王道の三極管、JUNONE再び。真空管プリメイン「JUNONE 845SE」が聴かせる瑞々しい潤い
2024年の「東京インターナショナルオーディオショウ」で参考出展された真空管プリメインアンプ「JUNONE 845SE」が満を持して発売された。トライオードの上位ブランドであるジュノン、精悍なブラック筐体に秘められたドライブ能力の高さを検証する。
オール三極管でハイパワーを得る贅沢な構成
JUNONEブランドの第2弾として発売された「JUNONE 845S」の後継機である。発売は5年ほど前だったと記憶するが、この間の新技術や改良を含めてリニューアルが行われている。
基本構成はプリメインアンプである。ただ管球式の場合プリメインといってもボリューム付きパワーアンプという場合も多く、別建てのプリアンプやパッシブ・アッテネーターなどを前提としているケースも少なくない。しかし本機の場合は真空管を1回路あてがい、パワー部とは別のプリアンプ部が構成されているのが特徴だ。
具体的にはチャンネル当たり2本の12AU7のうち1本の1回路とボリュームでプリアンプ部を形成。残りの1回路が入力段、もう1本の12AU7は並列接続で2段目になる。おそらく入力バッファーとして働いているのかと推測されるが、この前段部の真空管構成が前のモデルとの違いのひとつとなっている。入力インピーダンスも異なり、リファインのポイントでもあるようだ。
パワーアンプ部の核心は直熱管2本による構成で、PSVANE製WE300Bをドライブ段として出力管の845をシングルで動作させている。つまりオール三極管構成で、これでハイパワーを得る贅沢な構成である。
ボリュームには、日清紡マイクロデバイス製(旧新日本無線)MUSESシリーズの電子ボリュームを新たに採用している。旧モデル発売の後同社で徐々に使用し始めたもので、左右差がなくS/Nも良好ということで搭載製品が増えてきた。
本機では入力端子のすぐ後にボリューム・デバイスを配置しているが、ボリュームノブを通らずに増幅回路に入力することができるためシグナルパスを大幅に短縮することが可能となっている。
電源には大型のトロイダル・トランスを搭載。また整流素子にはSiC(シリコンカーバイド)ショットキーバリア・ダイオードを使用し、レスポンスが速く低損失な特性を実現して出力管には1kVの高電圧を安定供給する。
なお電源ケーブルにはTR‐PS2を引き続き採用している。ディップ・フォーミングによる無酸素銅を使用したモデルである。
リモコンから電源オンオフの操作も可能
バイアスは固定バイアスで、バイアスメーターを見ながら簡単に調整が可能。またハムバランサーの調整も同じように行える。

このほかプリアンプ部をバイパスして直接パワーアンプ部に接続するMAIN INスイッチも装備。標準装備のリモコンは電源オン/オフやボリューム、入力切り替え、ミュートが操作できる。
音質レビュー:王道の管球式、三極管の純粋さを利かせた響き
真空管の、特に三極管の瑞々しい潤いを、さすがにこれほど感じさせる音もないと言っていい。多くの人がこれこそ真空管の音だと声を揃えるに違いない、いわば王道の管球式である。
A級動作で出力はチャンネル当たり22W/8Ω。十分なパワーだが、聴いていてそれを誇示するような不自然なスケール感を感じることはない。300Bと845の組み合わせは音量の大きさではなく、主にエネルギーの余裕として働いているものと考えられる。だから音色も音調もまた立ち上がりのスピードや音場の佇まいも、どれもがごくナチュラルでありのままに存在している印象だ。そしてその背後にパワーの余裕があるということである。
バロックは言うまでもなく古楽器の弦の音が新鮮で潤いたっぷりに描き出され、バイオリンもチェロも艶やかで柔らかな輝きがある。リュートや通奏低音のチェンバロなども、くっきりと弾けた出方をするし、どの楽器も立ち上がりが鮮明で活きがいい。そしてそのうえでどこかゆったりとした滑らかな寛ぎを感じさせるのが、パワーの余力というものなのかもしれない。ひとつ上の余裕である。
ピアノはさらに自然な感触に富んだ鳴り方で、肩肘を張った無駄な緊張感がない。低音部の深い響きにも大袈裟なうなりは乗っていないし、高域のタッチは透明で当たりが軽く余韻が豊かだ。そして響きに混濁や曖昧さがなく、すっきりと澄んで見通しがいい。三極管の純粋さが、よく利いた再現性と言っていい。
フォルテでも大音量でガンガン鳴らすような描き方ではなく、質感の透明度と響きの抜けるような感触が最大のポイントである。そこに注目して聴いていると、目の前にピアノが浮かんでくるようなリアリティが感じられる。音の実体感が高いのだ。瑞々しい鮮度に満ちた実在感がことのほか楽しい。
コーラスはひっそりとしたハーモニーの広がり方が、直熱管2種という組み合わせでしか得られない音だとさえ思わせる。高度に澄み切った声の質感と伴奏のハープが、これ以上ないくらい純粋な透き通った響きを作り上げている。濁りがないのはもちろん、どこかに引っ掛かりを感じさせるものが皆無で、まるで異次元の空間を覗くような不思議な惹かれ方をする。ぞくぞくするような瞬間である。
オーケストラは音の純度をぎりぎりいっぱいまで保ちながら、瞬発力の高さや切れのよさにも気を配った印象だ。弦楽器の厚手な質感はどこまでもきめ細かく、力任せの濁りや荒っぽさがない。木管楽器も金管楽器も分離がよく、質感がきれいで汚れがなく、作品の色彩感を華美にならないように丁寧に抑えながら鮮明に描いている。淡彩画のようでもあるが色彩感が薄いということではなく、ぎらぎらしたどぎつい色がないという意味である。立ち上がりに逡巡がないのも本機の特徴と言っていいが、このため歯切れがよくアクセントやコントラストはくっきり付いてエネルギッシュだ。
パワーの余裕が大音量時に発揮されるのは当然で、クライマックスのフォルテでもさすがに混濁してアンサンブルが崩れることはなく、峻烈なアタックが炸裂する。そしてそれが力任せではなく音楽性に溢れたダイナミズムとして表情に富んでいるため、再現がいっそう生き生きと冴えるのである。
(提供:トライオード)
本記事は『季刊・Audio Accessory vol.197』からの転載です
































