公開日 2025/09/15 21:00

「AirPods Pro 3」は何がどう進化した? 音質・ノイキャン・外部音取り込みなど比較レビュー

AirPods Pro 2と新旧比較

アップルのアクティブノイズキャンセリング機能を搭載するワイヤレスイヤホンが第3世代に進化した。9月19日に発売を迎える「AirPods Pro 3」をひと足先に試した。2023年モデルのAirPods Pro 2(USB-C)と比べながら、実機をレポートしていく。

新旧モデルのAirPods Proを比較。高音質化の背景を探る

AirPods Pro 3は「人の声」にフォーカスして音質を改善

AirPods Pro 3にはアップルが独自に開発した高性能チップ「Apple H2」が搭載される。オーディオのバランスやANCの効果、空間オーディオのヘッドトラッキングやSiriなどを一手に引き受けて制御する、高いパフォーマンスを備えたチップだ。

2024年10月に、アップルはAirPods Pro 2に医療機器グレードのヒアリング補助機能を追加した。新しいAirPods Pro 3は同じApple H2チップを搭載しながら、さらにiPhoneのApple Intelligenceと翻訳アプリに連携する外国語の「ライブ翻訳」機能や、心拍数センサーによる心拍と消費カロリーの計測機能も加えた。まだこのチップにこれだけの余力があったことに驚かされる。

音質とANCの性能は、アップルが開催したイベント会場から速報もした。その時は短い取材時間だったので、特に音質を十分に確かめることができなかった。今回は比較のためAirPods Pro 2も用意して聴き比べた。

新しいイヤーチップが装着感や音響の改善に寄与

AirPods Pro 3にも、Pro 2と同じアップルの独自開発による10.7mmのAppleドライバーが搭載されている。ドライバーに変更はないようだが、イヤホンのアコースティック設計は大きく変わっている。

そしてイヤホンの形状も変わった。ドライバーを格納するハウジングはPro 3の方がPro 2よりも少しコンパクトになった。耳に装着した時にノズルがまっすぐ鼓膜に向くよう、ノズル周りのシェイプも変えている。

AirPods Proを使用してきたユーザーなら、すぐに装着感の違いがわかるだろう。ノズルの先端からイヤホンの背中側、つまりハウジングからステムにつながる曲線部分の端までの長さが、Pro 3の方が少し長くなった。少し大げさに言えば、Pro 3の方がノズルの先端が耳の奥までググッと入り込む感じがする。

右がPro 3、左がPro 2。イヤホンの先端がグッと耳の奥まで入り込むようなデザインになった

付属するイヤーチップは先端部分にフォーム素材を封入した、新開発の専用イヤーチップに変わった。Pro 3はノズルの口径が小さくなったので、Pro 2までのイヤーチップと互換性がない。

筆者はこれまでのAirPods Pro 2は、左右ともにMサイズのイヤーチップが耳に一番フィットする。だが今回のAirPods Pro 3では、設定メニューから「音響の密閉状態をテスト」すると、左がM、右がSという組み合わせで良好な密閉状態が得られた。イヤホンの形状が変わったことに起因していると思う。

5種類のサイズが異なるイヤーチップを同梱する

Appleドライバーのモーションを最大化して音質向上を図るため、AirPods Pro 3は「新しいマルチポートの音響アーキテクチャ」を採用している。ドライバーの背圧をコントロールしながら逃がすためのベンチレーション構造を変えて、サウンドの躍動感を引き上げた。

AirPodsシリーズの“音づくり”には、Appleシリコンによるコンピュテーショナルオーディオも深く関わっている。高速演算によりオーディオのバランスを整えるアダプティブイコライゼーションにより、低音域のレスポンスに磨きをかけた。Pro 2に比べると低音域の“こもり”が大きく解消された印象だ。彫りの深い筋肉質なベースラインを描く。

右がPro 3、左がPro 2。ノズルの形状が変更されている

ここでAirPods Pro 3の充電ケースについていくつか情報を補足しておく。Ultra Wide Band(超広帯域)対応の「探す」機能は、充電ケースに新しいチップを組み込んだことによって、正確に探せる距離が1.5倍に拡大した。

それからIP57等級の防塵防水対応については、AirPods Pro 3のイヤホンだけでなく充電ケースも対応する。先に報告した速報レポートの掲載当初、ケースが防水非対応であるという誤った情報を紹介してしまったことをお詫びする。

AirPods Pro 3の音質の特徴はヘッドホン再生のような音の広がり

アップルはAirPods Pro 3の音づくりにおいて、オーバーイヤーヘッドフォンのような音場感をポケットに収まるワイヤレスイヤホンで再現することを目指したという。

