む)
提供:ディーアンドエムホールディングス
※本記事は『オーディオ・アクセサリー 199号』からの転載です。