AirPods Pro 3を実際に聴くと、見事にそのビジョンを達成していると感じる。立体的で奥行き方向への見晴らしがとても良い。

Apple Musicで配信されている久保田利伸のアルバム「THE BADDEST IV&Timeless Hits」から『You were mine』を聴いた。ANCはオンにして、「ステレオを空間化」の機能を使わずに(ハイレゾ)ロスレス/ステレオ再生で音質をチェックした。

ものすごく情報量に富んでいる。ボーカルの艶っぽさと、楽器の音色の鮮やかさが際立ってきこえる。音像定位の明瞭度も高く、オブジェクトの配置や移動感が活き活きと伝わってくる。Pro 2に比べると、Pro 3の低音はとても精悍で筋肉質な印象を受ける。

Apple Musicで配信されている音源をリファレンスにしてAirPods Pro 3を聴いた。

空間オーディオの楽曲はエド・シーランのアルバム「Play」から『Sapphire』を聴いた。やはり低音の輪郭が定まるAirPods Pro 3のサウンドが、空間オーディオの持ち味を存分に引き出す。高さ方向への音場の広がりも限界を感じさせない。ボーカル、コーラスのシルキーな余韻に包まれる。楽器の音色がとても自然だ。

AirPods Pro 3のアクティブノイズキャンセリングは「丁寧に消す」

新しいAirPods Pro 3のANCは、従来のAirPods Pro 2から、アルゴリズムの更新、イヤーチップの改良を含むアコースティックの改善など、総合的にブラッシュアップしている。その結果、AirPods Pro 2比で「約2倍」の消音効果を実現した。

消音効果の「強さ」に関してはAirPods Pro 2も十分にパワフルだと思うが、試して比べてみると、AirPods Pro 3のノイズキャンセリングは高い消音効果を備えながら、圧迫感が軽減されている。

音楽を再生せずに新旧モデルを聴き比べると、Pro 3はANCがオンの状態でも空間のゆとりを感じさせる。ANCは、ふだんは強さを抑えめにしつつ、発生した環境ノイズをピンポイントでつかまえながらグッと抑制するような感覚だ。

地下鉄やバスの車内に響き渡る交通ノイズや、カフェでは隣で大きめの声で話す人の声もしっかりとブロックする。音楽や動画を再生すると、コンテンツの中に深く入り込めた。

おなじみのAirPodsの設定画面。外部音取り込みモードも進化している

AirPods Pro 3の外部音取り込みは「装着していない」みたいに自然

AirPods Pro 3から「外部音取り込みモード」にもパーソナライゼーションが対応した。ヒアリング補助機能が追加されたことで、外部音取り込みモードを選択した時にもユーザーの耳や顔、上半身を含む身体の形状、あるいはイヤホンの装着状態に合わせたヒアリングバランスのパーソナライゼーションを行う。

外部音取り込みモードでは、特にイヤホンを装着している「自分の声」が一段と聴きやすくなった。本当に“イヤホンを装着していない”みたいだ。

にぎやかなカフェに座って試すと、周囲で話す人の声がきこえてくる方向や足音の移動が、AirPods Pro 3の外部音取り込みモードでは、より鮮明にわかる。アップグレードした内蔵マイクの効果が発揮されている。ハンズフリー通話の音声は通信環境にも依存するが、AirPods Pro 3の方がよりバランスが安定しているように感じた。

iPhone連携の「ライブ翻訳」も試してみた

新機能の「ライブ翻訳」も試した。iOS 26の「翻訳」アプリと、iPhoneのApple Intelligenceの生成モデル、AirPodsのうち、対応する機種(Pro 3/Pro 2/ANC搭載のAirPods 4)が連携する先進的な機能だ。

9月19日の時点で日本語に対応していないので、アップルの発表会の動画をMacのスピーカーで再生しながら英語をフランス語に翻訳してみた。

iOS 26の翻訳アプリを開いて、ライブ翻訳に使う言語をダウンロードするとオフラインでも「ライブ翻訳」が使える

iPhoneで翻訳アプリを立ち上げると、新たに「ライブ翻訳」のメニューが加わっている。「翻訳を開始」をタップして、AirPods Pro 3を装着した状態で会話に耳を傾けると、動画のナレーションに対して1フレーズほど遅れる程度のスピード感で翻訳音声が聞こえてくる。iPhoneの画面には文字で対訳も表示される。

この程度のテンポであれば、対人の日常会話でも役に立ちそうだ。日本語と外国語のライブ翻訳も同じくらい「使えるレベル」なのか、今年後半の日本語対応を心待ちにしたい。

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